『ネンドノオンド』
佐藤オオキ 著
デザイナー同士だから実現した、型破りなインタビュー集。
土田貴宏 デザインジャーナリスト/ライターインタビューをする際の基本は、まず取材相手を徹底的に調べることだろう。限られた時間の中で、こちらが相手について十分な知識をもつことを伝え、ある程度の信頼と親近感が芽生えて、初めて本当のコミュニケーションが可能になる。つまり意味をもつ言葉のやりとりが始まるのだ。
という意味で、本書は反則だ。日本有数のデザインスタジオ「ネンド」の代表として、国内外で大活躍している佐藤オオキの存在を知らないデザイナーはいない。そんな佐藤が、やはり世界の第一線で活動するデザイナーたち17組に面と向かって聞いた話をもとに、本書は構成されている。普段はライバルでもある者同士、どの対話もデザインやインテリア業界の本質へ安々と踏み込んで、他では聞けない内容が目白押しだ。
しかもその対話は、単純な書き起こしではなく、取材時の印象からデフォルメを加えた。故にマルセル・ワンダースは「ヤクザ風」、パトリシア・ウルキオラは「肝っ玉母さん」と、取材相手の口調はキャラクターに合わせて変幻自在。やや誇張は感じられるが、読み手の想像を膨らませる非凡な演出力はネンドの作風に通じる。ただしデザインについての本音は、あくまで真剣だ。ワンダースは「オレは『つながる』ためにつくってるんだよ。『個人』とではなく『世界』とな」と言い放ち、ウルキオラは親しかったブランドの創業者が亡くなった時の思い出をとうとうと語る。佐藤オオキというフィルターを通して、現代のデザインシーンのリアルが見事に言語化されていく。
さらに印象深いのは、登場するデザイナーたちと佐藤が、仕事の可能性や問題意識を自然に共有している姿である。デザインは国境を超えたツールであり、文化なのだ。本書は肩肘張らないネンド流の切り口で、そのパワーと魅力を伝えてくれる。
『ネンドノオンド』
佐藤オオキ 著
日経BP
¥1,944(税込)