日本で初めての建築運動とされるのが、1920年代に活動した分離派建築会だ。歴史に倣った様式建築とも違うし、そののちに主流となる装飾のないモダニズムの建築とも異なる。そのはざまにあって、自由な曲線や曲面で構成される独自の造形に挑戦したのが、彼らだった。その全貌を見せてくれる展覧会が、10月10日から、パナソニック汐留美術館で開催中だ。
会場で展示されている分離派建築会メンバーの作品は、まず東京帝国大学建築学科の卒業設計である。そこに描かれている建築は、拙さを補ってあまりある瑞々しさが魅力を放つ。彼らは展覧会を定期的に開催し、架空のプロジェクトの設計案をいくつもつくって提示する。斬新な建築の表現は評判を呼び、同時に年長の建築家たちからは批判もくらった。
展覧会に合わせて出版した本で彼らは「我々は起つ。過去建築圏より分離し、すべての建築をして真に意義あらしめる新建築圏を創造せんがために」と勇ましく宣言する。一方でメンバーのひとり、石本喜久治は「建築は一つの芸術である。このことを認めて下さい」と記す。この言葉は軟弱にも聞こえるが、若者たちがギリギリの決断で建築界の権威に反抗したことがうかがえて、むしろ心を打たれる。
分離派建築会の建築家は、次第に実作も手がけるようになる。のちに日本武道館や京都タワービルを設計する山田守は東京中央電信局を、石本喜久治は白木屋百貨店や東京朝日新聞社など。東京を代表する名建築だったが、残念ながらいずれもすでに解体されてしまった。この展覧会では、写真、模型、フロッタージュ(こすり出し)などを用いて、在りし日の名建築を追体験できる仕掛けとしている。
1928年の第7回作品展をもって分離派建築会の活動は途絶えるが、その後もメンバーはそれぞれに活躍し、建築界にモダニズムを広める大きな役割を担った。そのことを展示では触れている。モダニズムの流れは現在まで及んでいるが、それも突破口として分離派建築会があったからと言えそうだ。
またこの展覧会では、彼らが影響を受けた彫刻家の作品や、ヨーロッパ旅行の行程も紹介している。建築外の分野や、日本を取り巻く世界との関係で分離派建築会を捉え直そうとする試みだろう。大正時代の流動的な建築状況に光を当て、それを可視化することに成功している。これだけの資料をまとまって見られる機会もななかなないので、必ず見ておきたい展覧会だ。
『分離派建築会100年展 建築は芸術か?』
開催期間:10月10日(土)~12月15日(火)
開催場所:パナソニック汐留美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:水
料金:一般¥800(税込)
https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/20/201010
※展示室内の制限人数に達し次第、整理券を発行し入館時間を指定。