未曽有の苦境に置かれた飲食業界で、シェフたちはどう考えたか

未曽有の苦境に置かれた飲食業界で、シェフたちはどう考えたか

文:今泉愛子

『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』 井川直子 著 文藝春秋 ¥2,090(税込) 著者の井川直子は文筆家で、料理人、生産者、製造業など食と酒にまつわる「ひと」と「時代」をテーマにした取材、エッセイを執筆する。おもな著書に『変わらない店 僕らが尊敬する昭和』『シェフを「つづける」ということ』など。

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ライターの井川直子が飲食店の店主を取材して、「何が正解なのかわからない」と題した記事の公開をウェブ上で開始したのは、2020年4月8日、東京都を含む7都府県に緊急事態宣言が発令された翌日のことだった。同年3月から東京都知事は、都民に不要不急の外出自粛を呼びかけていたが、飲食店へは休業ではなく、時間短縮営業を要請。補償はなし。休業か営業か、営業するとしてもどんな方法が適切なのか、という難しい判断を店主たちが迫られている様子を綴った。

「コロナ禍の影響を受けている飲食店に対して、自分にできることはなんだろう、とずっと考えていました。テイクアウトを利用して『食べて応援』はしていましたが、書き手の私がそれだけでいいのか。そう考えていた時に、店主たちとの話の中で『何が正解なのかわからない』という言葉が出てきたんです。まさにテーマが降りてきた瞬間で、ようやく自分にできることが見つかった、と思いました」と、井川は語る。

そこからは怒涛のような日々だった。連日のように取材し、翌日には記事をアップ。宣言が解除された3日後の20年5月28日までに、34人を取材した。公開した記事は、飲食業関係者以外からも大きな反響を呼んだ。

「まったく違う分野の方からも『励まされる』という声がたくさん届きました」

そして半年後の10月、再び34人にその後を取材。2回の取材における生の声をまとめたのが本書だ。「初回は、途中で声を詰まらせる人もいました。それまでの価値観が崩壊してしまい、この先どうなるんだという恐怖に襲われていた人が多くいたんです。ところが、10月に取材した時はほとんどの人が未来を見ていました。元に戻れないと悲観するのではなく、たとえ元に戻ったとしてもそれは新たな気づきを得た世界だろうと言う人もいました」

正解がわからない日々は続く。しかしそれでも彼らは前を向く。



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