『空想映画地図[シネマップ]名作の世界をめぐる冒険』
アンドリュー・デグラフ画 A.D.ジェイムソン著 吉田俊太郎訳
シーンや台詞をもとに描き出す、渾身の絵地図が楽しい!
久保玲子 映画ライターJ・R・R・トールキンが描いた地図を眺めながら『指輪物語』を読むと、フロドと仲間たちの旅の風景が浮かび上がり、その遥かなる道のりがリアルな感動として押し寄せてくる。近年発見された『中つ国の建国スケッチ』からは、トールキンがエルフ、ホビット、ドワーフ、人間といった多様な種族と、文化や歴史、住環境を詳細に創造してまずは地図に起こし、そこから壮大な物語を紡いだことがわかる。また残された膨大なスケッチや、色彩も美しいイメージ画からは、彼が優れたイラストレーターであったと知れる。
そんなトールキン原作の映画『ロード・オブ・ザ・リング』の地図が「完成までに1000時間を要した」作品として描かれているのが、一風変わった映画ガイドの本書だ。なにが変わっているかというと、アメリカ人イラストレーターのアンドリュー・デグラフによる映画地図の本である点。地図好きの幼少期を経て映画フリークになった彼は、地図と映画という趣味を融合させ、トールキンが苦手だと語った「物語から地図を起こす」方法で、まず『グーニーズ』の地下洞窟を描いた。さらにヒッチコックの『北北西に進路を取れ』ではグラフィック・デザイナーのソール・バスに触発されてケーリー・グラントの軌跡を加え、『スター・ウォーズ』では主要キャラクター全員の足跡を描き出してみせる。『続・夕陽のガンマン』では米国西部を模したスペインの砂漠でのイーストウッドやリー・ヴァン・クリーフらの攻防、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ではマックスとフュリオサ一行とイモータン・ジョーの死闘……。
何十回と映画を見直し、台詞とサントラを聴きまくり、登場しないロケーションまでもリサーチしながら描いた絵地図を眺めていると、カリスマたちの物語が鮮やかに蘇る。その声までもが、聞こえてくるようだ。
『空想映画地図[シネマップ]名作の世界をめぐる冒険』
アンドリュー・デグラフ画 A.D.ジェイムソン著 吉田俊太郎訳
フィルムアート社
¥3,456(税込)