『ア・ソング・フォー・エブリ・ムーン』
ブルーノ・メジャー
腰を据えて聴いてみればわかる、ブルーノ・メジャーの1stアルバムの音の隙間に漂う感性の美しさ。
加藤一陽 「音楽ナタリー」編集長ロンドンを拠点に活動しているSSW(シンガー・ソングライター)、ブルーノ・メジャーの1stアルバム『ア・ソング・フォー・エブリ・ムーン』の日本盤が発売された。
〝SSW〞と言えば弾き語りのスタイルがパブリックイメージだったのも随分と前の話。DAWが普及して20年近くが経過した今では、イギリスのジェイムス・ブレイクやサム・スミス、シンガポールのチャーリー・リム、アメリカのルーク・レヴェンソン、日本では小袋成彬など、サウンドメイクへも意識を向けながら自身のアートを表現するSSWが次々と登場している。ここで紹介するブルーノ・メジャーも、そんなSSWの系譜にいる1人だ。
本作は、彼が2016年から1年間にわたり毎月新曲を配信し続けたプロジェクトの楽曲をまとめたもの。海外では昨年末に発表されており、既に世界中の音楽ファンからプロップスを集めている。音の方向性は多彩で、全体の雰囲気はレトロ。派手さはないものの、随所にちりばめられたジャジーな響きやソウルフルな歌声がキラキラと輝きを放ち、そんな朴訥とした美しさこそが作品の大きな魅力となっている。
また憂いを帯びた声はそれだけで〝音楽〞と呼べそうな逸品で、アナログ的なサウンド・アプローチや大胆なエフェクト・ワークと相まって、高い独自性が生み出されている。特に「Easily」の1分37秒あたりでうっすら感じられる〝ピアノの気配〞からは、SSWに留まらないサウンド・クリエイターとしての自意識が強く感じられた。
小説などは「行間を読む」と言われるが、本作は全体を通して、音と音の間に流れる気配のようなものがとても美しい。だからこそ、できれば腰を据えてじっくりと聴くことをお勧めしたい。音の隙間から、作り手の感性を生々しく感じ取ることができるはずだ。