『泣き虫しょったんの奇跡』
豊田利晃
プロになる夢を諦めなかった男に、自分を重ねてみてほしい。
阿部広太郎 コピーライター、映画プロデューサー人はいつ諦めることを知るのだろう。目標に対して心が折れてしまった時? 才能がないと他人から言われてしまった時? はたまた現実を直視しなくてはいけない時だろうか?
本作は、10歳の頃から将棋にのめり込んできた“しょったん”こと瀬川晶司が、26歳というプロ棋士になるための年齢制限の壁にぶち当たる話だ。奨励会に入会し、22歳の夏に三段昇段を果たすしょったん。26歳の誕生日までに四段になれればプロ棋士になれる。あと一段が、永遠の様に感じる。上には上がいると、突きつけてくる勝負。負けても、この踊り場から降りる訳にはいかない。夢にまっすぐ向き合うのが怖いから、現実から逃げるように仲間と遊んでしまう。次々と去るライバル。駒を持つ手が震える。きっと大丈夫だ……心の叫びがチャンスの潰える瞬間まで聞こえてくる。
奨励会に年齢制限はあっても、将棋との関係は生きている限り続く。その関係は、応援し続けてくれた父親、切磋琢磨してきた親友と育んできたものだ。ある出来事を契機に、しょったんは再び駒を手に取る。迷いも消え、気持ちよく指していく将棋に、味方が増えていく。たくさんの仲間に背中を押され、前代未聞の再挑戦へ——。
現実と上手く付き合うためには、ほどよい諦めが必要だ、というのはわかる。でも、他人がどう言おうが、評価や条件がどうであろうが「諦めない」を貫けば必ずなにかのかたちになる。将棋を描き切ったこの映画には、諦めなかった人間の涙が映っている。劇中に、ピシリと駒を並べる姿が象徴的に登場する。その所作を、ペンを執ること、シャッターを切ること、マイクを持つこと、あなたの日常に置き換えてほしい。初心を忘れず歩を進めよと教えてくれるはずだ。
『泣き虫しょったんの奇跡』
監督:豊田利晃
出演:松田龍平、野田洋次郎ほか
2018年 日本映画 2時間7分 9月7日より全国の映画館にて公開。
http://shottan-movie.jp