スピルバーグがいま伝えたい、「報道の自由」というメッセージ

『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』

監督/スティーヴン・スピルバーグ

スピルバーグがいま伝えたい、「報道の自由」というメッセージ

壬生智裕 映画ライター

ワシントン・ポスト紙のトップであり、アメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハムを演じるメリル・ストリープと、編集主幹役 のトム・ハンクス。ハリウッドを代表する名優ふたりの共演は、意外にも本作が初めてである。©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC

2017年、アメリカで共和党のドナルド・トランプ政権が誕生して以来、多くのハリウッドセレブたちがトランプに「ノー」を突きつけてきた。 

熱心な民主党支持者である本作監督のスティーヴン・スピルバーグ、俳優のトム・ハンクス、メリル・ストリープらもそのひとりである。それゆえに彼らがタッグを組んだ最新作のテーマが、「報道の自由」というのは、決して偶然ではないはずだ。 

1971年、ベトナム戦争の戦死者が増加の一途をたどっていた時代。なぜこの戦争は泥沼化したのか……? 国防総省が調査・分析したベトナム戦争に関する文書は、7000枚もの膨大な量に膨れあがっていた。 

そんな歴代政権にとっての〝不都合な真実〞が記された政府の最高機密文書がメディアに流出。ワシントンポスト紙もその文書を入手するが、火消しに躍起になっているニクソン政権は、その秘密文書を明らかにしようとするメディアに圧力をかけようとしていた。 

権力に真っ向から対立して、その機密文書を紙面に掲載するべきか。それとも新聞社の経営を安泰化させるためにも政権からの圧力に屈し、今回は掲載を見送るべきか。同紙の経営者、編集主幹たちは決断を迫られる……。 

本作が描く71年の状況が、トランプが主要メディアを「民衆の敵」と決めつけ、報道の自由を脅かそうとしている2018年と、驚くほどに重なる。 

この映画の製作が発表されたのは、2017年1月のトランプ大統領就任からたった45日後のこと。当時、スピルバーグはSF超大作『レディ・プレイヤー1』の仕上げ作業中だったにもかかわらず、並行して本作を製作することを決意。1年も経たないうちに劇場公開までこぎ着けた。

「いますぐにこの映画を撮らなければならない」と語るスピルバーグらの、切実な思いが貫く一作だ。

『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』

監督/スティーヴン・スピルバーグ
出演/メリル・ストリープ、トム・ハンクスほか
2017年 アメリカ映画 1時間56分

スピルバーグがいま伝えたい、「報道の自由」というメッセージ