『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』
パク・ミンギュ 著
弱小プロ野球チームが、 少年たちに教えてくれたこと。
今泉愛子 ライター韓国でプロ野球が誕生したのは1982年のことだ。6チームが結成され、そのひとつが仁川(インチョン)を本拠地とする三美(サンミ)スーパースターズだった。本書は、この実在した球団を扱った小説だ。第1章では、結成1年目が描かれる。
中学生になったばかりの主人公の少年と友人のチョ・ソンフンは、三美スーパースターズの子どもファンクラブに入会し、スポーツバッグや野球帽、ジャンパーなどのグッズを手に入れる。ふたりは優勝を期待したが、結果は見るも無残。シーズン成績は、15勝65敗で6位。ぶっちぎりの最下位だ。
この年、韓国ではプロ野球選手たちの動向に大きな注目が集まった。そして国民は、知らないうちにアマチュアか、プロとして生きるか、という選択を迫られていた。大多数の国民は、プロのように高みを目指して生きることを選んだという実社会の状況が、小説には重ねられている。
第2章は88年、第3章は98年と続く。三美スーパースターズは84年の前期リーグを最後に買収され、その名を消す。主人公と友人のふたりは、もう大人だ。一流大学を卒業した主人公は就職して結婚し、離婚して失業。両親を亡くし、日本に渡ったチョ・ソンフンは帰国した。そしてふたりは再び野球への熱を思い出し、人生を見直すことになる。そのモットーは、「打ちにくいボールは打たない、捕りにくいボールは捕らない」。優勝なんて狙わなくていい。自分の野球をする。これは、かつての弱小球団、三美スーパースターズが実践していた野球の姿勢だ。
私たちは、プロのように完璧に生きることを求められていないか? 日本でも、常に自己研鑽して高みを目指すことが重要視される。しかし、それで人生は本当に楽しいのか。そんな現実に戸惑う人が実は多くいるということは、本書が韓国で20万部超売れた事実からも伝わってくる。
『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』
パク・ミンギュ 著
斎藤真理子 訳
晶文社
¥2,160