2020年3月頭、欧州各国でロックダウンが始まった頃から、しょっちゅう耳にするようになったドイツ語がある。「ハムスターする(hamstern)」、または「ハムスター買い(Hamsterkäufe)」。ハムスターが頬袋に食べ物を詰め込む姿からの連想で、買いだめをすることだ。まずは除菌剤やトイレットペーパー、パスタに缶詰がターゲットに。次に店頭から消え始めたのが、小麦粉とイースト。パンの材料である。世界各国、考えることは同じなようで、パンは自宅で焼いたほうが安心だし、巣ごもり中の楽しみにもなるというわけだ。ことに、扱っている量や店が多くなかったイーストは一時、品切れ店が続出した。
そんな折、イーストの代用品として名前が挙がったのがビール。多くのレシピが薦めるのは「ヘーフェヴァイツェン」。酵母が入った無濾過の小麦ビールだ。ビール100gに小麦粉10gと砂糖5gを混ぜ、15時間以上放置すればイーストの代用品が出来上がる。これと、通常のパンづくりで必要な水分量100㎖分を置き換えるだけ――という簡単なレシピにつられて、やってみることに。せっかくつくるなら、ビールのお供にぴったりなブレーツェル(プレッツェル)を! 焼き上がったパンは、熱々の生地からほんのり甘い小麦粉の香りが立ち、ビールが進む味だった。
そういえば、日用品の買い占めが進んでも、ビールだけは売り切れることがなかった。もともと製造量が多いこともあるだろうが、コロナ禍にあってアルコール全体の売れ行きが上がっている中、赤ワインの47.5%増(昨年比)に対して、ビールは11.5%増。やはりビアガーデンやビアホールで、わいわいと飲んでこそビールは美味いということか。5月4日からドイツでは第二段階の規制緩和が始まり、首都を擁するベルリン州では5月15日に飲食店の、そしてビールをなにより愛するバイエルン州では5月18日からビアガーデンの営業再開が決まった。密にならないように注意しながらも初夏の爽やかな空気の中、ビールを存分に楽しみたいものだ。