昔から喫茶文化が息づく京都が、いま新たなコーヒー店のオープンラッシュで沸いている。京都コーヒー界の事情に精通した「トラベリングコーヒー」の店主・牧野広志さんがお薦めする最旬の店を訪ねた。
数年前からコーヒースタンドが次々とでき始めた京都。とりわけ2019年から2020年にかけては、豆や焙煎、抽出、ラテアートなど、店主のこだわりが貫かれた個性的な店の登場が続き、京都コーヒー界の流れを一気に変えるほどの勢いだ。数あるお店の中からイチオシを紹介してくれたのは、「トラベリング コーヒー」店主の牧野広志さん。毎日、何軒も巡り、この街のコーヒーシーンに精通した“カリスマ”が、いま真っ先に訪れるべき店を案内する。
【ウィークエンダーズコーヒー ロースタリー】町家を改装した空間で、世界レベルの浅煎りを。
「京都には抽出やラテアートなど各分野のチャンピオンが多く、そんなスター選手が京都のコーヒー界を牽引し、支えている。なかでも焙煎のレベルがどんどん上がっているのは、金子さんの存在があるからこそ」。牧野さんが語るように、「ウィークエンダーズ コーヒー」の金子将浩さんは京都コーヒー界のトップランナーのひとり。2005年にカフェをオープンし、2011年から自家焙煎をスタート。深煎り文化が根付く京都で、早くから豆本来の味わいを大切にした浅煎りを追求してきた。
生豆の管理と焙煎を第一に考えて、2019年11月には焙煎所を元田中から街中へ移転。焙煎機もプロバット社の最大容量5kgから、ローリング社の最大容量15kgへとパワーアップした。「目指しているのは、すっと入っていくような味のきれいさと質感」という金子さん。2018年からはコロンビアやエチオピアといった産地へ直接買い付けに行っているという。「金子さんは豆のポテンシャルを最大限に引き出す焙煎家。世界中から金子さんが焼いたスペシャルティコーヒーを飲みに来ます。よそから来たのでなく、ずっと京都から世界に向けて発信している功績は大きい」。築100年以上の町家を改装した凛と静かな佇まいの中、世界レベルの味わいを楽しみに出かけたい。
【アイオライト コーヒーロースターズ】優しい味わいのフルーティなスペシャルティコーヒー
「いいなと思う店はだいたい夫婦でやっている地域密着型が多いけど、ここもそのひとつ。吉田くんのコーヒーは甘くて、口当たりがやさしいのが特徴」。東京・武蔵小山の自家焙煎コーヒーの名店「アマメリア エスプレッソ」で修行ののち、妻の地元である京都で独立オープンを果たした吉田大輔さん。町家をリノベーションした吹き抜けの開放的な店内には、まず入り口に豆の香りを嗅いだり、試飲ができたりするコーナーを設置。そして、修行先から受け継いだというラッキーコーヒーマシン社の焙煎機が鎮座する。
「師匠は職人肌で、データや数値だけに捉われるのでなく、最後は五感で仕上げるということを教わりました。できるだけ素材そのもののよさを伝えられるように、雑味や渋味、焦げ感といった阻害要素を排除しながら、甘さを引き出すようにしています」と吉田さん。ラインアップはブラジルの豆を3種混ぜるハウスブレンドと、シングルオリジンを5〜6種類。いずれも、香りが華やかだったり、果実やチョコレートを思わせる風味がしたりと、ベースに優しい甘さが感じられる。特に浅煎りは、ジュースかと思うようなフルーティさだ。妻お手製の焼き菓子や人気ベーカリー「ワルダー」の食パンを使ったトーストメニュー、キッズドリンクなども揃い、あらゆるシーンに対応してくれる包容力が頼もしい。
【タレル】コーヒーと自然派ワインが楽しめる気軽なスタンド
二条城の南東にあるコンテナ19基と長屋3軒からなるユニークな複合施設「共創自治区コンコン」。カメラマンやデザイナー、演出家、染色補正の職人など、多種多様な職種の人が集まるその玄関口に「タレル」はある。朝からコーヒーやワイン、自家製パンなどを楽しめる坂本光優(みつまさ)さんの店だ。「最初に来た時はすごく興奮しましたね。これこそいまの京都だ!って。場所の面白さもさることながら、コーヒーとワインを同列に扱っていたり、パンやローストポークなどを全部自分でつくっているところも魅力」と牧野さん。
坂本さんは、カフェやコーヒースタンドなどで働いた経験を通して、ワインとコーヒーに近しいものを感じ、両方を提供する店をつくりたいと思うようになったという。「コーヒーもワインも生産者の顔が見えるものが好きです。コーヒーは同世代で信頼できる人が焙煎した豆を扱っています。ワインはすべて自然派のもの」。河原町丸太町の「スタイルコーヒー」の豆で淹れるエスプレッソには、シアトルのシネッソ社のエスプレッソマシーンを使用。東京・目黒の「スイッチコーヒー」の豆で淹れるシングルオリジンは、一杯ずつハンドドリップで。コンテナという小さな空間ながら、坂本さんが醸し出す穏やかな空気もあってか、不思議と居心地のいい店内。近所にあったら毎日通ってしまいそうな一軒だ。