古いものと新しいものが渾然一体となり、日々進化を続けている日本橋エリア。アイウエア専門店「コンティニュエ日本橋」は、そんな日本橋に2年前にオープンした。この街にふさわしい上質なセレクトが光るこのショップを、よりすぐりの大人のためのアイテムとともに紹介しよう。
2002年に恵比寿で誕生したコンティニュエは、世界的な人気を誇るブランドから、インディペンデントにものづくりを続けるツウ好みなブランドまで、独自の審美眼で集められたアイウエアが揃うセレクトショップとして、カルチャーコンシャスな大人たちの間で愛されてきた。これまでは恵比寿と吉祥寺に路面店を展開してきたコンティニュエだが、2018年にオープンしたこの「コンティニュエ日本橋」は、初めて商業施設への出店となった、ある種実験的な店舗だ。常にクリエイティブな感性や先進性に寄り添ってきた恵比寿店や吉祥寺店のDNAを引き継ぎながら、日本橋の新店舗ではより大人のリアリティを追求することで、コンティニュエが思い描く、現代の“正統性”が表現された。東京の都市風景とライフスタイルが刻々と変化しているいま、その中心にある日本橋の地は、新しい潮流を生み出すには最適なエリアといえるだろう。
いまカルチャーが、東京の西から東へと移動し始めている。
2007年の独立以来、ファッションフォトグラファーとして常に第一線でクリエイティブ・シーンを牽引してきた長山一樹も、時代の新しい潮流の中で、自然と日本橋に引き寄せられてきたクリエーターのひとり。2019年に日本橋横山町に2フロアの撮影スタジオ「Atelier Six」と「Studio 2.8」を構え、創作活動の拠点として活用している。
「これまで日本橋とは無縁の生活を送ってきましたが、ここに通うようになって初めて、街の魅力やポテンシャルの高さに気づかされました。この界隈には古くて面白いつくりの建物が多くて、しかも青山や渋谷などと比べると、割安にスペースを借りることができます。だから空間づくりやプレゼンテーションにこだわった、面白いショップがどんどん増えています。古いものをモダナイズして、新しい表現を生み出す流れは、今後もっと盛んになっていくと思います」
昨今は建築界やホテル業界においても、古い建物のもち味を活かしたリノベーションが盛んに行われている。日本橋にはそんなアイデアを受け止めてくれるキャンバスが、まだまだ数多く残されているようだ。
ファッションやクリエイティブのシーンといえば、青山、渋谷、新宿といった、東京の西側エリアが中心というイメージがあるが、近年は「それもだんだん変わってきている」と長山。
「最近は、カルチャーが東京の西側から東側へと移動してきている雰囲気があります。ニューヨークのブルックリンやロンドンのショーディッチもそうですが、最初は家賃の安い地域にクリエーターやアーティストが集まってきて、自分たちが面白いと思うことを自由に表現していくうちに、エリア全体が活性化され、独特の魅力を放つようになります。それと同じような空気を、いまの日本橋エリアはもっている気がします」
「オーセンティックなものと、モダンなもの。先進的なアイデアや、地に足のついたライフスタイル。いろんな異なる価値観が出合って混ざり合い、摩擦を起こしながら独自の文化を形成している場所に身を置くことは、クリエーターとしてとても刺激になります」
ファッションの街、飲食の街、住宅街などと呼ばれるような、ひとつの要素が突出し、異なる刺激に晒されることの少ない街からは、新しい何かは意外と生まれにくいのかもしれない。あらゆる要素を飲み込んで許容できる懐の深さが、カルチャーの成熟には不可欠なのだ。今回長山は、コンティニュエ日本橋からピックアップしたアイウェアの数々を、自身のスタジオ「Atelier Six」に持ち込み撮影した。これもまた、日本橋がもたらしたひとつの“摩擦”であることは確かだ。
大人のライフスタイルに心地よく寄り添う、眼鏡とコーヒー
2020年の2月に、日本の金融の中心である日本橋兜町にオープンしたばかりのスウィッチコーヒーもまた、最近東京の西側から日本橋へと進出してきたショップだ。13年に目黒にて創業し、17年には代々木上原に2号店を出店。18年にはアメリカ『Gear Patrol』誌の「The best coffee roaster around the world」に選出され、Japan Roaster Competitionで優勝した人気店だ。1923年に建てられた旧第一銀行の建物を、大規模にリノベーションして生まれたブティックホテル「HOTEL K5(ホテル ケーファイブ)」。その一階に出店したスウィッチコーヒーの横並びには、ニューヨーク発のクラフトビールブランドの世界初となるフラッグシップ店や、目黒の人気レストランがプロデュースする新店舗などが軒を連ね、金融街に新たな風を吹き込んでいる。
スウィッチコーヒーのオーナー大西正紘は、目黒や代々木上原では関わる機会のなかった日本橋兜町特有のカルチャーと混ざり合いながら、新しい流れをつくっていくことに意欲を見せる。
「コーヒーのことをあまり詳しくない人にも、日常的に美味しいコーヒーを飲んでもらいたいという思いがあるので、忙しい都心部よりも、なるべく地に足のついたエリアに出店してきました。だから渋谷よりも目黒がよくて、銀座よりも日本橋なんです。さらに東京らしさってなんだろうと考えた時に、それは決して古民家カフェ的な発想ではなくて、もちろんシアトル風とかポートランド風とか、海外のスタイルをそのまま取り入れるのも違う。もっと世界中の文化を柔軟に受け入れながら、それを発展させて、常に変わっていくことが東京らしさだと思うんです。いまの日本橋は、そんな東京らしさを色濃く感じられる場所です。時代の流れとともに柔軟に変わり続けているけど、芯にあるものは常に変わらない。そういう場所の方が、ライフスタイルにリアリティがあります」
コンティニュエ日本橋に並ぶアイウエアの数々も、最先端のクリエイティビティが注ぎ込まれた先進性と、決して古びることのない普遍的な正統性が両立した、日本橋の街のイメージと呼応するデザインばかり。大人が日常的に愛用するにふさわしい、上質なリアリティが根底にある。大西は昔からコンティニュエ恵比寿の顧客で、コンティニュエがセレクトした眼鏡を愛用している。元から共鳴し合うもの同士がいま、新しい表現を求めて西から東へと歩みを進めてきた。決して奇を衒うことなく、上質な日常に心地よく寄り添う眼鏡とコーヒー。新天地でどのような変化を見せるのか、いまから楽しみだ。
オーセンティックな街で、気をてらわずに提案する新しいスタンダード
フランス語の“コンティニュエ”という言葉には、「継承」「続く」という意味がある。伝統を継承しながら、変化し続けることで、いままたカルチャーの中心地としての輝きを見せている日本橋は、まさにコンティニュエが新しい試みを仕掛けるのには打ってつけの場所だ。
「いままで自分たちがやってきたことを、ただ繰り返すだけではつまらない」。
そう語るのは、コンティニュエの創業者であり、代表の嶋崎周治。このショップのために新たにデザインされたロゴひとつとってもその思いの強さがうかがえるが、他店にはないブランドを取り揃えるなど、コンティニュエ日本橋ならでは商品も積極的に提案している。
「(日本橋より以前に開店した)恵比寿や吉祥寺では、リアリティをベースにしつつも、カウンター性やカルチャーミックスなスタイルを意識したショップづくりをしてきました。しかしここ日本橋では、自分たちなりに考えた、大人の正統性を表現しています。正統性と言っても、ただのコンサバを提案するつもりではありません。自分たちがど真ん中に向かってストレートを投げても、必ず独特のクセが出ます。そういうある種の違和感のような部分を、オーセンティックなものに慣れ親しんできた日本橋のお客様に、新鮮な感覚として楽しんでいただけたら、と思っています」
街と人とショップが互いに刺激を与えあい、日々新しい化学反応が引き起こされている日本橋エリア。東京のカルチャーは、ここからまた一段と面白くなりそうだ。
コンティニュエ日本橋
東京都中央区日本橋2丁目5−1 髙島屋S.C.新館5F
TEL:03-6281-9077
営業時間:10時30分〜20時
無休(※髙島屋S.C.の休館日に準ずる)
www.continuer.jp/