『ウェザー』
ティコ
フジロックフェスティバル '19に出演決定。グラミー賞にもノミネートされたアーティストが初挑戦した、歌ものポップスとは。
木津 毅 ライターサンフランシスコ出身のスコット・ハンセンによるエレクトロニック・ミュージック・プロジェクトであるティコは、宅録をメインとするソロ形態として始まったが、のちにバンドとなり生音をふんだんに取り入れることで、よりオーガニックでスケールの大きなサウンドへと進化してきた。前作『エポック』はその集大成と言えるもので、ダンサブルなグルーヴとメランコリックなメロディをダイナミックなバンド・アンサンブルのもとで融合させ、インディ・ロックとクラブ・ミュージックを見事に繋いでみせた。
通算5作目となる『ウェザー』では、その地点からさらに新機軸を打ち出している。「セイント・シナー」を名乗る若手の女性シンガー、ハンナ・コットレルを大々的にフィーチャーし、インストがメインだったこれまでと異なる歌もののポップスに挑戦しているのだ。有機的なグルーヴはそのままだが、音の要素を絞ることでボーカルを際立たせており、過去もっともキャッチーな仕上がりに。アンビエントを思わせる繊細な音響によるシンセ・サウンドがセイント・シナーの透明感のある歌声と見事にマッチ。R&Bやシンセ・ポップ、エレクトロニカからポスト・ロックまでを緩やかに横断しながら、心地よいサイケデリアを立ち上げる。
ボーカルをテーマにした理由について、ハンセンは「音楽の、より人間的な部分を明らかにしたかった」と語っており、エモーショナルな作品であることは間違いない。シングル「ピンク&ブルー」では男女を同時に愛することをモチーフとして、ジェンダーを限定しない心の動きが柔らかく描かれている。グラフィック・デザイナーでもあるハンセンが制作に参加した鮮やかな色彩のMVも必見だ。出演が決定している「フジロックフェスティバル」の舞台でも、きっと美しい情景を見せてくれるだろう。
『ウェザー』
ティコ
BRC-602
ビートレコーズ
¥2,592(税込)
7/12発売