いよいよ春夏ファッションシーズンも本番。ここ数年続いたストリートウエアの流行からの揺り戻しもあって、今季は品のいい紺ブレザーに挑戦したい気分だ。それも、王道トラッドにひと捻り加えたスタイルを狙いたい。いま旬な紺ブレザー5着を、モダンな着こなしとともに紹介する。
ここ数年で、紺ブレザー復活の気運は静かに高まっている。ファッションデザイナーのようなクリエイターや、アメトラ世代ではない若い層に、クラシックな佇まいの紺ブレザーが新鮮に映っているのだ。ネイビーの色みは、ストリートウエアに影響された現代の服装に上品な薫りをもたらし、ミリタリーウエアに通じる金ボタンの装飾は、カジュアルウエアに慣れ過ぎて曲がった背筋をピンと伸ばす。“エレガント”や“フォーマル” な装いの台頭が予想される2020年代の門出を祝うのに、紺ブレザーほどふさわしいアイテムはないだろう。
今回はトップモードから現代のアメトラやイタリアン、前衛的デザインまで、テイスト別に5着を厳選してお届けする。シルエットも素材も工夫され、各ブランドの力が込められた渾身のラインアップだ。
極限まで絞られた、エレガンス際立つ「セリーヌ」
アーティスティック、クリエイティブ、イメージ・ディレクター、エディ・スリマンが手がける「セリーヌ」は、1970年代のフランスを彷彿させるコレクションで話題のモードブランドだ。テーラリングを得意とする彼がセリーヌで表現しているアイコニックなジャケットが紺ブレザーである。各ショップでスタッフが着用しているように、現在のセリーヌでは紺ブレザーが重要なアイテムに位置づけられている。大きな特徴はそのスリムなシルエット。身幅もアーム幅も極限まで絞られ、彫刻のごとく美しい立体造形がつくり上げられた。ヒップを覆うほど長めの着丈もエレガントだ。生地は厚手のウールサージで、軍服のように頑丈。真夏を除く3シーズンに対応し、これ一着あればジャケットの備えは万全である。
シェイプした痩せ型の人に最もフィットするこの紺ブレザーの着こなしは、ショーでも披露されたレトロシックなコーディネートを手本にしたい。下の写真は、裾がフレアなデニムを組ませた70年代スタイル。ミリタリーシャツの襟を上着の外に出し、ティアドロップのサングラスをかけるのもこの時代のやり方だ。ワイルドな服装を、ブレザーで品よくクラスアップする発想で着ると上手くいくだろう。2列に配されたボタン並びを活かし、フロント全開で着るのも流行の着方だ。肩に服を引っかける気分で、春の風を感じながら歩こう。
アメトラの流儀に即した、気鋭の「ローイング ブレザーズ」
オックスフォード大学で考古学を学び、30代の若さにしてボート競技(ローイング)選手、イラストレーター、ブレザー解説本『ローイング ブレザーズ』の著者など多彩な肩書をもつジャック・カールソンが2017年に設立したのが、著書と同名のファッションブランドだ。研究したヴィンテージをもとにニューヨークで製造し、近代の高精度な仕立てとは異なるクラシックな服づくりに注目が集まっている。同ブランドはカジュアルなスポーツウエアも数多く展開するが、メインとなるのはやはりブレザーだ。掲載品は背抜き仕立てで着丈が短くスポーティ。オールパッチポケット、3つボタン段返り(1つ目のボタンは留めない飾り用)、ミシンステッチ入りの襟といったアメトラの流儀に即している。襟裏のラテン語刺繍に見られる遊び心もこのブランドの個性だ。
クッタリとしたラフな紺ブレザーは、古着屋で出合った掘り出し物を着る時のように、上品な服装に合わせるのがいい。きっちりとタイドアップしても適度なゆるさが出て、手軽に着崩しスタイルを表現できるはずだ。下の写真のコーディネートは、コンサバ志向の大人も安心の王道カジュアル。より個性のあるモダンな装いを狙うなら、シューズを最新のハイテクスニーカーにしたり、トートをボストンバッグに持ち替えたり、帽子をベレーにするなど、自分らしいアレンジを加えてみよう。
織り柄が透け、色気漂う「タリアトーレ」
その着心地は、カーディガンのごとく軽い。独特な織り柄の透けるウール生地は、暑い季節でも身体に涼しい風を運ぶ。テーラリングの本場イタリアのジャケット専業ブランドの中でも、スタイリッシュな作風で人気が高い「タリアトーレ」のシャツ感覚ブレザーだ。身体に沿うようにコンパクトで丸みのある形で、着丈が短くウエストは高い位置でシェイプされている。主張の少ない制服であるアメリカの紺ブレザーとは真逆の、ラテン気質の色っぽさ漂う一着だ。ペラッとした風合いゆえに簡易な縫製に思えるかもしれないが、人体構造に基づくパターンを用いて入念に仕立てられている。デイリーに着やすいこのアイテムは、ドレスウエアの入門編としても申し分ないパフォーマンスを発揮するだろう。
軽快ながらディテールも凝っているこの紺ブレザーには、大人こそ似合う貫禄がある。コーディネートも、強さのあるアイテムと合わせることで、バランスが美しく整う。以下に示したのは、色調をブルーとモノトーンで揃えつつ、大胆に柄モノで攻めたリゾート気分の着こなし。一見派手なようだが、年を重ねた大人の顔はこれくらいのほうが映えるものだ。花柄もストライプも、春夏の強い日差しがよく似合うモチーフである。より上品さを演出したいなら、シャツの襟元を開けずに閉じたり、パンツにはアイロンを掛けるなど小綺麗さを意識して着よう。
空気を纏うAライン、新感覚の「ラファーボラ」
裾がふわりと広がった、空気を纏うような新感覚の紺ブレザー。シングルボタンながら、裾のカットはダブルのようにスクエアだ。前身頃は内側の見返しが幅広く取られて厚みがあり、ボタンを全開して羽織っても裾まで淀みなくシャープな形を描く。オーダーメイドのコートから始まった日本の新進ブランド「ラファーボラ」の、クラシック&モダンなセンスが凝縮されている。Aラインのシルエットは肩まわりにもゆとりがあり、流行が続くルーズな服装と相性がいい。両サイドはパッチポケットで、フロントと片袖の金ボタンの数は計5個。こうしたアメリカのアイビーのルールもしっかりと踏襲されている。さまざまな服を着てきた玄人こそが本質を見抜ける逸品である。
ルーズさとシャープさが絶妙にミックスされたラファーボラの紺ブレザーは、クセがあるようだが実はさまざまな服装に合わせやすい。たっぷりとした形を活かした、リラックス感あるコーディネートが着こなしの基本になる。スポーツウエアやストリートウエアにあえてブレザーをプラスする、エッジーな東京スタイルを狙うのもいいかもしれない。以下の写真は、植物柄のスカーフや変形エスパドリーユといった小物で、旬のレトロなリゾートスタイルに仕上げた装い。モダンにつくられているのだから、ステレオタイプのブレザースタイルから脱却し、コラージュアートをつくるように個性を表現したい。
アメトラ×モード、背中が目を引く「アイ コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン」
今回のトリを飾るのは、まさに“伝統と革新”のクリエイティブな一着。2019年に日本上陸40周年を迎えて勢いを増すアメトラの雄「ブルックス ブラザーズ」と、日本発モードを代表するファッションデザイナー渡辺淳弥とのコラボレーションである。先シーズンに引き続き2020年春夏にリリースした新作は、背中で目を引く渡辺らしいデザイン。そこに配されているのは、ミリタリーウエアのタイガーストライプ迷彩柄だ。正面から見るとオーセンティックなブレザーなため、クラシックにタイドアップして着ても絵になる。都会的なブレザーと野外のアクティブなウエアが一着になり、フォーマルとカジュアルを行き来するハイブリッドな服に結実している。
ハードにもクリーンにも、両極端なイメージの着方に対応するユニークな紺ブレザーだ。ワイルドな服装に羽織って品のよさを加えたり、逆に正統派アイビールックを着崩すのにも役立つ。下の写真のコーディネートは、パンツをシックなリネンにしつつ、インナーをパッチワークTシャツでスポーティにしたルック。よりマリンテイストをアップさせるため、ストライプの布バッグをプラスした。気軽な服装を、ブレザーでちょっと気取らせた装いだ。気分次第で古着のカーゴパンツを穿いたり、ロックTシャツを着たり、足元をブーツにするなど、背中のクールな迷彩柄を活かしたコーディネートにもトライしたい。
この春夏に紺ブレザーが気になる背景には、ファッション感度の高い女性の間でのブームもある。1970年代の“ニュートラ”に象徴されるレトロなエレガンスが復活してきた昨年頃から、流行に敏感な女性たちがテーラードジャケット(とくにダブルボタン)を好んで着るようになった。今年は男性にもその流れが波及しそうだ。男女の服装に差異のない21世紀的な「ジェンダーレス」スタイルでも、メタルボタンで華やかな紺ブレザーは大いに活用できる。現代社会にしっくりと馴染むワードローブとして、いまジャケットを新調するなら紺ブレザーこそが本命だ。