ロッテの新ブランド「YOIYO」は、ひと粒に日本のジャパニーズウイスキーを閉じ込めたチョコレート。店頭販売を主戦場としてきたロッテにとって、初のD2C商品でもある。第一弾の「YOIYO <KOMAGATAKE>」は、妥協なき原酒選びによって誕生した。
「Bacchus」や「Rummy」に代表される洋酒入りチョコレートをつくり始めて約半世紀。そのロッテがこの春、新ブランド「YOIYO」を立ち上げた。ひと粒のチョコレートに閉じ込めるのは、日本各地でつくられるクラフト酒。今回、第一弾としてコラボレーションしたのが、流通数が限られるシングルモルトウイスキー「駒ヶ岳」だ。
そもそも新ブランド「YOIYO」が生まれた背景には、外から中へという新しい生活様式への適応が進むいま、より豊かな時間を自宅で過ごせるようにロッテとしてなにができるのか、という模索があったという。日本のクラフト酒入りチョコレートというこだわりの商品が開発された経緯、そして込められた想いを聞いた。
豊かな自然環境に恵まれた、マルス信州蒸溜所。
「YOIYO」は「日本に酔うチョコレート」をコンセプトに掲げる。その言葉にはどんな意味が込められているのか。ロッテ EC戦略部 商品企画課の田中麻紀子さんはこう話す。
「日本には、"まだ知られていない日本"があります。それは清らかな水と土地に根付いた原料だったり、伝統の技が生んだ味わいだったり。そんなお酒をギュッと詰めたチョコレートなら、自宅での寛ぎの時間に、ふらりと旅に出るような気分で食べていただけるのではないかと思いました」
そのためには、四季の移ろいや気温変化など周囲の自然とともに酒づくりを進めており、かつ技が伝承されているメーカーとコラボレーションしたいと考えていた。シングルモルトウイスキー「駒ヶ岳」を製造する、本坊酒造のマルス信州蒸溜所。その環境と酒づくりへの姿勢は、田中さんのイメージにピタリと一致していた。
マルス信州蒸溜所は、中央アルプスの木曽駒ヶ岳山麓、標高798mに位置する。気候は冷涼ながら、冬は氷点下15℃、夏は30℃を超すこともあるなど、年間を通しての寒暖差が大きい。ウイスキーの仕込みに使うのは、井戸から汲み上げる地下水。中央アルプスの地層に磨かれた、まろやかな軟水だ。
「ウイスキーのみならず、酒は周囲の環境と水に大きく影響されます。私たちが目指しているのは、クリーンでリッチなウイスキー。ウイスキー造りに向け、理想的な環境を探す中で、この地を選びました」と話すのは、マルス信州蒸溜所の折田浩之所長。
「ここの空気は清冽で、霧も多い。樽の中のウイスキーは、呼吸をするように清らかな空気や霧を取り込みながら、ゆっくりと熟成を重ねていきます」
マルス信州蒸溜所の特徴は、恵まれた自然環境だけではない。ウイスキーづくりの中で、要となるのが蒸溜の工程。ポットスチルの蒸溜窯の形状も、酒質に大きく影響するという。マルス信州蒸溜所に設置されているのは、岩井式ポットスチルと呼ばれるもの。岩井とは、本坊酒造の顧問を務めていた岩井喜一郎。その岩井はニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝をスコットランドに送り出した人物で、竹鶴ノートを参考にして独自のポットスチルを設計した。
「現在のポットスチルは二代目になります。初代の図面をトレースしているので、フォルムは変わりません。一方で、昨年新しい蒸溜棟をつくり、発酵タンクなど設備をほぼ一新しました。だから連綿と受け継がれた技術を変えずに、いまはより進化した状態になっています」と折田さん。
こだわり抜いてセレクトされた、駒ヶ岳の原酒。
「YOIYO」でのコラボが決まった時、どのウイスキーを使うかの提案はマルス信州蒸溜所に委ねられていた。この蒸溜所ではシングルモルトウイスキー「駒ヶ岳」の他に、ブレンデッドウイスキーも各種つくっている。ウイスキーに合わせるチョコレートは、ロッテがこだわり抜いたミルクチョコレートが用意された。試食した時の印象を、同蒸溜所ブレンダーの河上國洋さんはこう振り返る。
「やはりウイスキーにはビターチョコが合うだろう、と想像していました。ところがいざ味わってみると、ミルクチョコの口溶けのなめらかさがマッチすると感じました。マルス信州蒸溜所のウイスキーの仕込み水は軟水です。そのせいか味わいがなめらかになり、丸みを帯びてくるようなところがあって。これはいけると思いました」
口溶けのなめらかさが特徴のロッテのミルクチョコレート。その中に詰めるウイスキーは、どれにするのか。出した答えは数あるブレンデッドウイスキーではなく、シングルモルトの「駒ヶ岳」だった。その理由をブレンダーの河上さんはこう説明する。
「YOIYOは日本の各地を旅するような気分で味わうチョコレートだと聞きました。ならばマルス信州蒸溜所の骨格になるウイスキーで勝負したいと思ったんです」
とはいえ、「駒ヶ岳」は生産量が限られたウイスキーだ。所長の折田さんは言う。
「駒ヶ岳は商品として発売すれば、すぐに売れてしまいます。でも、チョコの中に入れることで、その味を少しでも多くの人に届けられるという思いがありました」
だが、銘柄を「駒ヶ岳」に決めたのは、ウイスキー選びの始まりでしかなかった。樽で熟成させるウイスキーは、樽の種類やアルコール度数で味わいが変わってくる。
「この蒸溜所で熟成させている複数の樽をマッチングの対象にしました。ミルクチョコを念頭に置きながらサンプリングを進め、シェリー樽など十数種類をピックアップして最終選考に臨みました」とブレンダーの河上さん。セレクトに妥協がないのも、ウイスキーメーカーとしての矜持だろう。
ロッテの田中さんも参加した最終選考会。満場一致で選ばれたのは、バーボンバレルで熟成された「駒ヶ岳」だった。
「まず口の中でミルクの香りがして、後から『駒ヶ岳』のよさが広がっていく。これだ!と。参加者の緊張感が高揚感に変わった瞬間でしたね」と田中さんは話す。
大人のよい夜を楽しむために「YOIYO」を。
日本のクラフト酒を味わうチョコレート「YOIYO」の第一弾として、徹底したこだわりから生まれた「YOIYO<KOMAGATAKE>」。このチョコを味わってほしい人について、ロッテの田中さんにはあるイメージがあるという。
「YOIYOというネーミングには“よい夜”、“ほどよい酔い”などの意味が込められています。自宅で過ごすことが増えたいま、夕暮れ時のひと時、または夕食後の寛ぎタイムに、日本のクラフト酒入りチョコレートでプラスαの価値を提供できれば、と考えました。たとえばYOIYOを食べた夫婦のあいだで、駒ヶ岳に関する会話が生まれたら素敵なことではないでしょうか。そのため、パッケージに絵葉書のように美しい木曽駒ヶ岳の写真を使い、訪れたことのない人でもウイスキーが生まれる環境をイメージできるようにするなど、付加価値を生む工夫をしています」
夕食後の、穏やかなひと時。ひと粒口の中に入れると、口溶けのなめらかなミルクチョコレートが舌の上に広がる。鼻から抜けていくのは、クリーンでリッチなシングルモルトウイスキー「駒ヶ岳」の香り。ウイスキーが生まれたのは、清冽な水と空気に満たされた木曽駒ヶ岳の麓。
その美しい風景が頭の中に浮かび上がり、思わず誰かと話したくなる――。そんなストーリーをしっかりと伝え、共感できる人に商品を直接届けたいという思いから、「YOIYO」は店頭で販売せず、オンライン限定の商品で生産量も限定される。豊かな在宅時間のために生まれた、ロッテの新ブランド「YOIYO」。まずは第一弾の「YOIYO<KOMAGATAKE>」で、信州を旅する気分を味わってみてはいかがだろうか。