『アニマ』
トム・ヨーク
トム・ヨークが新譜で問う、表層だけで生きる者の魂の在処。
鈴木宏和 音楽ライター間もなく開催される「フジロックフェスティバル’19」に、トム・ヨークがソロのトゥモローズ・モダン・ボクシーズ名義で出演する。個人的には違和感を禁じ得ない光景なのだが、近年の彼のライブでお馴染みとなった、パフォーマンス中は会場中が静まり返り、終わると思い出したかのように大歓声が湧き起こるという、あの不思議な磁場が苗場に作り上げられるのだろう。
それにしても、ずいぶんと遠いところまで来たものだ。いまだレディオヘッド「クリープ」の幻影を追おうとしている自分のようなリスナーは、ファンにとって原始人みたいなものかもしれないが、瞑想音楽とも脳内音楽とも呼びたくなる、こんな異端サウンドの境地にトム・ヨークが達するとは想像もできなかった。ましてや、「決してひとりでは観ないでください」のコピーで日本(の一部世代)を震撼させた、傑作ホラー映画『サスペリア』のリメイク版でサントラを手がけるなんて。
来日直前に届いたソロ3作目『アニマ』は、本人によると、昨年行われたトゥモローズ・モダン・ボクシーズのUSツアーが発展してできたアルバムで、不安とディストピアがインスピレーション源だったのだとか。そのことは、今作の音と歌を耳にすれば一聴瞭然だ。密室に閉じ込められたような感覚に陥る神経症的な多重ボーカル、悲鳴にも聴こえる衝動的な叫び、葬送曲を思わせるトラックに乗る独白、脳を麻痺させる反復メロディ、浮遊する不協和音、呪文にも似たコーラス。そこから立ち現れてくるのは、ユートピアとは真逆の八方塞がりな闇の世界であり、安らぎなど許されない。
『アニマ』とは魂の意味だが、これは“いいね!”に支配され、表層だけで生きる者たちの魂の在処を問う作品なのかもしれない。そして、目を覚ませ、真実を知れというトム・ヨークからの警告なのかもしれない。
『アニマ』
トム・ヨーク
XL987CDJP
ビートレコーズ
¥2,700(税込)
7/17発売