【Penが選んだ、今月の音楽】
暴徒化したトランプ支持者が連邦議会議事堂に乱入した前代未聞の事件は、アメリカに潜む分断の根深さを象徴する出来事として末長く記憶されるだろう。融和と団結を呼びかけ、分断が進むアメリカ社会の改革を訴え当選したバイデン新大統領にとって、なんとも前途多難な船出となってしまった。
それでもバイデンに期待し、支援するアーティストは数多い。ヒップホップ界で別格の存在感を示し、俳優や活動家としてもブラック・コミュニティで尊敬を集めるシカゴの知性派MC、コモンはその代表格のひとりだ。
新作『美しき革命-Pt.1』が本国アメリカで発表されたのは、大統領選直前の昨年10月30日のこと。そのタイミングとアルバムのタイトルがコモンの意図を雄弁に物語っている。実際、人種的・社会的不公平に傷ついた人々を「高揚させ、癒し、鼓舞する」ことを意図した音楽だと彼自身、認めているように、新作には希望と慈愛がみなぎっている。これはバイデンの融和路線と呼応し合う作品なのだ。
オーガスト・グリーンでも活動をともにしたカリーム・リギンスとロバート・グラスパーを中心とする新バンドを従え、誠実な語り口でジャズ・ヒップホップを展開する本作には、拳を握りしめて殴りかかるような曲はなく、優しく包み込むような穏やかで希望に満ちた楽曲が並んでいる。その優しい聴き心地に大きく貢献しているのがR&Bシンガー、PJの少女の面影を残す可憐な歌唱だ。アフロビートの軽快なトラックに乗せて「トラブルはごめんだわ」と歌う「Say Peace」はその好例。勇気とはなにかを問う楽曲「Courageous」のスティーヴィー・ワンダーの美しいハーモニカにも心打たれる。人を励ます音楽のチカラが全編を貫く作品はただただ清々しい。
この音楽がいつか「美しい革命」をもたらすことを切に願う。