南青山に待望の直営店が誕生した、新大人服「オーラリー」。その店づくりに密着し、人気の秘密を探ります。

  • 撮影・文・構成:高橋一史
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上質な服が好きな大人の心をつかんで離さない「オーラリー」が、東京・南青山に直営店をオープン。施工から家具の設置の様子、店に並んだ2017-18年秋冬の服まで、このブランドのすべてに密着しました。

スタートして3年ほどのわずかな期間のうちに、ファッション好きの大人な男性を中心に評判が広がり、いまや日本で最も評価が高い次世代ブランドのひとつになった「オーラリー(AURALEE)」。私たちの日常の暮らしが、優しく穏やかになったいまの時代の気分と呼応する、「着たい」と思わせるシンプルで上質なコレクションです。古着と先端モードをミックスしたような作風で、使われている素材(生地)はこだわり抜いた最上級のものばかり。服を知る人こそよさを実感できる、通好みなブランドといえるでしょう。
これまでセレクトショップのみで展開されていたオーラリーが、2017年9月14日(木)に待望の直営店をオープンさせました。場所は東京都内の一等地である南青山です。この記事は、施工前から足を運び、店が出来上がるまでに密着したレポートです。店のスタッフが着こなす17-18年秋冬の注目の服紹介や、デザイナーへのインタビューなどもあわせ、現在のオーラリーの全貌をお届けします。

コンクリート構造の空間を、穏やかな部屋に改造したプロセス

2017年7月10日(月):他ブランドがプレスルームとして使用していた場所を空の状態にした、施工前の状態。
7月20日(木):工事中。天井と床で空間を区切るアイデアで店づくりが進行。この時点で既に天井に骨組みが。
8月16日(水):工事終了。周囲のコンクリートは残し、天井と床で空間を上下に挟み、服の展示スペースを表現。左壁はフィットネスジムのような鏡張り。
9月12日(火):店のオープン日から2日前の様子。ひと目で服をすべて見渡せる室内。右のラックがメンズで、左がレディス。

店づくりのテーマは、「別荘のようなリラックスしたムード」と「アートギャラリーのようなほどよい緊張感」。床には絨毯を敷き、リビングルーム風の温かみも大切にされました。服を掛けたラックの淡々とした配列は、ギャラリーがイメージされています。
以前に使われていたこの空間の内装を取り除いて出現した、剥き出しのコンクリートの壁は残されました。新しくつくり込まれた内装は、必要最小限のものです。この考え方は、「オーラリー」の服のミニマルなデザイン発想にも通じます。天井と床を平行に配置し、このふたつで上下を挟んだスペースが服の展示場所になっています。手前と奥にあるふたつのフィッティングルームは、そこから横にはみ出して配置されています。
完成した店は、コンクリート内壁の室内の中に、別の部屋があるように感じられる独特な構造です。日本家屋の床の間にも似た、ユニークな空間の切り取りが行われています。

建築家・荒木信雄さんが訪れた、ラック、棚のセッティング

8月25日(金):この日は什器の搬入とセッティング。店で使う木製収納ボックスは、「カール・ハンセン&サン」のもの。
荒木信雄さんの事務所「アーキタイプ」、家具の「カール・ハンセン&サン」、ラックの製造業者らのスタッフが総出で、什器を配置。
ラックの配置がおおよそ決まったところで、服を掛けて見え方をチェック。中央ソファに座る男性が、荒木信雄さん。写真右側の服を掛けている男性が、「オーラリー」デザイナーの岩井良太さん。
入り口近くのフィッティングルームの横で、さまざまな視点から店空間と什器とのバランスを見る荒木さん。

内装の設計を手がけたのは、建築家の荒木信雄さん。「SOPH.」各店舗、期間限定コンセプトストア「the POOL aoyama」、原宿のギャラリー「The Mass」なども手がけた、ファッション界とも関わりの深い建築家です。店の印象を左右する什器の設置の時、荒木さんと彼の事務所「アーキタイプ」のスタッフが訪れ、「オーラリー」のデザイナー、岩井良太さんらとともに配置を行いました。
この日にみんなが時間をかけて調整したのが、服を掛けるラックの並べ方です。壁一面の鏡を姿見として活用することを事前に想定しており、実際に置くことでどのような見え方になるか細かくチェックしました。適切な隙間が開くようにラックの服を間引きながら整えていき、余裕のある並べ方に仕上げました。客はラックから服を外して羽織り、自身の姿をサッと鏡に映すことができます。店に常時置いておける服の種類が減ることになりますが、訪れる人はきっと満足できるでしょう。

絨毯敷きの床は、床の間のように一段高い構造。畳のようでもあり、和のテイストも感じられます。

完成した店の空間とディテール

「根津美術館」や「ブルーノート東京」がある通りから一本入った閑静な場所。店の正面、左右の植木も専門家によるもの。
今季17-18年秋冬コレクションは、中間トーンのアースカラーを中心に、鮮やかな色がアクセント。
店の奥は寛げるスペース。写真右奥はフィッティングルーム。客から見えるところに会計のレジを置かない工夫も。
椅子に座り会話を楽しみながら服を眺め、ゆっくりと考えながら買い物できます。

「オーラリー」が直営店をつくったきっかけは、意外にもあっさりとしたものです。ブランドのデザイナーであり、ディレクターも兼任する岩井良太さんによると、「空いた物件があったから」。オフィススペースを探す中で、南青山のこの場所で地下と1階が空くことがわかり、今年1月に急遽、1階を店にすることが決まりました。地下はオーラリーの運営チームが働くオフィスになっています。それでも、直営店はやはり念願だったようです。
「オーラリーはこれまで、ライフスタイル寄りのブランドと思われることが多かったように思います。実は高いファッション性がありますから、店をつくったことでその世界観を全体として見せられる場所がようやくできました。南青山は大人で上品で、静かな街です。理想的な土地に店を構えることができたと思っています」
この秋冬は靴やバッグらの仕入れアイテムは置かず、オーラリーブランドのコレクションだけで品揃えされています。最寄り駅である表参道からは距離があるものの、ファッション関係者にはお馴染みのエリアです。この店を目指してやってくる人も今後増えていくことでしょう。

スタッフが着る、17-18年秋冬シーズンの注目服。

店スタッフの真野伊織さん。着ているカシミア混ウールのハイゲージポロニットは、肩が落ちてゆったりとしたルーズな形が旬のバランス。価格は¥34,560
店スタッフの中村友彦さん。着ているのはショップ限定のベビーキャメル100%のバルキーなニット。糸分量が多く、手触りも一級品。ニット¥49,680
インナーになんでも着込めるビッグシルエットのメルトンピーコートは、厚手ながらやわらかい極上の風合い。色は他にキャメルベージュ、ネイビーもあり。コート¥93,960、硬いハリ感が特徴のスウェットシャツ¥23,760、高級コットンを使い、コシがありつつ柔らかなチノパンツ¥35,640
今季トレンドに合致する英国調チェックのロングコートは、たっぷりとした分量感がいまどき。生地は英国産ウールの二重織りで、独特の弾力とハリがある風合い。コート¥97,200
一日中、家の中でも着ていたくなる、軽くソフトなイージージャケット。極細なスーパー140'sのウールを使用。セットアップパンツもあり、色は他にグレーも(掲載のブラウンは完売)。価格は¥43,200

「オーラリー」は、メンズのベーシックから大きく逸脱することのない日常のワードローブです。特に、「オーセンティックな服をベースに、着こなしにモダンな感性を加えたい」という人に最適でしょう。手持ちの服に自然に馴染み、装いに1点だけオーラリーを加えるだけでも、印象がグッとコンテンポラリーに、大人になる不思議な力があります。
その秘密のひとつは、素材へのこだわり。デザイナーの岩井良太さんは、糸にする前の原料の段階から素材をリサーチし、ヨーロッパの一流ブランドと肩を並べる(ときには彼らを上回る)オリジナル生地を毎シーズン開発しています。世界のモードシーンへも関心が深い彼は、その生地を活かす服をデザインする時、旬の感性を注ぎ込みます。ただし、すぐにすたれる服にせず、着方の工夫で長く愛用できる落とし込みもなされています。
さらにもうひとつ、オーラリーが高く評価されるポイントがあります。それはプライス設定です。安い服ではありませんが、クオリティ面で他ブランドと比較するとリーズナブルに感じます。買う満足度が高いことも、オーラリーが愛される大きな理由でしょう。

デザイナー岩井良太さんと、新オフィスでの仕事。

勢いに乗りつつ、モノづくりへの真摯な姿勢は変わらないファッションデザイナー、岩井良太さん。
店の地下にあるオフィスには、資料となる古着や生地見本がたくさん。
以前のオフィスでも飾っていた、「顔が似ている」とスタッフからプレセントされたエディ・マーフィTシャツ。

店の地下に新オフィスを構え、広々としたスペースでのデザイン活動がスタートした岩井良太さん。地元・神戸の古着店で働いた後に東京の文化服装学院に進み、その後ニットブランドでの勤務、カットソーを中心にしたブランドのデザイナー経験などを経て、ハイクラスな生地を扱う生地会社を母体に「オーラリー」を立ち上げました。「素材を見られることが僕の強み」、と言います。
「秋冬の今季は獣毛(カシミア、ベビーキャメルヘア、ベビーアルパカなど)の生地が多いですね。これらの素材で仕立てた服を一度に見ていただける店ができ、“ファッション” としてのオーラリーを打ち出せるようになって嬉しいです」
ショップオープンの内覧会では、ファッション界で名を知られた男性が多く訪れる中、約半数はエディターやスタイリストなどの女性でした。これまでメンズ人気が先行していましたが、充実してきたレディスアイテムの評判も広がっていくに違いありません。南青山を散策する大人のカップルがふらりと立ち寄ったり、買い物をしにわざわざ遠くから訪れる店として、ここがどのような役割を担っていくか期待が高まります。

17-18年秋冬の公式ルックより。ウール・カシミアニット¥38,880、コットンコーデュロイパンツ¥31,320、カシミアマフラー¥57,820 (© AURALEE)
ウエストベルトつきウールメルトンコート ¥91,800、カシミアニット ¥50,760、コットンシャツ ¥24,840、コットンコーデュロイパンツ ¥32,400 (© AURALEE)

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