2019年10月18日、上海のMIFA 1862アートセンターでロロ・ピアーナはリュック・ジャケ監督との共同制作によるドキュメンタリー映像作品『CASHMERE – The Origin of a Secret』を発表した。
ロロ・ピアーナのカシミアは類まれな柔らかさ、軽さ、暖かさで知られているが、その産地は自然環境の厳しいモンゴルと中国の内モンゴル自治区。その地がこのドキュメンタリー映像作品『CASHMERE – The Origin of a Secret』の舞台でもある。ロロ・ピアーナは6世代にわたり、最高品質の稀少な繊維を地球の果てまで追い求め、最高級ファブリックとウェアをつくってきた。小さな身体に強靭な生命力を秘めたヒルカス山羊、その山羊を育てる献身的な山羊飼いたち、自然からの貴重な贈り物に対するロロ・ピアーナの深い尊敬の念が、この作品には込められている。
ジャケ監督が撮った、 渾身のドキュメンタリー
言うまでもなく、カシミアはサスティナブル=持続可能性を備えた天然素材である。その繊維は生分解性を備え、やがて土に還る。もちろん一度製品化しても、再利用することが可能だ。
そのカシミアは中国やモンゴルに生息するヒルカス山羊から採取される繊維から生まれる。ヒルカス山羊は厳しい気候と過酷な気象条件にも適応できる動物で、外側の粗い刺し毛と、非常に柔らかい下毛という二層の特殊な毛で覆われている。この下毛から採取された繊維がカシミアの原料となる。下毛が採取されるのは、毎年4月から6月までで、その季節は天候が穏やかになり、冬の間、身体を守っていた下毛が自然に抜ける時期に当たる。もちろん下毛は採取後、また生え変わるので、翌年もまた採取できる。
そんな「ロロ・ピアーナ」の新たな取り組みが、三部作のドキュメンタリー映像として披露される。監督を務めたのは生物学者であり映画監督でもあるリュック・ジャケ。彼は06年『皇帝ペンギン』でアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。
「私は映画業界に携わる前は生物学者でした。三部作のテーマはまさに私の専門分野。そこは生物が生き抜くには地球上で最も過酷な環境。仕事も技能の習得も難しく生存競争もあるかもしれない。この3つの繊維の歴史には科学的、生態学的な重要な要素が含まれていると認識しました」と語る。
ドキュメンタリー映像三部作の一本目に選ばれたのは、同ブランドの中核をなす「カシミア」だ。内モンゴルのアラシャンを訪れたジャケ監督は、遊牧民の社会に完全に溶け込み、山羊の群れと過酷な生息環境とのコントラストを鮮明に映し出し、その稀有な世界とそこに暮らす人々のストーリーを映像で語る。
カシミアの生産を促進させる「ロロ・ピアーナ・メソッド」はアラシャンだけでなく、内モンゴル全域に拡大しているが、その動きをさらに推進させるために2015年に設立したのが「ロロ・ピアーナ・カシミア・オブ・ザ・イヤー賞」だ。内モンゴル自治区をはじめ中国各地の牧場が参加し、カシミア繊維の細さ、長さ、採取量などの客観的な基準により受賞者を選定し、生産者を支援することに貢献している。これらさまざまな施策により良質なカシミアの永続的な供給を目指すことが「ロロ・ピアーナ・メソッド」の大切な要素、もちろんこのドキュメンタリー映像もそれに一役買うことになる。
カシミアの起源に秘められた、真実に迫る。
ドキュメンタリー映像作品『CASHMERE – The Origin of a Secret』では、カシミアの産地であるゴビ砂漠、アランシャン山脈などモンゴルの壮大な自然、黙々と働く山羊飼いの日常、膨大な数のヒルカス山羊、そして家族の営みが映される。過酷な生息環境と山羊の群れ、過酷な生活環境と無邪気な子どもの笑顔といったコントラストを鮮明にし、そこに暮らす人たちの日常を巧みに切り取っている。映像はもちろん、音の世界が秀逸だ。シリル・オフォール(Cyrille Aufort)が手がけたオリジナル曲と風の音、山羊の足音などその場所にある生活の音とのハーモニー、その荘厳な臨場感に引き込まれる。
妥協のない品質を常に追求するブランド「ロロ・ピアーナ」は、世界最高の素材を使ったアパレルやアクセサリーなどを次々と生み出し、世界中で絶賛されている。この作品がこうして最初に発表されたのは、同ブランドが常に注目している素材がカシミアだからなのだろう。
会場には映像と同じ壮大な景色が広がるインスタレーションが用意され、モンゴルの過酷だが同時に、魅力的でもある自然環境をゲストたちが体験、さらに貴重な原毛も展示され、ロロ・ピアーナのカシミアの感触を味わった。
上映会には、リー・ビンビン(UNEP親善大使、WWFアースアワーのグローバルアンバサダー)をはじめ、冨永愛、スティーブン・フォン、ハン・ジミンなど多くの著名人も参加した。また、現地での撮影についてリュック・ジャケ監督は「撮影のために山羊飼いの家族と過ごし、彼らの暮らしの中に入る機会を得ることは、私にとって非常に重要でした。彼らの暮らしぶりを見ることは興味深いもので、それは昔のものではなく、まさにいま我々が生きている時代のことです。彼らのライフスタイルに深く入り込むことができたからこのような自然な映像が撮影できました」と語った。
今回上映されたドキュメンタリー作品の背景にあるのは、2009年から始まった「ロロ・ピアーナ・メソッド」と呼ばれるカシミア生産を促進する取り組み。これは内モンゴル自治区のアラシャン山脈中ほどで育てられる山羊の品質改良を目的としたシステム。
「カシミアはこの山羊から採られる繊維が原料となりますが、このメソッドの導入によって、山羊一頭当たりの採取量を高く維持しながらも、より細いカシミア繊維を得られるようになりました。牧場は山羊の飼養頭数を減らしても生産者の生活水準を高めることができる。さらに後継者の創出にもつながるのです」とロロ・ピアーナのファビオ・ダンジェラントニオCEOは語る。
これらは希少性の高いカシミアの品質改善と、放牧地の持続可能な利用を確立するための取り組みであり、サスティナブルな環境を求める現代に対して、繊維から製品に高いクオリティを求める「ロロ・ピアーナ」のメッセージでもあり、象徴でもある。
上映の後、優れたカシミアを表彰する「ロロ・ピアーナ・カシミヤ・オブ・ザ・イヤー賞」の受賞者が発表された。この賞は、山羊を飼養し、その稀少な繊維を採取する山羊飼いたちを支援し称えるために設立されたもの。受賞者は、繊維の細さ、長さ、採取量などの基準で選定される。今回受賞した成獣カシミアの総重量は112.3 kg (洗浄後正味)、繊維直径は13,6ミクロン、長さは28 mmだった。成獣の山羊のカシミア繊維としては賞の開始以来、過去最高の細さなのだという。そんな地道な活動も「ロロ・ピアーナ」の真摯なモノづくりを支えている。
このドキュメンタリー映像は、10月末からは同ブランドのウェブサイトでも公開されている。「カシミア」を知るには絶好の作品だと断言できる。
●問い合わせ先/ロロ・ピアーナ銀座並木通り本店 TEL 03‐3572‐0303