『There’s a Riot Going On』
ヨ・ラ・テンゴ
インディ・ロックの良心が示す、 “暴動”の裏にある意味とは。
鈴木宏和 音楽ライター30年以上に及ぶ地道な活動で、ここ日本にも根強いファンベースを持つヨ・ラ・テンゴは、米インディ・ロック界の良心とも呼べるバンド。根っからの天然なのか、単なる気まぐれなのか、それとも実は確信犯なのかわからないが、彼らの音楽性にはポップネスあふれる親しみやすい側面と、強烈なアート志向や実験精神を感じさせるアヴァンギャルドな側面があり、時にその両極を行き来することを自ら楽しんでいるようにも見える。
オリジナルとしては、シカゴ音響派の代表格、トータスのジョン・マッケンタイアのプロデュースで話題を呼んだ『FADE』以来、5年ぶりとなる新作のタイトルは『There,s a RiotGoing On』。ファンクの傑作として名高いスライ&ザ・ファミリー・ストーンの1971年の作品(邦題は『暴動』)と同名であることに、お気づきの方は多いだろう。
つまり、70年代初頭にアメリカを覆っていた失望感を描いたと言われる、スライ作品に通じる暗鬱さに満ちたアルバムを、彼らはトランプ政権下の母国に向けて送り出したということ。そう思ったのだが、違っていた。本稿執筆時点で歌詞対訳は未着ながら、今作でヨ・ラ・テンゴは、暴動の負のエネルギーをネガポジ変換するかのように、ジェントルでドリーミーなポップ・サウンドに乗せ、温かみのある美麗なメロディを紡ぎ出しているのだ。
ただ、美メロと耳障りなノイズが不協和音を生むナンバーが挿入されていたり、中盤には先が見えない霧の中や、鬱蒼とした密林に迷い込んだかのような、不安を駆り立てるインストが並んでいたりするので、混沌の闇から希望の光を見出そうとするアルバムなのかもしれない。歌詞を読み込んでこそ全貌に近づけるのだろうが、相変わらず奥の深い、聴きごたえのある作品で魅了してくれるバンドだ。
『There’s a Riot Going On』
ヨ・ラ・テンゴ
OLE13482
ビート・レコーズ
¥2,160