ユニクロとデザイナーのジル・サンダーによる伝説のコラボレーション「+J」が今秋カムバック。新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた2020年、伝説的デザイナーはいまをどう捉え、このコレクションを創ったのか。メールでのインタビューとともにお届けする。
モード史に名を刻むデザイナー、ジル・サンダーがファッションの世界に帰ってきた! ユニクロとのコラボレーションブランド「+J」が9年ぶりに復活し、11月13日(金)に発売される。前回の+Jは「Open the Future」をコンセプトに2009年から5シーズン続いた。無駄で華美なデザインはせず、上質な素材と完璧な仕立てで着る人の内面を際立たせる、そんなジルの服を安価に手に取れる夢のような機会だった。このハイエンドなデザイナーと日本企業ユニクロが組むことは、当時のファッション好きたちに衝撃をもたらしたのだ。
ユニクロは2006年から「デザイナーズ・インビテーション・プロジェクト」を実施し、パリコレクションや東京コレクションで活躍するデザイナーたちとの協業をスタート。そして、その3年後にジルとタッグを組んだ。ローンチの際にはパリの旗艦店に長蛇の列が出現。このコラボ以降、ユニクロのフィット、仕立てが向上した印象さえある。+Jは、ユニクロのグローバルブランドとしての地位向上に一役を担ったのだ。
さて、9年ぶりとなるコレクションの発売を前に、ジル・サンダー自身はなにを考えているのだろうか? メールインタビューを試みた。
デザイナー、ジル・サンダーがいま考えていること。
今回のコレクションに際し、「“衣服とは、長く着ることができる永続的なものであるべき”という考えのもと、現代のグローバルユニフォームとなり得るコレクションを創りました」とコメントしたデザイナーのジル・サンダー。
彼女の基本スタンスはいまも変わらないのだ。この信念のもと発表されたコート、ジャケット、シャツ、ニット、パンツやアクセサリーなどは、過去の彼女のコレクションを想起させる。シックだがセンシュアルな色使い、ソリッドなライン、立体的なフォルムなどが、昔からのファンの心をくすぐるだろう。しかし、前回のコレクションから約10年の間に時代は変わった。特に2020年は大変革の時。そんな現在の空気を感じてなのか、アイテムを見ると、素材づかいやフィットが少しリラックスした印象だ。
この10年間での変化を問われ、「私のデザインへの姿勢は変わっていません。いまでも、一見シンプルでありながら、現代の問題に対する非常に洗練された解決策を探しています」と答えるように、キャンペーンビジュアルからは力強さを感じる。彼女は服をデザインするとき、絵を描かずトルソーで実際にプロポーションをつくっていく手法をとる。そのため、布にある種の動きと強さが宿るのだ。
大きめになったフィットについて、「ボリュームを持たせるとゆとりができますが、フィッティングとはやはり身体のラインを際立たせるべきものだと思います。過去数十年間、ボディコンシャスな時代を経てきました。現代の平面的なファッション写真にインパクトを求めると、彫刻的でより素材感のあるルックに回帰していると感じます。私はデザインする際、空間での繊細な動きと3Dのプロポーションに注力しています」と、その背景について語った。
「ソーシャルディスタンスを保たなければならない現実の中で、個人のオーラをしっかりと出していくことが大切なのだと思います。だからこそ、立体的なフォルムと魅力的な動きをこれまで以上に追求しました」。その“動き”は静止画からでも伝わってくる。
コロナ禍におけるファッションについて、「人々は、自分や他人に対し新しい状況を表現できる服を必要としていると感じています。人々は目の前にある課題を乗り越えるために、精神的そして美学的にサポートしてくれるなにかを真剣に求めているのです」と語ったジル。
「衣服は身に着ける人のためにあり、着る人誰しもにエネルギーと自信をもたらすものです」と、現代の服の役割について分析する。
アイテムを手に取ると見えない部分が凝っており、服好きな人はディテールを見つける楽しさを覚えるだろう。ハンガーにかかっているだけでも動き出しそうな躍動感を纏っている。「民主的な価格でハイエンドの服を提供することは困難ではありましたが、あらゆる障害を乗り越え実現できました」と自信を覗かせる。いよいよ次ページでは、注目のアイテムを紹介する。
白シャツからコートまで、細部にこだわりのあるアイテムたち。
デザイナー、ジル・サンダーといえば、真っ先にシャツを想像する人も多いのではないだろうか。彼女のつくる静ひつで純粋、まったく無駄のない白シャツはそれだけで様になる。+Jでもシャツのバリエーションは豊富だ。ジルはシャツについて、「上着と身体の間にある、基本的な衣服。人間の無垢さと公の場でのフォーマルさを共有している。この複雑さに惹かれてやまないのです」と吐露する。シャツはそもそもアンダーウェアだった。現代においてはアウターにもなるが出自は下着なのだ。基礎であり、プライベートであり、正装にもなる。最も難しいアイテムなのかもしれない。
この前身頃下部が切り替えられた白シャツは今シーズンのマストバイだろう。比翼の前立てと交差することで浮き出る「+」は、まるで今回の復活を象徴しているかのようだ。オーバーサイズのフィット、最小限のデザインが1枚で着てもスタイリングを成り立たせる。コットンのシャツ地は、ユニクロを代表する長繊維のスーピマコットンを使用し、気品あふれる仕上がりとなっている。
上のシャツと同パターンで、襟とファブリックを替えたストライプシャツ。2種類のストライプで切り替えたクレイジーパターンが、ミニマルな+Jのイメージをアップデートする。襟はノーマルなシャツ襟かと思いきや、裏に隠しボタンが付いて実はボタンダウンという、一筋縄ではないデザイン。そのため襟元はすっきりと決まる。ジル・サンダーの美学にほれぼれすること間違いない。コットンは白と同じくスーピマなので、張りがありつつもしなやかな手触り。少し艶があって上品だ。
ジル・サンダーがつくるニットは面白い。普通の編み物じゃないか? と思い手に取ると、絶妙なデザインでまとめられている。カーディガンは雲のグラフィックに目がいくのは当然だが、実は後ろ身頃が少し長く、前後での印象が変わる。平面ではなくトルソーでデザインする彼女の美学を感じる。また、グレーで切り替えられた前立て下部やスラッシュのポケットなど遊びも利いている。
ユニクロを代表するマテリアルであるカシミア。ジルは「触覚的で安心する素材。カシミアをブレンドすることで、永続的なパワーを素材に持たせられる」と話す。シンプルなトップスと思わせるが、肩をよく見てほしい。ショルダーラインが袖と繋がったエポレットスリーブで、彼女が好むディテールだ。ユニクロのレギュラーラインにはない、微妙なニュアンスのブルーは外套の下で映えること間違いない。
男がもっともワクワクし、ジル・サンダーのこだわりが感じられるアイテムはこのパーカかもしれない。ダウンと吸湿発熱綿を内側に備え、保温性は十分で、表地は水をはじく撥水性のある高密度ポリエステル生地を使用。マットな表情が上品だ。フロントのソリッドなデザインのポケットはなんと3重。止水ジップのサイドポケット、その下にスリットサイドポケット、そしてフラップポケットと容量充分。裾やフード口にはドローストリングが付き、外気から身を守ってくれる。タウンユースからカントリーまで、寄り添ってくれること間違いないだろう。
ジル・サンダーのネイビーはなんだか品がある。ちょっと青みが強くて、どこか落ち着くのだ。テーラードジャケットを引き延ばしたようなこのミニマルなチェスターコートは、ネイビーで着たい。肉厚なメルトン、構築的な袖など服自体が動きを持っている印象だ。襟裏はカラークロスで裏打ちされた仕立ても抜かりない。内ポケットは斜めに開けられ、ものを出し入れしやすい。ポケット口が細い「揉み玉縁」というトリミングで仕立てられているのが大変珍しい仕様なので、試着の際に確かめてみてもらいたい。1.5mmほど手で揉みだして仕立てることから揉み玉と呼ばれるのだが、通常のビスポークで用いられる中でもっとも難しい玉縁の処理の1つだ。寒がりの人はカシミアブレンドのタイプもあるので、そちらもチェックしよう。
メンズ必須のワードローブ、スーツもぜひ揃えたい。フルブラックのシャープなジャケット&スラックスのセットアップはモードが薫る。上下合わせて約3万円とユニクロの中では高価だが、仕様が違う。用いたウールは日本を代表する毛織メーカーであるニッケ(日本毛織)社の素材。張りがあり、風格が漂う。ジャケットの仕立てはチェスターと同等のもの。スラックス内側にある、シャツがずり上がらないためのマーベルトはオリジナルで+Jのロゴ入り。
デイリーユースしたいチノパンはベルト部が裁ち出しのため、とてもミニマルなルックスだ。単純なストレートでなく脚部が湾曲しているため、脚の動きについてきて履きやすいだろう。サイドシームに設けられたコインポケット、玉縁のバックポケットなど、カジュアルアイテムでありながら上品だ。毎日ガシガシ履こう。
最後に、ジル・サンダーが語った、10年前から変わらない+Jのビジョンを紹介する。「贅沢は、シンプルさ、デザインの純粋さ、美しさ、そしてすべての人にとっての快適さであり人々のための品質なのです」。これぞニューノーマルの衣服ではないだろうか。着るたびに発見があるだろう。手頃な価格ながら本格的仕様を体感できる新+J。伝説的デザイナー、ジル・サンダーの美学をいまこそ存分に味わってほしい。
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