本格ブレイクを確信させる、たまらなく沁みるジュリアン・ベイカーの歌。
【Penが選んだ、今月の音楽】
いわゆるコロナ疲れに対する、自分の内なる反動というものなのだろうか。素晴らしいリリース作品が多かったこともあるのかもしれないが、気が付けば内省的な、フォーキーな音楽に惹かれるようになっていた2020年だった。実際にステイホームの環境下でリモート制作された、パンデミック・アルバムとも呼べるテイラー・スウィフトのサプライズ2連作には、聴くほどに慰撫されるような安らぎを覚えたし、フィービー・ブリジャーズの新作における、流麗なサウンドと共鳴する歌の凜とした強さは、聴くたびに胸に突き刺さってきた。
そして、ジュリアン・ベイカー。くしくも、フィービー・ブリジャーズとはボーイジーニアスとしてバンド活動をしている盟友。まさかのパンデミックが続く21年に、彼女が世に送り出すニュー・アルバムが、またたまらなく沁みるのだ。
レコーディングは2019年末から20年1月までということだから、コロナ禍以前になるが、セルフ・プロデュースでほとんどの楽器をジュリアンひとりで演奏している本作は、いまとなっては“その後”の世界の行く先と、人々の心の行く先を予見していたかのように思えてくる。
前作まで入っていなかったベース&ドラムをはじめ、音数が増えたサウンドは彩り豊かでありながら、絶妙にバランスを保ちつつギター弾き語りを基調とすることで、静謐で美しいアンサンブルとグッド・メロディが際立ち、孤独に寄り添う珠玉のシンガー・ソングライター作品に仕上がっている。そして、孤独に寄り添いながらも、繊細さの中に強靭な意志を宿したジュリアンの歌が、一緒に立ち上がろう、ここから飛び出そうと手を差し伸べるように、内省からの解放へと誘うのだ。
本格ブレイクを確信させる、新たなる時代の名作が誕生した。