『超プロテスト・ミュージック・ガイド』
ステファン・ジェルクン
不穏な時代だから聴きたい! 政治に異を唱えるプレイリスト
新谷洋子 音楽ライターその昔、時の政権に歌で異を唱えたがゆえに、ヴィクトル・ハラは命を落とし、カエターノ・ヴェローゾは投獄され、ミリアム・マケバは亡命を余儀なくされた。これらは極端な例だが、歴史を通じてミュージシャンたちは言葉と音でポリティカルな意思表示をし、場合によっては為政者が脅威を感じるほどのインパクトを与えてきた。ならば、なにをもってポリティカルな音楽と呼ぶのか? 本書からは、さまざまな形の差別、搾取、自由の制限、不公正を糾弾し、議論する場をつくり出して変革を求める音楽――というラフな定義が浮かび上がる。
もっとも、これはガイドと銘打っていながら系統立てたマニュアルの類ではなく、呼びかけ人のアーティスト兼作家ステファン・ジェルクン他、23人の選者によるプレイリスト集だ。おもに、イギリスのアンダーグラウンド・カルチャー界で長年活動する著述家やDJが、自分になんらかの政治的な影響を与えた曲をセレクトし、解説を添えている。本書がイギリスで出版されたのは2011年だが、邦訳に際して、日本からさらに10組の選者が参加。各人の出自や嗜好を反映させたセレクションの切り口は十人十色で、2000年代のヒップホップに特化したり、イタリアの左派運動に関わる曲に特化したり……。総じてマニアックでランダムであるがゆえに、ジャンルや題材が幅広く網羅されており、表現方法の多様さに驚かされる。
日本版登場の時期も悪くない。不穏な世界情勢を受けてミュージシャンはポリティカルな志向を強めており、ここに紹介された500近い曲には、現在も有効なものが多々ある。変わらぬ世の中を嘆かずにいられないが、同時に、投獄などされることなくこういう音楽を鳴らす権利、つまり表現の自由のセレブレーションとしても、説得力あふれる一冊だ。
『超プロテスト・ミュージック・ガイド』
ステファン・ジェルクン 編
鈴木孝弥/シンドストラン・ラヴ 訳
Pヴァイン
¥3,132