愛知県は、古くからものづくりが盛んな地として知られる。その伝統を引き継ぎながらさらに進化させ、盛り上がりを見せる地元企業の試みを紹介する。
自動車や産業機械をはじめとする製造業が盛んで、製品出荷額などが42年連続全国1位のものづくりの県である愛知県。安土桃山時代に織田信長が全国の職人を集めて、「天下一」の称号を競わせたことがそのルーツともいわれている。そしていま、愛知県の伝統的なものづくりに焦点を当て、活性化させようという動きが進んでいる。
愛知県が実施している事業に、伝統的工芸品を対象にした「伝統工芸産業ブラッシュアップ事業」がある。今回紹介する「大黒屋仏壇店」はこの事業の支援対象だ。専門家との会議や伝統技術をまったく違う分野で活かす「テアワセ」プロジェクトの開催、フラッグシップモデルの製作などに取り組んだという。「名古屋桐たんす工房出雲屋」は支援対象ではないものの、伝統技術を現代の暮らしに活かす試みが注目される。
「2社のような、意欲的な伝統的工芸品の企業が数多く現れ、成功事例を創出してほしい。その成功事例を地元企業や、他の伝統的工芸品産地に展開することで、愛知のものづくり産地全体の活性化につなげてもらいたい」と愛知県経済産業局の担当者は語る。
伝統工芸の世界に革新をもたらした2社を取材した。
伝統技法を活かして、現代の暮らしに寄り添う家具を提案。
約400年前、名古屋城築城の折に集まった優れた職人たちをその礎とする名古屋桐たんす。一貫してひとりの職人の手で130以上の工程を経て仕上げられるのが特徴だ。「住宅環境の変化や着物人口の減少から需要は落ちていますが、高温多湿の日本の気候に最も適しているのは桐たんす。杢目の美しさを活かしたり革に漆を塗り重ねた漆革(しっかく)技法を用いるなど、洋間にも合うものづくりに取り組んでいます」と代表の今岡克己さん。出雲屋は6人在籍する職人のうち5人が、伝統工芸士という桐たんすの名店。製作のみならず、古い桐たんすの洗いや修理再生も手がける。その確かな技術で生み出したのが、総桐の椅子「楽座」だ。強固な蟻組みという技法を使っている。「軽くて堅牢で、安定感もある。リビングに置いたり、テーブル代わりにしたり、自由に使えます」
デザインの力で、仏壇技術の可能性を無限大に。
1695年まで起源を遡る名古屋仏壇は、木地師、荘厳師、彫刻師など11部門の専門職人の技術を集めて仕上げる伝統工芸の集大成といえるもの。大黒屋仏壇店はその木地職人が創業し、名古屋を中心に5店舗を展開する老舗だ。「技術や職人を守るために、仏壇のカタチを変えるのではなく、その技術を違う分野で活かすプロジェクト『テアワセ』の取りまとめを弊社が担っています。自分たちには素晴らしい技術はあるのに、デザインや発想力がない。そのためにデザイナーとタッグを組みました」と4代目内藤啓喜さん。ホテルに飾るアートピースや百貨店の什器など少しずつ展開先を広げている。プロジェクト初のオリジナル商品として開発中なのが、ボトルストッパー。ターゲットは日本酒やワインにこだわる飲食店。杯を重ねる時間を豊かにする雅な伝統工芸品の完成が楽しみだ。
●愛知県経済産業局産業部産業振興課
TEL:052-954-6341
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