スケボー動画にアメリカの生きづらさが滲むドキュメンタリー、『行き止まりの世界に生まれて』。
【Penが選んだ、今月の観るべき1本】
シカゴから西北約135㎞の所にある人口15万人ほどの街ロックフォード。かつては製造業で栄えたが、産業の空洞化によって停滞を余儀なくされている「ラストベルト」の西北端にある。
映画はこの街に暮らす3人のスケーターの挫折と成長を、そのうちのひとりである中国系のビン・リューが撮った映像によって描く。3人が荒んだ街の中をスケボーに乗って疾走していく姿はあまりに軽やかだ。しかし、その風のような軽やかさとは裏腹に、彼らが内に癒えることのない傷を抱えていることを彼ら自身の言葉によって知らされる。彼らにとってスケボーは趣味や気晴らしではなく、コントロールが利かない人生の中でどうにか制御できる唯一の小さな「空間」だった。
ビンがかつて頻繁に通っていたスケートショップのオーナーは、彼が他の少年たちとは異なっていたことに気付かされる。ビンにとってスケボーは、かろうじて生き抜いていくための手段だった。黒人の友人、キアーの板には「この道具は心の痛みを癒す」と手書きで描かれていた。
この映画は非常にパーソナルな作品だ。3人に共通する心の痛みを、ビンが共感あふれる知性でつないでいく。しかし、背景に浮かび上がるのは見捨てられたアメリカの政治的風景だ。
当初ビンは、カッコいい動画を撮ってやろうというつもりだったに違いない。しかし、それが心の声に耳を傾ける行為に変わっていった。いつビンは、この映像を作品化しようと思うに至ったのだろうか。その瞬間は、友人のザックがガールフレンドに暴力を振るっていることを知った時ではないか。3人の共通項は親から暴力を振るわれていたことだ。この作品にわかりやすい希望はない。唯一の希望はビンの共感あふれる知性だ。
『行き止まりの世界に生まれて』
監督/ビン・リュー
出演/キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リューほか
2018年 アメリカ映画 1時間33分 9月4日より新宿シネマカリテほかにて公開。
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