ルカ・グァダニーノの美意識で、ホラーの古典が生まれ変わった。

『サスペリア』

ルカ・グァダニーノ

ルカ・グァダニーノの美意識で、ホラーの古典が生まれ変わった。

新谷洋子 音楽ライター

『君の名前で僕を呼んで』で脚光を浴びた名匠、ルカ・グァダニーノ監督のもとに豪華な女優陣が集結した。これまでも『胸騒ぎのシチリア』などで信頼関係を築いてきたダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントンがタッグを組んでいる。© 2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC All Rights Reserved.

監督ルカ・グァダニーノが、同じイタリア人のダリオ・アルジェントによるホラーの古典『サスペリア』を観て衝撃を受けたのは、14歳の時。以来30数年を経て彼は、この作品を独自に再構築するという長年の夢を叶えた。それはオリジナルとはまったく異なる展開を見せ、特異な美意識で感覚を刺激し、皮膚の裏側に入り込むような別種の恐怖で観る者を慄かせる。
そう、変わっていないのは、ひとりのアメリカ人女性が魔女が巣食うヨーロッパのダンス学校を訪れるという設定や、人物名のみ。1977年のベルリンを舞台に選んだ監督は、ナチズムの影を引きずり赤軍テロに揺れる社会を背景に、人間の集団心理や母性や権力を巡るさまざまな伏線を物語に与えた。オリジナルの善悪二元論とは一線を画す、重層的な映画に仕上げた。
また、プログレ・バンドのゴブリンが手がけたサントラとネオンカラーの映像でアルジェント監督が醸した、妖しい非日常性に対し、本作のタッチは終始メランコリックでフェミニンだ。バルテュスの絵画を想起させる抑制の効いた色彩しかり、映画音楽は初挑戦の、レディオヘッドのトム・ヨークに託した音楽もしかり。グァダニーノ作品において音楽は常に重要な役割を担っているが、今回も例外ではない。70年代ドイツを象徴するクラウトロックやミュジーク・コンクレートにインスパイアされた、底知れぬ悲しみと緊迫感を湛える曲は、殊にダンスのシーンでは踊り手の息遣いと溶け合い、超常的な力を媒介する。随所に配されたダンスは、この世のものではない存在と意思を通わせる、秘密の儀式なのだろう。
監督は特に依頼しなかったというが、トムはボーカル曲も提供し、聴き慣れた声で「呪文を唱えれば我らは再び命を得る」などと呟く。滅多に他者の視線で歌うことのない彼に、なにかが憑依したかのようだ。

『サスペリア』
監督/ルカ・グァダニーノ
出演/ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントンほか 2018年
イタリア・アメリカ合作映画 2時間32分 1月25日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開。
https://gaga.ne.jp/suspiria

ルカ・グァダニーノの美意識で、ホラーの古典が生まれ変わった。