ルノー メガーヌ R.S.が、世界的に見ても希少なハイパフォーマンスカーである理由。

  • 写真:谷井功
  • 文:サトータケシ
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サーキットで速いクルマは、一般道を走っても楽しくてかつ安全だ──。こんなルノーの企業フィソロフィーを形にしたのがルノー メガーヌ R.S.である。“FF(前輪駆動)車、世界最速”と謳われるこのクルマのポテンシャルは、伊達ではない。

「R.S.」とは、ルノーのモータースポーツ部門であるルノー・スポールを意味する。その名を冠するモデルは、F1を頂点とするサーキット直系のテクノロジーが注ぎ込まれているのだ。

ドイツのニュルブルクリンク北コースは、世界中の自動車メーカーがテストやタイムアタックを行うスポーツカーの聖地である。あるいは、マシンを鍛える道場と呼んでもいいだろう。
2019年4月5日、その場所でFF(前輪駆動)車の最速ラップ、7分40秒100を叩き出したのがメガーヌ R.S. トロフィーR。ノーマルグレードのメガーヌ R.S.をベースにリアシートを取り除くなどの軽量化を施し、さらには足回りと空力性能を強化したモデルだ。今回登場したのは、その両者の中間的な存在であるメガーヌ R.S. トロフィー。トロフィーRのDNAを宿しながらも定員5人の余裕のある空間をもつなど、日常使いにも適うモデルである。

一般道でも体感できる、レースで培った“本物の味”。

自然吸気の3ℓエンジンが主流だった1977年、F1に初めてターボエンジンを持ち込んだのがルノーだった。

ルノーは創始者のルイ・ルノーの時代からモータースポーツに力を入れてきた自動車メーカーだ。故に、ルノーはモータースポーツの歴史に残るエピソードに事欠かない。
中でも特筆すべきは1977年、F1マシンに初めてターボエンジンを導入したことだろう。当時のF1は自然吸気エンジンで戦うのが常識であったが、その常識を覆したのだ。その後、F1界はルノーを追いかけ、ターボ化による高出力エンジンの時代へと突入する。
メガーヌ R.S. トロフィーにも、直列4気筒直噴ターボエンジンが積まれる。1.8ℓという比較的少ない排気量から生み出される最高出力300PS、最大トルク420N・m(メガーヌ R.S.にも同排気量のターボエンジンが搭載されており、そちらは279PS、390N・m)という数値に目を奪われがちになるが、このエンジンの特徴はパワーだけではない。
2,400rpmの低い回転域からモリモリとトルクを発揮する扱いやすさや、アクセルを踏んで即、バチンと加速する鋭いレスポンスなど、すばやく走るために必要な要素を満たしている。このあたりにこそ、長年に渡って真剣勝負の場でターボエンジンの技術を磨いてきたことが活かされた。
仮にレースに出ることがなくても、このエンジンは一般道でも“本物の味”を教えてくれるはずだ。

1970年代後半のルノーのF1マシン「RS01」をドライブするのは、フランス人のジャン=ピエール・ジャブイーユ。彼はマシンの開発にも貢献したことで知られる。

飾りではない、機能から生まれたデザイン

フルLEDヘッドランプと、フォグランプ、スモールランプ、ハイビーム、これから曲がろうとしている先を照らすコーナリング機能を兼ねた、チェッカーフラッグをモチーフにするR.S.ビジョンの組み合わせが、精悍で先進的な表情を形成。
19インチのアルミホイールは、メガーヌ R.S. トロフィー専用にデザインされたもの。足元のルックスを引き締めると同時に、運動性能に大きな影響を及ぼすサスペンションより下の部分の軽量化に寄与する。ちなみにメガーヌ R.S.にも、専用デザインのアルミホイールが用意される。

メガーヌ R.S. トロフィーRが最速ラップを記録したニュルブルクリンク北コースは、全長約20km。高速コーナーもあれば、傾斜のついたテクニカルなコーナー、さらにはジャンピングスポットまで存在する。
ここを全開で走るには、高度な空力性能が必要だ。高速コーナーではしっかり路面をグリップするように車体を地面に押しつけ、しかも直線では最高速度を伸ばすために抵抗を減らさなければならない。
空力性能に寄与するフロントのバンパーに取りつけられたF1タイプエアインテークブレードや、車体後方のセンターエグゾーストテールパイプを取り囲むリアディフューザーは、単なる飾りではない。100分の1秒を削るためのデザインなのだ。

ワイド&ローなフォルムを強調し、ロードホールディング性能を高めるために、ノーマル仕様のメガーヌ GTのボディ幅からフロントが60mm、リアが45mm広げられている。
センターエグゾーストテールパイプはクロームメッキ加工が施され、それを取り囲むリアディフューザーはサテン仕上げのガンメタルグレー。リアビューに凛とした表情を与えた。

空力性能以外にも、メガーヌ R.S.は先進的なテクノロジーをいくつも搭載している。前述したようにニュルブルクリンクには大小さまざまなコーナーが待ち受けるが、タイトコーナーを俊敏に曲がり、高速で曲がる緩やかなコーナーでは落ち着いた振る舞いを見せるのは、4コントロールと呼ばれる4輪操舵システムの賜物である。
低速では、後輪が前輪と逆方向に舵を切ることで、クルッと曲がる。一方高速では、後輪が前輪と同じ方向を向くことで安定感を得るのだ。

スポーツカーとファミリーカーを兼ねられるという最大の特徴。

7インチのフルカラーTFTメーターパネルは、写真のブルーのほか、イエロー、レッド、パープル、グリーンと、好みに応じて表示色をカスタマイズできる。
ステアリングホイールの「R.S.」の文字と、赤いステッチが、これから始まるエキサイティングな体験の期待を膨らませる。

余計な飾りがないのにインテリアに上質な雰囲気が感じられるのは、素材と機能にこだわっているから。
たとえばメガーヌ R.S. トロフィー専用のナッパレザーとアルカンターラを組み合わせたステアリングホイールは、手のひらに吸い付くような手触りだ。心地よく、しかも確実にステアリング操作を行うことができる。
また、やはり専用のレカロ製バケットシートにもアルカンターラを用いることで、ハードなコーナリングでも身体が滑ることを防ぐ。
速く、安全に走ろうという機能を追求すると、インテリアの質感も向上する。メガーヌ R.S.のインテリアは、そんなことを教えてくれる。

シフトレバーのブーツ部分にまで美しいステッチが施されている。細部にまで気を配ることで、走りの楽しさだけはなく、所有する喜びをも与えられる。
アルカンターラを用いたメガーヌ R.S. トロフィー専用のレカロ製バケットシート。ちなみにメガーヌ R.S.のシートはバケットより厚いものが採用されているが、表面の生地にはアルカンターラが用いられている。

現代の高性能車としては、安全および運転支援装置を抜きにして語ることはできない。その点、メガーヌ R.S.は衝突の危険を察知すると自動で働くエマージェンシーブレーキや、車線からのハミ出しを警告する車線逸脱警報などがスポーツドライビングを支えてくれる。
また、後席は大人がしっかりと座ることができ、荷室の容量も充分確保されている。つまり、スポーツカーとファミリーカーを兼ねることができる、世界的に見ても希少なハイパフォーマンスカーなのだ。

メガーヌ R.S. トロフィーRと2019年シーズンのF1を戦ったR.S.19。サーキットでのバトルから得た技術やスピリットは、ストリートを走るクルマに注ぎ込まれている。

最後に、レースのヒストリーをさらに振り返ってみたい。自動車レースに初めてグランプリという称号が与えられたのは、1909年にルマン・サーキットで開かれた第1回ACF(フランス自動車クラブ)。この時に優勝したのがルノー。また、1973年から始まったWRC(世界ラリー選手権)の最初のチャンピオンは、ルノー 8をベースにしたアルピーヌ A110である。といった具合に、ルノーとモータースポーツの関係は連綿と続き、現在は世界最高峰のF1で戦っている。
ルノーが積極的にモータースポーツに参加するのは、サーキットで速いクルマは一般道で乗っても楽しくてかつ安全になるというモットーをもっているからだ。
メガーヌ R.S.のエンジンの最高出力を279PSから300PSに引き上げ、それに合わせて足回りも締め上げたメガーヌ R.S. トロフィーは、さらにサーキットとの距離の近さを感じさせる。
ファミリーカーとしても活躍できるバランスのとれたメガーヌ R.S.と、より尖った性格を与えられたメガーヌ R.S. トロフィー。さらには先日、世界限定500台のみではあるが、市場投下されることが発表されたメガーヌ R.S. トロフィーR。それぞれ主戦場は異なるかもしれない。しかし、いずれにおいても、ルノーという自動車メーカーのモータースポーツへの真摯な姿勢が示されたモデルであることは間違いない。

ルノー メガーヌ R.S. トロフィー
サイズ(全長×全幅×全高):4410×1875×1435mm
エンジン型式:ターボチャージャー付き直列4気筒DOHC
排気量:1798cc
最高出力:300PS/6000rpm
駆動方式:前輪駆動
トランスミッション:6速AT/MT
燃費:12.4km/ℓ(WLTCモード) ※MTの場合は13.4km/ℓ
車両価格:489万円~

●問い合わせ先/ルノー・コール TEL:0120-676-365
www.renault.jp