『ロケットマン』
デクスター・フレッチャー
エルトンの魂が憑依したか!?エガートンの歌と演技に圧倒。
森 直人 映画評論家エルトン・ジョンに扮する主演、タロン・エガートンのなりきり演技が圧巻だ。まさに僕の歌は君の歌――「ユア・ソング」の歌詞のような親密さで破格のポップスターに一体化する。
監督は『ボヘミアン・ラプソディ』の前任降板後を務めたデクスター・フレッチャー。あちらはクイーンのオリジナル音源の取り扱いが卓越していた。一方『ロケットマン』は役者自身の歌唱も含めたパフォーマンスが作品を牽引する点において、ヴァル・キルマー主演の『ドアーズ』やジェイミー・フォックス主演の『レイ』の達成と並べるべきではないか。
エガートンはアニメ『シング』でも声優としてエルトン・ジョンの「アイム・スティル・スタンディング」を歌った。続いてエルトン・ジョンが愉快な本人役(ほぼ「ファック」しか言わない)で出演した『キングスマン:ゴールデン・サークル』では共演も果たしている。そこで魂の憑依が始まった。容姿のコンプレックスからド派手(過剰)にデコるようになる天才の栄光と孤独を、イケメンながら過不足なく体現するエガートンは、まるで“少女漫画のエルトン・ジョン”だ。
映画のつくりとしては偉人伝を兼ねた正攻法のロック・ミュージカル。幼い頃から早熟の才能を発揮したこの神童(どこかシューベルトを思わせる)も、音楽だけでは救われなかったことをよく示している。必要なのは愛。これは真のパートナー探しまでの混迷の旅の物語でもあり、BLという言葉では追いつかない切実さが強くにじむ。
タイトルになった名曲「ロケットマン」は、同性愛者を公言する女子テニス選手ビリー・ジーン・キング(エルトン・ジョン・エイズ基金とともに支援活動を行っている)を描く『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』でも使われた。本物の歌と比べても、エガートンの“伝える力”は遜色ない。
『ロケットマン』
監督/デクスター・フレッチャー
出演/タロン・エガ-トン、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワードほか
2018年 イギリス・アメリカ合作映画 2時間1分 8月23日より全国の映画館にて公開。
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