色鮮やかなペインティングで激動の1年を振り返る、SHUN SUDOの個展『2020』がスタート

  • 写真・文:中島良平
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個展はANB Tokyo 3階のギャラリーと6階のスタジオで開催。6階ではSHUN SUDOが手がけた壁画や過去作品の映像とともに、画材が並ぶアトリエの様子を見ることができる。

ニューヨークと東京を行き来しながら、ストリートカルチャーをはじめ多様なジャンルにインスパイアされた作品を制作するSHUN SUDO。六本木のANB Tokyoで、新作ペインティングを集めた3階ギャラリーと、実際にこの場で制作した壁画と旧作を展示する6階スタジオの2フロアで構成する個展『2020』がスタートした。新型コロナウイルスのパンデミックや人種差別への反対運動の拡大など、地球規模でショッキングなできごとが起こった1年を振り返るために、2020年をテーマに制作を行うことを決めたという。滑らかな線描と色鮮やかな花が印象的な3点組の作品について、次のように説明する。

「街にいる人たちはみんなマスクをして、新型コロナ禍で警戒して人と顔を合わせないようにして歩いています。しかし、その人たちには感情があって、心の内側からは温かいものがあふれて広がっているはずです。そういう意味を花に込めて描きました。僕は絵で悲しいメッセージだけを伝えるのはイヤなので、そこにポジティブな思いを込めて花を描いたんです」

3階ギャラリーの展示に入ると、最初に目にする作品は黄色と紫の2点のボタン・フラワーが描かれた作品。2020年1月26日に起きたヘリコプターの墜落事故で、13歳の娘とともに逝去した元NBAのスーパースター、コービー・ブライアントへの追悼の意を表現した。右手に見える3点が、マスク姿で街ゆく人々の心を花に表現した3点組の作品だ。

幼い頃から絵を描き続け、世界を放浪しながら独学でアートを学んだSHUN SUDO。イラストレーターとして活動をスタートし、広告や雑誌、カタログなどでジャンルを問わず制作しながら技術を高め、2015年にはクライアントワークではなく自身の作品を発表すべく初の個展『PAINT OVER』をニューヨークで開催。文化もジャンルもクロスオーバーし、オリジナルのキャラクターを表現した作風が高く評価された。今回の個展ではその作風をベースに、社会的な視点とポジティブなメッセージを融合させた新作の数々が発表された。

「このソフトクリームには、ブラック・ライブズ・マターによって黒人と白人が溶け合い、そこに黄色人種を表現したコーンが組み合わさった世界を表現しました。人種も関係なくみんながミックスされる世界です」。SHUN SUDOがアートを手がけるモチベーションは、ネガティブな要素もポジティブに昇華して提示すること。

新型コロナウイルスのパンデミックをどう表現するか。目に見えないウイルスを余白に表現し、コロナ以降の世界では戦争の形も変わり、旧来の武器がガラクタ化すると考え、地面には武器の数々が捨てられた光景を描いた。そして平和の象徴である鳩が、人々に安らぎを与えるピアノの上に立ち、残された希望を感じさせる。

ボタン・フラワーのモチーフに込めた思いとは?

画面右手の壁には、クリスマスツリーを描く予定とのこと。花がモチーフの旧作ペインティングにどのようなツリーが対面するのか、会場でたしかめてほしい。

6階のスタジオに移動すると、アーティストの制作現場の温度を体感することができる。テーブルに並ぶ画材、壁面に貼られたラフスケッチ、そして滞在制作された壁画。公開制作を行なった際のライブ感や、オープンスタジオの展示によって作家のスタジオ風景を楽しんでもらえた経験から、2フロアを効果的に活用するためにコンセプトの異なる展示を計画したという。

「東京では大きな壁画を描ける空間というのも限られているので、ここでは来場者の皆さんにこのサイズ感もあわせて楽しんでいただけると考えました。会期が終わったらこの赤いボタン・フラワーは消えてしまいますが、それもストリートアート。きっと次のアーティストがまたおもしろい作品を描いてくれると思います」

「血の色だからじゃないですけど、赤に惹かれるんですよ」と語るSHUN SUDO。岡本太郎美術館の入口に設置された、太陽の真っ赤なオブジェから受けたインスピレーションに引きずられているのかもしれないと笑う。

このボタン・フラワーは、繰り返し描かれてきたモチーフだ。戦争や悲劇的な状況でも癒しを与え、生命を感じさせてくれる存在である花。その中央に描かれたボタンは、世界地図を想像しながら描いたのだという。

「ヨーロッパを中心とする世界地図で、日本は右端に描かれたファーイーストです。その世界地図をジャケットに見立てると、それを着て前で止めるボタンの場所が日本のあたりだと思うんですね。世界を包んでつないでくれるピースアイコンになったらいいなと思って、このボタン・フラワーを描き続けています」

どんな状況でも希望を見つけ、誰もがハッピーに過ごせる世界を実現できないか。アートでそうした世界を提示し続けるSHUN SUDOの個展で、ポジティブなバイブスを全身で感じて欲しい。

2019年に東京・中目黒のスターバックスで開催されたイベント『MUSIC×ART×COFFEE』。東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦、サックス・フルート奏者の藤枝伸介、サチモスのTAIHEIがライブセッションを行い、その光景をモチーフにSHUN SUDOがライブペインティングしたのがこの作品だ。

机でスケッチブックを開くと、水で希釈した黒いアクリル絵具を入れた容器とスプーンを手に、モノの数秒でさらさらっと花を描いてくれた。筆では出せないタッチで描かれる様子は、さながら瞬間芸のようであった。

SHUN SUDO個展『2020』
開催期間:2020年12月10日(木)〜12月27日(日)
開催場所:ANB Tokyo 3F&6F
東京都港区六本木5-2-4
開館時間:12時〜18時
※金・土曜日は20時まで
※オンライン事前予約制で10名/毎30分程度の入場規制あり。
休館日:月
入館料無料
https://taa-fdn.org/events/610/
https://www.instagram.com/shun_sudo/