クリエイティブ・ディレクターとして、ファッションをベースにした店やブランドを次々に成功させてきた南貴之さん。「グラフペーパー 」のパーマネント コレクションは、彼が男性に提案する “現代の定番” で構成したプロジェクトだ。
「何を着ればいいのか?」。毎日考えるその問いは、流行り廃りの激しい世の中で生活する現代人の悩みのタネだ。どのようなワードローブを揃えておけば、センスのいい装いができるのだろうか。好きな服を着るだけで見栄えのする恵まれた人ならともかく、体型や年齢の問題も抱える多くの男性が、品格のある洒落た装いをするのは簡単ではない。ネクタイを締めないラフな服装が仕事着になり、一人ひとりに着こなしのアイディアが求められるようになったことが、その難しさに拍車を掛けている。
ここにクローズアップする「グラフペーパー」のパーマネント コレクションは、モダンな基本ワードローブを探すのにきっと役立つだろう。誰もが着やすい上質なベーシックに特化している。ストイックでモードな感性のある「グラフペーパー」から、常に店に並ぶ “永遠の定番” が厳選され、通年で販売するラインとして展開。2020年2月末には東京・表参道に同コレクションの単独店「グラフペーパー フレームワーク」もオープンし、ラインアップを一望できるようになる予定だ。
デザインするのはクリエイティブ・ディレクターとして、バイヤーとして、ファッションとライフスタイルを結びつけた先駆者である南貴之さん。服づくりも店づくりも真摯に追求する彼が、「どのシーズンでも安心して買える服」を目指してクリエイトしている。ここでは南さんにデザインの意図を語ってもらい、モダンな装いの感覚を探っていこう。
肩に羽織るロングコートの美しさ。
まず最初に、南さんが語ったコメントの抜粋からご覧いただきたい。グラフペーパーのスタイルを知る足掛かりになるだろう。
「男は大きめの服を着ているのがカッコいい」
「バサッと羽織って、でもクラシックすぎず」
「基準は、ボクが好きかどうか」
「着る人を邪魔しない服」
「好きなのは、昭和の男の雰囲気、着こなし」
「なで肩の人がカッコいいと思う」
「自由な服装が増えた時代には、オンオフ兼用の服が必要」
「気に入った服を、翌年にも買えるブランドにしたい」
「無地の気が利いてる服を、ボクと同じように好きな人がいるんじゃないか」
「自分で毎シーズン、各地の機屋や工場を回る。そうしないとつくれないから」
パーマネント コレクションのアウターを代表する一着が、コットンのロングコートだ。トレンチとステンカラーの2型あり、ここではステンカラーにフォーカス。淀みなく真っ直ぐな縫製の美しさや端正な顔つきは、日本屈指のコート工場で製造された品ならではのクオリティだ。着物の羽織にも通じるたっぷりとした形にモダンさがある。
「ボクの思う“新しいスタンダード” です。もっとも重視したのは、佇まいの良さ。ラグラン袖で、なで肩のように肩傾斜を下に落とす形をつくるのがすごくたいへんでしたね。従来のコートの常識とは異なっていますから、職人さん泣かせの仕事でしたよ。ビンテージコートをイメージしたものの、単なる大きな服でなくいまの時代らしく。生地は限界まで打ち込んだ(目を詰めた)コットンで、浜松の機屋さんと開発しました。マットな質感もこだわりポイントです。昔の玉虫色のコートのようにテカテカしたものは好みでなくて」
南さんがこのように解説するコートは、ドレッシーながらワークウエアのように気軽に着られる逸品になった。
必要とされる、オンオフ兼用のテーラード
ウール素材のテーラードジャケットは、オンオフ兼用で着られる便利なアウター。オフスケール加工で表面の毛羽立ちを取り除いた生地は、シワになりにくくスポーティだ。テーラードの人気が再燃してきたいま、服装の制約が少ない人のデイリーな仕事着にも最適である。
「形がボクシーな、アメリカ的なクラシックをイメージしました。3つボタン段返りで、袖は本切羽。フロントにだけ毛芯を入れた本格的な仕様です。グラフペーパーの店のお客様はIT業界やクリエイターの方が多く、仕事着がわりと自由なんですね。その方たちがタイドアップでも着られるジャケットを目指してつくりました。ちゃんとした部分とゆるい部分とをメリハリつけてデザイン。昭和の男の着こなしが感じられる、ボク好みの仕上がりになっています」
シャツにこそ新しい発想を。
ボタンダウンシャツは、世代や趣味を越えて男性が好む人気ナンバーワンのシャツだろう。上品さとカジュアルさが同居して、洗いざらしが似合う身近な印象が、日本人の琴線に触れるのかもしれない。
「このシャツの基本形は、80年代のアメリカンシャツです。身幅が大きく、痩せている人が着てもきれいに肩が落ちるように傾斜がしっかりと考えられています。シャツはこれくらい余裕のある着方がいいと思うんですよ。なで肩の人がたっぷりと着るバランスがカッコいい。でも、マッチョな人が着ても似合いますよ。大人しか出せない味というか着こなしができるシャツです。第一ボタンを開けても閉めてもきれいに見えるように襟を小さくして、ボタン間隔やネック周りにも特に気を配りました」
縫製ステッチの細かさは、南さんが「日本で最高ランク」と評するドレスシャツ工場製だからこそ。イギリスの「トーマスメイソン」のストライプ生地を、アメリカ発祥のシャツに用いて異なるテイストを融合させたり(上写真)、ベッドシーツ用のブルー生地でシーツに包まれる心地よさを狙ったり(下写真)、グラフペーパーのシャツにはトラッドの枠組みを越えた自由な発想力がある。
編集発想で、新しいデニムウエアの誕生。
「カバーオールが好き。ジージャンも好き。でもボクにはジージャンは似合わなくて。ならばひとつにしてしまおう、と考えたのがこのジャケットです」
そう話す南さんが “編集” したカジュアルウエアが、ジージャンのディテールを持つカバーオールだ。さらに素材にも大きな特徴がある。なんとデニムなのに色落ちしないのだ。
「古着のブルーデニムの、縦に色が落ちた風合いが苦手なんですよね。ワンウォッシュ程度の色の濃い状態が一番好きで。だから色落ちしないデニムを開発しました。タテ糸を実は、色落ちする合成染料のインディゴではない染料で染めています。見た目はデニムながら、洗っても新品に近いままにできる特別な生地です」
パンツ(下写真)でもこの生地が使われており、色移りが少ないため白シャツをインする着方もできる。上品な服装とコーディネートできるようになり、大人のデニムの着こなし幅が大きく広がった。
店はショールーム、購入はECサイトで。
一年中着る無地のTシャツが全世代共通のマストアイテムになったいま、グラフペーパーも大人が望む上質なTシャツを手掛けている。ラインアップの中でこのTシャツがベストセラーという事実が、ほかにはない良さを物語っている。サイズも豊富で、1からビッグまでの5サイズが用意された。
「限界まで度詰めした頑丈な生地を採用しています。丸胴で編み立て、ボディの脇に縫い目がなくゴロつきません。これも身幅にゆとりがありますね。現在の完成形に至るまでに、何度もやり直したこだわりの箇所はネック周り。両肩から首後ろまで『タコバインダー』と呼ばれるテープを縫い付けることで、きっちりとさせています。ジャケットのインナーにも着るTシャツは、ネックがちゃんと維持されるのが大切ですから。洗い込んでもヘタらない自信作です」
一着つくるのに一日を要する、ゆっくりと編まれた両畦(りょうあぜ)編みのニット(下写真)も見逃せないアイテム。Tシャツと同様に編み目がタイトで、さらに凹凸を美しく立たせている。無地のプレーンなニットこそ、こうした工夫が高級感を生む。
ファッションのバイヤーとしてキャリアを始めた南さん。2008年にプロデュースした東京・中目黒の「1LDK」では生活雑貨も並べ、ライフスタイルショップという新たなシーンを牽引した。その後、自社でのファッションブランドのPR業務、「フレッシュサービス」「グラフペーパー」といった個性的なショップ(ブランド)を立ち上げ、時代を先読みしてきた。さらに18年に誕生した東京ミッドタウン日比谷では「ヒビヤセントラルマーケット」をディレクションし、多方面から注目を集めた。
その彼のもっとも新しい挑戦が、現代の定番アイテムを揃えた新ショップのオープンだ。販売方法もユニークで、店をショールームとして、実際の購入はECサイトで行う仕組み。試着したい人は店を訪れ、リピーターはECサイトにアクセスするだけでOK。年齢や体型を問わないサイズ感の服だからこそ、試着する機会を得られなくても失敗の少ない買い物ができる。定番とはいえ常に改良やアレンジが行われ、時代の変化にも柔軟に対応されていく。着る服選びに迷っている人も、シンプル・イズ・ベストを好む人も、きっとお気に入りが見つかるはずだ。
Graphpaper Framework
東京都港区南青山3-17-3 ジュピターアネックスビル3F
TEL:03-6447-5727
営業時間:12時〜20時
不定休
https://graphpaperframework.com
※ 実店舗及びECサイトは、ともに2020年2月末オープン予定。