主力の「一番搾り」や「本麒麟」で、日本のビール市場をも席巻するキリンだが、昨今ウイスキーでも国際的な評価を得ていることをご存じだろうか。とくに注目を集めるのが、海外でアワードに輝く「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」だ。ブランドマネージャーを務める根岸修一さんに、その魅力を聞いた。
キリンで最も有名な事業はビールの製造・販売だろう。1888年に発売された、聖獣・麒麟をラベルにした「キリンラガービール」は現在もロングセラーで、ビール類の販売シェアは業界トップを争う。それに比して、「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」を製造する「富士御殿場蒸溜所」が操業したのは1973年で、「キリンビール」発売から85年後のことだった。そこから40数年の時を経た2016年、「富士御殿場蒸溜所シングルグレーンウイスキー25年スモールパッチ」が、イギリスの「ウイスキー・マガジン」主催の「ワールド・ウイスキー・アワード」で、ワールドベストグレーン賞に輝く。
「あの頃は、ちょうどジャパニーズウイスキーが注目されている時期でした。くわえてシングルモルトにはない、シングルグレーンのやわらかで香味豊かな飲み口が評価されたのだと思います」。受賞を振り返りながら、ブランドマネージャー・根岸修一さんは話す。ちなみに昨年も「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」は、数々の国際コンペティションでアワードを獲得している※。
※「キリン シングルウイスキー 富士 30年」がインターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2020にてトロフィー、ワールドウイスキーアワード2020で「ワールド・ベスト・グレーンウイスキー」 (2016年、2017年、2019年に続き4度目)を受賞。「「キリン シングルウイスキー 富士」がインターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2020にてゴールド受賞。
ウイスキーづくりに最適な条件が揃う、富⼠御殿場蒸溜所。
では“シングルグレーン”とは、いかなるウイスキーなのか。「文字通り、単一蒸溜所のグレーン原酒だけでつくったウイスキー。非常にめずらしいつくりで、『富士御殿場蒸溜所』だからこそなせる1本です」と根岸さんは語る。
ウイスキーの原酒には、大きく分けて2種類がある。大麦麦芽が原料の「モルトウイスキー」と、トウモロコシ、ライ麦、小麦などの穀類が主原料の「グレーンウイスキー」。前者は濃厚でパンチのある風味が、後者は穏やかで優しい口当たりが特長だ。ちなみに世界で最も飲まれているウイスキーは、この2種類の原酒を掛け合わせたブレンデッドタイプで、バランスのとれた味わいが身上だ。
「モルトもグレーンもブレンデッドも、キリンのウイスキーはすべて『富士御殿場蒸溜所』で製造してきました。キリンがここで40年以上培ってきたウイスキーづくりのノウハウを凝縮するとしたら、どんな1本が生まれるか。それを探求した結果、誕生したのが『キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠』でした。水が清らかなこの地がウイスキーづくりに適した場所だからです」
「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」は、富士御殿場蒸溜所でつくられた個性が際立つ3つのグレーン原酒をブレンドしている。
「まず口当たりのよさをまとめるのが、軽い飲み口のスコッチタイプのグレーン原酒。次にミディアムボディのカナディアンタイプのグレーンは、フルーティーさと味わいの余韻を与えます。さらに風味が豊潤でヘビーなバーボンタイプのグレーンもプラスする。モルトウイスキーなしでも、香味が華やかで飲みやすい1本です。世界に様々な蒸溜所がありますが、こうしたつくり方をしているのは我々だけです」と根岸さんは語る。
ラベルやボトルデザインにも随所にこだわりが。
ウイスキーづくりに欠かせないのが、やはり「水」だ。キリンが蒸溜所を建設するにあたっては、まず日本各地の水探しから始まったという。「全国津々浦々、担当者が水源を巡っては、名水を集めてきたと聞いています。イギリスとカナダから来た職人やブレンダーに飲み比べてもらって、どれがウイスキーづくりに向いているか検討してもらいました」。結果、選ばれたのが、富士山麓に位置する御殿場だった。
「まず清冽でやわらかな富士の伏流水が、ウイスキーづくりに適していました。くわえて御殿場の冷涼な気候が、スコットランドに似ています。富士山に湿った空気がぶつかって、雲や霧が発生することに起因するようです」。
また、湿潤な気候は豊かな森林を育む。「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」のラベルに3種の緑文字が配されているのは、その自然への畏敬の念の表れだ。「『富士御殿場蒸溜所』を取り囲む原生林を表現しています」と根岸さん。
「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」のラベルからは、キリンの「挑戦」ともいうべき意欲も読みとれる。まず目に飛び込むのが、「FUJI」の文字。中筆書きを模した「富士」の漢字が薄墨で控えめな佇まいだからこそ、この欧文書体が際立って見える。「キリンとして、世界に誇るウイスキーを送り出していく。そんな決意表明なんです」。
また昨年、「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」の発売を機に、蒸溜所のロゴも新たに作成した、と根岸さん。
「『もっと自由にウイスキーを愉しんでほしい』という思いから、ラベル右下の『F』のロゴには、『フジ(Fuji)』、『フリーダム(Freedom)』、『ファイネスト(Finest)』の3つの『F』を掛けています」
ちなみに「F」の文字が一風変わって見えるのは、日本人初のアメリカ本土の地を踏んだジョン万次郎が、現地でノートに書き残したアルファベットをモチーフにしているから。ここにも「日本から世界へ」の決意と思いが込められている。
「実は『ウイスキーは自由だ』という思いは、キリンが『富士御殿場蒸溜所』を立ち上げてから、ずっと抱き続けてきた信念でした。ジャパニーズウイスキーは、一般的にスコッチ志向、またシングルモルトに重きを置く傾向があります。そのなかで、キリンの手で、日本から、新たなウイスキーの魅力を発信したかった。ウイスキーの選択肢を増やすことは、楽しみの幅をより広げてくれるからです。結果として『キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠』が、世界のコンペティションで高い評価をいただいた。これからも『ウイスキーは自由だ』を胸に刻んで取り組みます」
最も味と香りを引き出すのは「ワイングラス」
富士御殿場蒸溜所のロゴ「F」に込められた「フリーダム」の探究心は、「キリン シングルグレーンウイスキー富士」の楽しみ方でも発揮される。「3種類のグレーンウイスキーが奏でる味わいを楽しむなら、ウイスキー用のロックグラスではなく、白ワイングラスで飲むといいんです。ブレンダーが実際に数十種のワイングラスで試しましたが、ソーヴィニヨンブランのグラスが最も香りが立つという結論に至りました」
実際に注ぐと、カナディアンタイプの原酒の白ぶどうに似た香りがふわっと立ちあがる。その後に味覚と嗅覚を刺激するのが、香味がヘビーなバーボン原酒。ウイスキーらしい満足感が訪れたところで、最後はすっきりと軽い後味のスコッチタイプが舌を洗い流してくれる。強弱ついたバランスのいい飲み口に、思わず飲み過ぎてしまいそうにもなるが、さらなる楽しみを演出するのが、“スプーン1杯の魔法”だ。
「水の入ったスプーンを近づけたら、そこから1滴、グラスに垂らしてみてください」。恐るおそる、液面に落としてみると、華やかな香りがふっと鼻腔をくすぐる。「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」の魅力をさらに高める、魔法のしずくだ。
「ウイスキーの香味成分はアルコールに溶け込んでいるので、水を加えるとアルコール度数が下がって、抱え込めなくなった香りが出てきます」。この花や果実のような香りを楽しむためにも、ワイングラスで楽しむのが最適なのだ。
「とはいうものの、『キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠』の楽しみ方は、人それぞれ、無限大です」。シングルモルトが隆盛な昨今のウイスキー業界。「シングルグレーンを広めよう」というキリンの取り組み自体に、ウイスキーの多様な楽しみ方を発信したいというキリンの意気込みが感じ取れる。
やさしく穏やかな味わいのグレーン ウイスキーが、富士山麓から世界へ。2021年も「キリン シングルグレーンウイスキー 富⼠」が、日本、そして海外のウイスキーファンを唸らせ続けることだろう。
「キリン シングルグレーンウイスキー 富士」
アルコール分:46%
容量/容器:700mlびん
原材料:グレーン、モルト
価格:オープン価格
問い合わせ先/キリンビールお客様相談室 TEL:0120-111-560
https://www.fujiw.com/