サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する
梯 久美子 著
宮沢賢治が樺太で感じたものは?訪れた作家の足跡から島に迫る。
今泉愛子ライター北海道の北側に位置するサハリン島は、アイヌやニブフ、ウィルタなどの少数民族が居住する島だった。南北に細長く、面積は北海道と同じくらい。日本ではかつて樺太島と呼ばれ、島の領有はこれまで何度か日本とロシア(ロシア帝国、ソ連を含む)との間で変遷している。日露戦争後の1905年には、北緯50度線を国境として南北に分割され、北部はロシア帝国(のちにソ連)領、南部の南樺太は日本領に。第2次世界大戦後は日本が南樺太の領有を放棄し、国際法上は帰属未定となったが、現在はサハリン州として事実上ロシアに編入されている。
ノンフィクション作家の著者が本書で綴るのは、かつて多くの文学者が旅をしたこの島の歴史と風土だ。
ロシアの小説家、アントン・チェーホフはモスクワからなんと3カ月近くかけてサハリンにたどり着き、3カ月間過ごしたらしい。日本人では、北原白秋や林芙美子、宮沢賢治、村上春樹らが訪れている。本書のタイトル『サガレン』は、満州語、あるいはアイヌ語を語源とした古い呼び方で、賢治が作品で使っていたものだ。
著者は、鉄道でこの島を縦断し、文学者たちの足跡をたどりながら、島にゆかりある作品を紹介。旅によって彼らの心がどう動いたかを解説する。
宮沢賢治は、妹のトシが死んだ翌年に訪れた。この地で創作した詩からは、妹を失い悲嘆に暮れていた賢治が島の自然に目を向け、少しずつ元気になっていく様子が読み取れる。
華やかな観光名所はほとんどない。統治者が何度となく変わった歴史的経緯から、廃虚も多い。日本語で書かれたガイドブックはほとんどなく、地図ですら簡単には手に入らない。
かつては国境線が存在したこの島に広がる、茫漠とした大地を眺めてなにを感じたか。土地がもつ歴史の重みを静かに伝える紀行文だ。
『サガレン樺太/サハリン境界を旅する』 梯久美子 著 KADOKAWA ¥1,870(税込)