欧州のヴィンテージ感が漂う、富士山麓の街にある個性派店「THE DEARGROUND」

  • 写真:江森康之
  • 文:小暮昌弘
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デスティネーション ショップ15:「オールドマンズテーラー」「R&D.M.Co-」といったこだわりのオリジナルブランドをおもに扱い、富士吉田の街に店を構える「THE DEARGROUND」をご紹介します。

自然光を活かした店のつくり。生地の色や風合いがよくわかります。写真の3階に置かれた商品の約6割が「R&D.M.Co-」で、残りが「オールドマンズテーラー」といった商品構成です。

ユネスコの世界遺産に登録され、国内外での人気をさらに高めている富士山。 そのお膝元の富士吉田市に、カフェを併設する洒落たコンセプトストア「THE DEARGROUND」があります。こだわりある服づくりで評判が高いメンズの「オールドマンズテーラー」と、自社工場で織ったリネンを中心にしたユニセックス(レディース&メンズ)のライフスタイルブランド「R&D.M.Co-(アール アンド ディー エム コー)」を品揃えの中心にしたショップです。ふたつのブランドを手がけているのは、しむら祐次さんととくさんの2人で、その服は糸からオリジナルで開発したものがほとんどです。2人が好きな英国やヨーロッパの古きよき時代を感じさせながらも、独自のセンスでつくり上げられた“どこにもない”服や雑貨。ショップの隅々まで2人のテイストや趣味嗜好が感じられます。

旧織機を使ったものづくりから自分たちの道を探った。

もともとは電子部品をつくっていた会社のビルを借り受け、2階にカフェ、3階に2ブランドを並べるショップをつくりました。
ビルの左端にある入り口に看板があります。ロゴまで洗練された雰囲気が漂います。

意外に聞こえるかもしれませんが、山梨県の富士吉田市は、ネクタイなどに使われるシルク織物の産地です。「THE DEARGROUND」を営むしむら祐次さんの夫人、とくさんのご実家も織物工場で、長い間シルクを織っていました。祐次さんがこの工場の仕事を手伝うようになったのが1990年代末の頃。クールビズの流行で、ネクタイ産業が衰退していった時期です。シルクの織物工場もアジアなどに移っていった時期と重なります。

「自分たちの会社を守るためには、生地を織って問屋に卸すだけではいけない。自分たちで製品をつくって直接ショップに卸そうと考えたのです」

その頃、祐次さんは英国でネクタイ用の反物を発見します。平織りのポプリンの生地で、セルビッチ(耳)が付いた英国の有名生地メーカーのものでした。もしかしたら自分たちの古いシャトル織機ならば、同じような生地が織れるのではないかと考え、祐次さんは何度も試作を重ね、オリジナルのポプリン生地を完成します。同時に「オールドマンテーラー」というブランドを立ち上げ、出来上がったネクタイをアンティークのトランクケースに詰めて都内の老舗百貨店に持っていくと、そのプレゼンテーションの仕方も気に入られ、ビジネスがスタートしました。

3階に上がって左手に並んでいるのが「オールドマンズテーラー」を中心としたメンズウエア類です。

「ネクタイって、スタイルや形は決まっています。生地の幅だって狭いですし、だから生地の柄が勝負なんです。ヨーロッパに行って古い資料や柄のモチーフなどを探しながら、3年くらいネクタイだけでビジネスを続けました。要望があったのも事実ですが、ネクタイだけだと表現するのがだんだん難しくなり、シャツもつくるようになりました。そうなると次はスーツ、次は靴とかアイテムを増やしていくことになるのではないか。そうしたことに少し危惧を持ったのです」

当時の様子を祐次さんは話します。自分たちは工場を守るためにネクタイの製品づくりをスタートさせたのに、ファッションビジネスの渦のなかに呑み込まれてしまうことに違和感を感じてしまったのです。

「オールドマンズテーラー」をデザインするしむら祐次さん。ブルーのリネンジャケットと白のタートルネックシャツを着こなします。

その頃、祐次さんととくさんはフランス製のリネンクロスに出合います。アンティークの生地で、使い込まれた風合いに2人は引き込まれたのです。そして自分たちがシルクを織っていたシャトル織機でこのリネンを織れないかと考えたのです。しかしセルビッチ付きのシルク生地を織ることまでは成功しても、まだこの機械でリネンを織ったことはありません。アンティーク風のリネンを織るために糸の撚り具合を考え、経糸と緯糸の密度などの研究を続けました。1年後、ようやく自分たちの納得するリネン生地を織ることができるようになりました。そして2004年、このリネンをもとにしたブランド「R&D.M.Co-」を立ち上げたのです。このブランド名は「Research & Development Manufacture 」の略。リネンの生地を研究して開発、生産するという過程をそのままブランド名にしたものです。

「最後のCo-は、カンパニーの意味もありますが、コミュニケーションの意味も込められているんです。やはりひとつのつながりみたいなものを大事にしたいので」

「オールドマンズテーラー」でブランドを始めた当初からつくっているシルクのポプリンのネクタイ(¥18,360)です。ハンドメイドで仕立てています。

「R&D.M.Co-」がターゲットにしたのはいわゆる雑貨屋さんです。市場にもアンティークの生地が少しずつ受け入れられるようになってきた頃で、ギフトショーに出展すると全国の300を超える会社やショップから引き合いを受けますが、単なる流行に終わってはいけない、ずっと定番で販売できるものだけを生産したいと、2人は考えました。

「量産して一挙に売るという感じではなく、ここに置いてもらったら自分たちが納得できると感じた店だけ。そうですね20くらいでしょうか。卸先を絞って展開するようにしました」

祐次さんは当時をそう振り返ります。さらに「R&D.M.Co-」は基本ユニセックスで。これも祐次さんの考えでした。

「雑貨屋さんに行くと、家族はショップの中にいても、お父さんは外で待っているケースを見ますでしょ。ならばユニセックスで使えるものをつくれば、男性ももっと雑貨屋に入れるのではと思ったのです」

ハンカチやタオル以外にも男ひとりで使えるガーメントケースやトートバッグなどもデザイン。ウエア類はカットソーから始めて、メンズ&レディス仕様に。生地もブルーだったり、チェックだったり、メンズのニュアンスがあるものが多いのですが、それが「R&D.M.Co-」が男性女性を問わず人気を集める理由になり、ブランドの特徴にもなったのです。

リネンだけでなく、張りのあるコットンやウールを使ったコレクションも揃っています。
オリジナルで織ったリネンを使った白のボタンダウンシャツ(¥28,080)。小ぶりの襟が特徴的で、洗い晒しのまま着てもサマになります。

自社のブランドである「オールドマンテーラー」や「R&D.M.Co-」のブランドの成り立ちをまとめた書籍『R&D.M.Co-』(主婦の友社刊)を発行した2人が次に取りかかったのが、自分たちのショップをつくることでした。

「自分たちのスタイルや、自分たちがどういうものを見てこういうスタイルが好きなのか、ということを伝えていったほうがいいと思いました。地元の人にも来てもらいたいのですが、県外からもぜひ訪ねてもらいたい。東京にはカフェもたくさんありますが、この辺りにはないので、そんな施設も一緒にしたものを考えました」

2人が地元で見つけた物件は昭和40年代に建てられたビルで、もともとは電子部品の会社が入っていた建物でした。自分たちで全部直すからと借りたビルを、床材を剥がし、壁を壊し、ヨーロッパで集めた什器などを取り付けて、2014年に「THE DEARGROUND」が出来上がりました。2階はカフェとアンティークのアクセサリーなどを扱うスペースに。3階には、「オールドマンテーラー」と「R&D.M.Co-」が並んでいます。

等身大のオーセンティックな服をつくりたい。

メンズアイテムが並ぶ3階の奥にある日本製のシャトル織機。一度分解した後、3階で組み立てられたものです。
「職人をカッコよく見せたいと思いまして、黒に塗りました。スコットランドで機械に色を塗っているのを見たことがありまして」と祐次さん。

メンズ&レディースの「R&D.M.Co-」は祐次さんととくさんの2人でデザインしますが、「オールドマンズテーラー」をディレクションするのは祐次さんです。48歳の祐次さんより一回りほど若い大貫さんというデザイナーが東京にいらして、2人がアイデアを出し合って、服をデザインします。

「僕だけの考えだと、自分のスタイルに合わせて、もう少しカチッとした感じになってしまうと思ったのです。もちろん基本的な方向性は僕が出します、こんな感じがいい。こうしましょうとか。そこに大貫が味つけをしていくわけです。僕らの製品はこだわってつくっているので、そんなに安いものではありません。生地だって高いものを使いますし、それにいまの時流に合わせてものづくりをするタイプでもない。ある意味クセのある服だと思っていますよ」

祐次さんは、「オールドマンズテーラー」のコンセプトを話します。使われるリネンの生地はもちろん自社工場で織っていますが、自社で織れないものは静岡や愛知の工場で、ほとんどオリジナルでつくっています。デニムはもちろん産地の岡山で。服づくりの基本といえる素材=生地にこだわり、世代の違う2人が共演することで、クラシックとモダンさがミックスされた特徴的なアイテムが生まれてくるのです。

「オールドマンズテーラー」の代表的なアイテムであるリネンのレギュラーカラーシャツ(¥28,080)。リネンはシャトル織機で、ゆっくりと織られたものです。
パイピングが入った英国的なデザインのジャケット(¥56,160)。フライフロント=比翼仕立ての凝ったフロントデザインが洒落ています。

祐次さんに、「オールドマンズテーラー」という名前の由来を尋ねてみました。

「名前を考えるときにいろいろと悩みました。英国のサヴィルロウに行くと、なんとかテーラーという仕立屋がありますよね。僕らもそういう老舗みたいなブランドを目指していたのも事実です。でも気になっていたのはフランスのオールドイングランドという名前のショップです」

パリのオペラ座近くにあったメンズの名店で、名前の通り英国製品をおもに揃えたショップでした。祐次さんもフランスに行くとその店によく通っていましたが、あるとき、ジャケットにコートを羽織った老人がフランスパンを片手にその店の靴売り場に入って行くのを見たそうです。老人は少し酔ったようにも見えて、ヨタヨタと店の階段を降りて行ったそうですが、その老人のイメージが「オールドマンズテーラー」の名前の由来です。オールドイングランドに通う老人の洋服箪笥の引き出しを、子どもあるいは孫が開けたことを想像してください。「おじいさんってこんなにオシャレだったんだ」と感じてもらえるでしょう。そんな品揃えを「オールドマンズテーラー」で表現できたらと祐次さんは考えています。だから「オールドマンズテーラー」のコレクションの中には、高級な生地で仕立てられた下着やパジャマなど、紳士のワードローブ的なアイテムも揃っているのです。

オリジナルのジーンズをロールアップさせ、くるぶしまで隠れるブーツを履く祐次さん

「オールドイングランドって、フランスにあるのに英国を見ている。その形がカッコいい、洒落ている。僕たちもそんなブランドになりたくてブランド名をこうしたのです」

それでも英国などにあるガチガチのトラディショナルなスタイルは自分たちが目指すところではないと祐次さんは話します。祐次さん自身、ネクタイはつくっていても、それを締めることはまれです。自分たちの等身大のものづくり、自分たちのライフスタイルのなかで楽しめるものをつくらないと本当のアピールにはならないと断言します。

「僕はバイクとか、クルマとか大好きなんで、それに影響を受けたデザインもすることもあります。それにミリタリーのテイストはいまの時代、外せない要素でしょうね。でも僕らがやるときには、アメリカ的なミリタリーではなく、ヨーロッパ的なものだと思います」

愛車は英国ランドローバーの4WDの「ディフェンダー」で、モッズスタイル好きが嵩じて、「ランブレッタ」も英国から独自で輸入したほどのクルマ好きの祐次さん。こうしたライフスタイルと独自のファッションセンスから「オールドマンズテーラー」の服は生まれます。

自社で織ったリネンをもとにしたブランド「R&D.M.Co-」

祐次さんは「2番目の自社ブランドである『R&D.M.Co-』はメンズ&レディスの仕様です。男性も関心が持てるブランドとしてデザインしました」と話します。

3階のフロアに「オールドマンズテーラー」と一緒に並んでいるのが、しむら祐次さんととくさんがデザインする「R&D.M.Co-」です。リネンを使ったウエアやアクセサリーは、まるでアンティークのように見えますが、すべて自社の工場で織られたものです。プリントの生地も美しいものばかりですが、これもオリジナルです。ヨーロッパなどで集めた古い生地や資料をもとに、自分たちで柄をいちからデザインしたものです。リネンはもともと強くしなやかな素材で、使い込むほどに味が出て、自分の分身のようになっていきます。そのリネンを単に織るだけでなく、このような風合いを出すことは、メイド・イン・ジャパンの職人的な技術によるものです。すべての商品にはそんなリネンに対する2人の思いが込められているのです。

メンズのスペースに置かれた「R&D.M.Co-」のアイテムなど。上段のアンダーウェア(¥6,480)には上質なシャツ素材が使われている。下段右のワークキャップは¥9,720、下段左はオールドマンズテーラーのスピンボーダーシャツ¥10,800

前述のように「R&D.M.Co-」はユニセックスがコンセプトで、メンズ&レディスのウエアやアクセサリーなどが展開されています。ウエアの中にはジーンズやスウェットシャツなど、メンズライクなものも多く、それらは「オールドマンズテーラー」のアイテムと一緒に並んでいるものもあります。ふたつのブランドで共通の生地を使うこともあると聞きます。ハンカチやタオル類はリネンの素材ということもあって、フランスのアンティーク風の仕上げですが、革を使った財布やペンケースなどは英国風の風格とデザインです。この両方のテイストがミックスされてユニセックスのブランド「R&D.M.Co-」は出来上がっているのです。もちろん完成度はそのままヨーロッパのショップに並べてもいいほど、高いものです。「R&D.M.Co-」の商品は卸されているショップでもかなりの人気だとよく耳にします。

しなやかなリネンやプリント素材が多用されたレディスのコレクション。部屋着的にリラックスして着こなせるアイテムもとても多く、人気です。
バレーシューズのようなデザインの靴(各¥9,504)にはオリジナルプリントのインソールが付いています。

3階のフロアは空間を大事にしたつくりです。窓に白いカーテンが吊るされ、ゆったりとした空気の中でショッピングを楽しむことができます。

「床材を剥いだときに、そのボンドの跡が可愛いなと思いました。テラコッタを敷いたようにも見えるかなと思って。2階のカフェは床を白で塗ったのですが、3階はそのままにしました」

服を吊るしたポールの裏側にあるパネルも可動式にして、雰囲気が変えられるようにデザインされています。階段を上って正面に敷かれたタイルのディスプレイ台も独特です。3階の奥には、古いシャトル織機まで置かれています。ここで新しいコレクションの展示会も行われているそうで、自分たちのブランドの世界観をビジュアルで味わってもらえるのです。

2人が目指すライフスタイルを表現した、2階のスペース。

2階のカフェスペースの大きなテーブルは、地元の生地屋さんが使っていたテーブルです。一度分解してからここで組み立てました。
「コーヒーや紅茶以外にも、オリジナルのケーキがカフェでは人気です」と祐次さん。

昭和40年代に建てられたビルの向かって左端にある階段を上った2階にあるのが、カフェとアンティークショップの「CAFÉ CAFÉ MARKET」です。カフェで提供されるのはコーヒーや紅茶、ケーキなどですが、「Far Leaves Tea」ブランドの紅茶のパッケージも祐次さんが自ら手がけたものです。

紅茶とは思えない独特のパッケージで、一見すると化粧品のようにも見えます。贈答用に買われるお客様もいます。
テイスティング用にガラス瓶に入れられた「Far Leaves Tea」の紅茶。英国的なものから中国風のものまでバリエーションは豊富です。

「もともとは、サンフランシスコのバークレーで営業していた紅茶のブランドです。この店で扱うときに、僕がパッケージをデザインしました。だからバークレーで売っているパッケージと違うのですが、買って使ってもらった後、そのままディスプレイに使ってもらえたら嬉しいなと思いまして」

祐次さんが言う通り、「Far Leaves Tea」のパッケージは、オリジナリティ溢れるデザイン。店内にはガラス瓶に紅茶のフレーバーサンプルが置かれ、その香りを実際にテイスティングしながら、お茶を楽しむことができます。

階段付近には家庭雑貨などが並べられています。直接外国から輸入したものがほとんどで、東京ではあまり見掛けないものばかりです。

2階ではカフェでお茶を楽しめるだけでなく、アンティークを中心に、ここだけでしか販売していないような雑貨類なども並んでいます。

「県外からこのカフェにいらしていただくことを考えて、ここでしか買えないものを揃えないとね、やはり。ほかでもやっているものを仕入れてここで販売してもしようがないですからね」

食器類から箒などの家庭雑貨類、バッグ類まで、店のインテリアか実際に売られている製品なのか迷ってしまうほど。すべてが統一したイメージで集められているからです。カフェに設えた手洗い用の台からスイッチ類までアンティークで、隅々までこだわったそのテイストは見事というしかありません。

若い頃から服好きで、古着屋さんを回って自分の気に入ったものを探す毎日を送っていた祐次さん。その経験が「オールドマンズテーラー」の服に活かされています。

「オールドマンズテーラー」や「R&D.M.Co-」の商品は、東京や大阪などの街でもアイテムの一部を見ることはできます。東京のセレクトショップや百貨店などではポップアップショップが開かれることもあります。しかし2ブランドのすべてが見られるだけでなく、“どこにもない”世界観を満喫できるのは、富士吉田市の「THE DEARGROUND」だけです。しかもウエアだけでなく、ライフスタイルすべてが表現されているのです。東京からクルマで2時間ほど、ドライブがてらに行く価値は絶対にあるショップではないでしょうか。

THE DEARGROUND
住所:山梨県富士吉田市下吉田 6-18-46 2F・3F
TEL:0555-73-8845
営業時間:11時〜19時
定休日:火、水、木