【Penが選んだ、今月の音楽】
トレンドセッターと呼ばれる人には、特別な嗅覚が備わっている。1980年代よりUKクラブ・シーンのキーパーソンとしてアシッド・ジャズのムーブメントを世界に広め、その後も世界中の優れた音楽をキュレーションし、発信し続ける世界最高峰のトレンドセッター、ジャイルス・ピーターソンも実に鼻が利く男である。
DJとして、レーベルオーナーとして、トレンドを生み続けるジャイルスが今回仕掛けるのは、ブリット・ファンク・ルネサンス。いまもアシッド・ジャズ~ジャズ・ファンクの頂点に君臨するバンド、インコグニートの総帥にして敏腕ギタリストとしても名を馳せるブルーイをパートナーに新プロジェクト、ストラータを立ち上げたのだ。それも昨年9月に発表し、即完売となったシングル「アスペクツ」の段階ではプロジェクトの詳細は伏せたまま。この覆面グループがDJや音楽ファンの話題を集めたのはいうまでもない。
あれから半年、素性を明かして発表したアルバム『アスペクツ』では、躍動感と陶酔感を併せもつブリット・ファンクの魅力をフルスケールで提示。70~80年代のジャズ・ファンクの発展形として誕生した80年代初頭のブリット・ファンクにあった、同時期のパンク・バンドに匹敵する激しさも余すことなく録音する念の入れように、ブリット・ファンク再びの本気度がうかがえる。
それにしても、コロナ禍の憂鬱を晴らすのにこれほどふさわしい音楽は他にはないだろう。タイトなリズム隊の演奏に裏打ちされた、生々しいまでのエネルギーにあふれたブリット・ファンクの連続に、きっと誰もが憂さを晴らして踊り出したい衝動を覚えるにちがいない。それをパンデミックを見越したように仕掛けたジャイルスの嗅覚には恐れ入るばかりだ。