異国で出合った楽隊の行進に、触発されて紡がれた音。

『ガリポリ』

ベイルート

異国で出合った楽隊の行進に、触発されて紡がれた音。

栗本 斉 音楽ライター

米ニューメキシコ州サンタフェ出身のシンガー・ソングライター、ザック・コンドンが率いる大所帯バンド。当初はコンドンのソロ・プロジェクトで、宅録音源をもとに2006年にリリースした『クーラグ・オルケスタル』でデビューを果たした。

更紗のようにきめ細かく形作られた音に身を委ねていると、どこか遠い異国へ連れて行ってくれる。ベイルート名義で活動するザック・コンドンはそんな不思議な音楽を生み出す天才だ。米国のサンタフェ生まれながらも、バルカン音楽に影響されたアルバム『グーラグ・オルケスタル』でデビューして以来、フランスのシャンソンやメキシコのマリアッチなどからインスパイアされた独自の世界を築いてきた。いわば、旅するように音楽を紡ぎ続けてきたと言っていいだろう。
実際、新作『ガリポリ』に関しても、異国でのユニークな体験が重要なモチーフとなっている。ザックは、しばらく拠点を置いていたブルックリンを離れ、思い立ってベルリンへ移住。その後、イタリアの田舎町にスタジオを見つけ、旧知のミュージシャンをそこに呼び寄せてレコーディングを開始した。そしてある夜、中世の雰囲気を残す城塞都市ガリポリにたどり着き、そこで聖人像を抱えた牧師を先頭に演奏するブラスバンドの行進に出くわし、一緒に練り歩いたという。この直後に一気に曲を書き上げて出来上がったのが本作というわけだ。
ここでのザックの歌は、訥々とした彼らしいもの。シンガー・ソングライター然としながらも、声高に何かを訴えるわけでもないし、テクニカルなソングライティングに走ることもない。ごく自然に優しいメロディを歌っていく。そして、その声を包み込むサウンドがまた素晴らしい。シンプルなリズムセクションやチープなオルガン、そして静かに響く金管楽器による限りなく美しいアンサンブル。これらが自然に溶け合い、浮遊感に満ちた音世界へと導いてくれる。以前ほど明確なワールドミュージックからの影響はないが、それでも心地よい脳内トリップを体験させてくれるのはさすが。これぞベイルートの真骨頂である。

『ガリポリ』
ベイルート
4AD0121CDJP
ビート・レコーズ
¥2,592(税込) 
2/1発売

異国で出合った楽隊の行進に、触発されて紡がれた音。