魂を鷲づかみされる、横尾忠則の個展『B29と原郷-幼年期からウォーホールまで』。

  • 文:はろるど
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入口すぐに展示された横尾忠則の自画像に目を奪われます。背景に浮かぶ首吊り縄がなんとも不気味です。photo: Norihiro Ueno courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

1981年の『画家宣言』以来、絵画作品を旺盛に制作し続ける横尾忠則(1936年生まれ)。新作を中心に構成された個展が、東京・谷中のSCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)で開催中です。

自画像にターザン、ダグラス・マッカーサー、そしてアンディ・ウォーホル。主に2015年から今年にかけて描かれた、16点の絵画(60セットの作品含む)が展示されています。和歌山の白浜を題材としたコラージュや、連作として知られる『Y字路』をモチーフとした作品もありますが、特に目立っているのが軍用機。展覧会のタイトルに『B29と原郷-幼年期からウォーホールまで』とある通り、あちこちの作品に描かれています。

幼少期に戦争を経験している横尾は、過去にも進駐軍や軍用機を絵の中で断片的に描いてきました。しかし、それらは意図的でなく、記憶として自然に入り込んだものとしています。さらにウォーホルは、デザイナー時代の横尾に強い影響を与えたアーティストのひとり。横尾は著書『横尾忠則日記人生―1982〜1995』(マドラ出版)において、「ぼくの絵は日記そのもの」と語っています。戦中から戦後、そして現在へと至るまで横尾を通り過ぎて行ったさまざまな事象が、自伝のように回顧されているのです。

過去と現在、彼岸と此岸が交錯する空想的な心象風景を前にしていると、作品の中にぽっかり開いた異界へと引き込まれ、魂を鷲づかみされるような感覚に陥ります。絵の具の生々しい質感は、写真や図版では到底わかりません。人生を凝縮させたような凄みのある絵画を、ぜひ直に見てください。

左から、『白浜ー喜びも悲しみも幾歳月』2006年、『原郷』2019年、『ギルガメッシュとMP』2019年 中央の『原郷』は展覧会タイトルにも引用されている新作です。いずれの作品にも、空を飛ぶ軍用機が描かれています。photo: Norihiro Ueno courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

『A.W.MANDARA』2019年 ウォーホルの肖像画などが描かれた、全60点のキャンバス。横尾はイラストレーターの時代から、多くの著名人の肖像を描いてきました。photo: Norihiro Ueno courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

左から、『エキゾチズム』2015年、『戦争の涙』2009年、『突発性難聴になった日』2019年、『海の見えるY字路』2017年 パイプをくわえたマッカーサーが涙を流す『戦争の涙』が印象に残ります。なおマッカーサーの左下に描かれている軍用機に囲まれた女性のモデルは、戦前から戦後にかけて活躍した歌手、渡辺はま子です。photo: Norihiro Ueno courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

『横尾忠則「B29と原郷-幼年期からウォーホールまで」』

開催期間:2019年5月31日(金)〜7月6日(土)
開催場所:SCAI THE BATHHOUSE
東京都台東区谷中6-1-23 柏湯跡
TEL:03-3821-1144
開館時間:12時~18時
休館日:日、月、祝日 
入場無料
https://www.scaithebathhouse.com