『ファヒム パリが見た奇跡』
監督/ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
家族が生き抜くために闘った、チェスの天才少年に胸を熱くする。
池辺麻子映画ライターバングラデシュからパリに逃れた政治難民の少年が、強制送還の脅威に晒されながらチェスのチャンピオンを目指した実話が映画化された。
政変が続くバングラデシュのダッカで天才チェス少年として知られるファヒム。しかし、大会で勝利を重ねる彼への妬みや父親が反政府組織に属していたことから、一家はたびたび脅迫を受けていた。父親は家族を守るため、息子を連れてパリへと脱出する。
バングラデシュを出る段階から既にスリリングだ。バスに乗り、ヒッチハイクで検問をごまかして国境を越え、列車の屋根に乗って空港へ。パリに着いたファヒムがフランスで有数のチェスのトップコーチ・シルヴァンと出会い、独特の指導に戸惑いながらも師弟関係を超えた絆を深めていく過程は、チェス教室の子どもたちのかわいらしさやシルヴァン役の名優ジェラール・ドパルデューの安定感もあり、見どころが尽きない。一方、父親は難民申請を却下され、強制送還の危機に直面。ついには姿を消してしまう。父子の前にはさまざまな差別や社会の壁が立ちはだかるが、ファヒムには強力な駒があった。チェスのフランス王者になることだ。今回の勝負はいままでとは違う。家族みんなが生き抜くための戦いなのだ。シルヴァンもまた、ファヒムと出会ったことでようやく過去の自分に決着をつける。
撮影当時、ファヒムを演じるアサド・アーメッドは、演じる役同様にバングラデシュからフランスへ移住したばかりだった。偶然と言いたいが、世界にはそれだけ政治亡命者が多いということでもある。チェス教室を主催するマチルドが終盤で見せる「首相への質問」は、世界中の政治家に見てほしいシーン。家があり、家族で過ごすことの大切さに気付かされた昨今、父と子の願いが観る者の胸を熱くする物語だ。
『ファヒム パリが見た奇跡』
監督/ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
出演/ジェラール・ドパルデュー、アサド・アーメッドほか
2019年 フランス映画 1時間47分 8月14日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。
https://fahim-movie.com/