『すずめ』
J・ラモッタ・すずめ
エリカ・バドゥの継承者現る⁉ 魅惑のネオ・ソウル歌手 J・ラモッタ・すずめ。
山澤健治エディター/音楽ジャーナリストブルーでダウナーなテイストが主流になりつつある現在のR&Bシーンだが、個人的には胸がキュンとしたり、気分が高揚し身体が熱を帯びるようなソウルやR&Bの伝統が復活することを願っている。最近、エラ・メイ「ブード・アップ」のヒットをきっかけにオーセンティック回帰の機運が高まっているのは、そうした考えが少数派でないことの証左とも言えるだろう。
70年代ニュー・ソウルの感覚とヒップホップ世代の感性を融合させたデビュー作で昨年登場したJ・ラモッタ・すずめも、そんなオーセンティック回帰を後押しする逸材。新作『すずめ』でも、胸のチュンチュン、いやキュンキュンが止まらない、魅惑のネオ・ソウルをたっぷりと聴かせてくれる。
デビュー作でも明らかだったが、ネオ・ソウルの女王エリカ・バドゥの継承者たる存在感は『すずめ』でも健在だ。ジャジーなオーガニック・ソウル「Shake It」での歌いっぷりたるや、まるでエリカが憑依したかのよう。ただし、エリカ一辺倒になるほど引き出しの少ないタイプではない。アルバム冒頭を飾る究極のメロウ・ソウル「If You Wanna」では、宇多田ヒカルをも想起させる、ほんのり甘い可憐な歌声で聴き手のハートをわしづかみにする。
引き出しの多さは、歌唱だけの話ではない。全編セルフ・プロデュースした本作はまた、J・ディラを敬愛する彼女のビートメイカーとしてのショーケースでもある。ヒップホップとジャズのビートを巧みに融合した「Where's The Sun In Berlin」はその最たる例だろう。さらに、故郷イスラエルのメロディを溶け込ませた「Deal With It」などは、モロッコ出身の両親のもと、伝統的なアラビア音楽を聴いて育ったマルチカルチュラルな資質なくしては誕生しなかった曲と言っていい。
多彩な才能を開花させた、静かに熱い傑作をぜひ聴いてほしい。
『すずめ』
J・ラモッタ・すずめ
PCD-24815
Pヴァイン
¥2,592(税込)