『イッセイさんはどこからきたの?』
小池一子 著
日本のファッション・デザインに、挑戦してきた巨匠の軌跡。
高橋一史 ファッションライター目を引く装丁だ。思わず手にとってしまう。白いハードカバーの表紙と背表紙に、漢字を一切使わずにタイトルと著者名が記されている。装丁を手がけたのがアート・ディレクターの浅葉克己、図版はグラフィック・デザイナーの横尾忠則と聞き、「大人向けの絵本なのだろうか」と軽やかにページをめくっていく。すると、そこに表れたのは、意外にも硬質な文体だ。情感に流されず、あるひとりの人物の思想と行動を伝えようとする、クリエイティブ・ディレクターの小池一子の抑えた文章で、最後まで通されている。
タイトルの「イッセイさん」とは、ファッション・デザイナーの三宅一生のことだ。本書は彼を学生時代から知り、活動をつぶさに目にしてきた小池の、時代の証言である。三宅が手がけてきた革新的なデザイン、ファッションショーや展覧会、アート界との関わり、さまざまなクリエイティブパーソンとの交流が、時系列に沿って1970年代から現在まで驚くほど詳細に記述されている。全206ページのほぼ半数が日本語による文章で、残り半分が英語のバイリンガル方式だ。横尾忠則の図案は、77年から99年まで彼が描いてきたイッセイ ミヤケのパリコレクションの招待状から抜粋されたもの。その多くに、三宅自身の顔が描かれているのが実に興味深い。
登場する各場面を追体験するには、イッセイ ミヤケの服や日本のデザインの予備知識をもっているのが望ましい。固有名詞の解説は充実しているが、写真掲載は一部の新聞記事のみだ。もとよりこの本の狙いは、三宅一生の入門書ではなく、活動の軌跡を総括することにある。スマホを片手に画像検索をしながら、50年近くも我が国のデザイン界を牽引してきた巨匠に迫るのも、一興かもしれない。
『イッセイさんはどこからきたの?』
小池一子 著
HeHe
¥3,456