「木へのまなざし」をチェンジし、国産材の新しい魅力を発見するプロジェクト、「WOOD CHANGE CHALLENGE」。本プロジェクトの目⽟とも言えるクリエイティブアワードとトークイベントが、2021年3月5日にオンライン配信。また代官山 蔦屋書店で作品も展示された(3月18日で終了)。
日本の国土の7割を占める森林。そのうちの約4割は、戦後に人の手で植えられた人工林である。人工林は植栽してから伐採されるまで、50〜60年の年月が必要だと言われているが、その人工林が大きく育ったいま、本格的な木材の利用時期を迎えている。そして、この豊富な日本の国産材の持続的な活用を目的とし、2020年に始まったプロジェクトが「WOOD CHANGE CHALLENGE(ウッド・チェンジ・チャレンジ)」だ。この取り組みは一般社団法人 全国木材組合連合会の後援・林野庁補助事業による支援のもと、ウェブから空間まで手がけるクリエイティブ・カンパニーのロフトワークが主催している。
これまで「WOOD CHANGE EXHIBITION(ウッド・チェンジ・エキシビション)」や「WOOD CHANGE CAMP(ウッド・チェンジ・キャンプ)」などの連動企画が実施され、国産材の新しい使い方や仕組み、体験やコミュニケーションなどを生み出す方法を探ってきた。CAMPでは3つのプロトタイプが制作され、一般投票によってBEST CAMP賞が選ばれた。クリエイターのみならず、学生や研究者、林業従事者をはじめとする林業関係者など、さまざまな方面からアイデアを募る「WOOD CHANGE AWARD(ウッド・チェンジ・アワード)」も開催。今回100を超えるアイデアが国内外から寄せられ、審査員4名によって審査が行われた結果、6つの作品が賞に選ばれた。
代官山 蔦屋書店で展示された受賞作品を一挙に紹介。
今回の受賞作品の発表にあわせて、代官山 蔦屋書店で21年3月5日から3月18日まで、「木を"知り"木に"触れる" WOOD CHANGE CHALLENGE」展が開催された。ここでは審査員による審査で選ばれた受賞作6作品が展示され、プロジェクトストーリーや評価コメントなども展示。さらに「WOOD CHANGE CAMP」で生まれた3チームの作品展示、関連する書籍や雑貨なども会場で販売され、木への新しいまなざしを得られる展覧会となった。
それでは受賞作品と、3月5日に一般投票で選ばれたBEST CAMP賞、あわせて7つの作品について、審査員のコメントを交えながら紹介していこう。
GOLD賞「もりのがっこう(仮)」
「もりのがっこう(仮)」は、森林・林業現場への興味関心を高めることを目的に、フリーランスの木こりが「こんな森があったらいいよね」を共有・実現する場を創立するアイデアを提示した作品。環境保全型林業として稼働している札幌市内の山林から、北海道各地へ展開することを想定している。
この作品は一見わかりづらく、「他の審査員の説明を受けてはじめて魅力がわかった」という審査員もいたという。一方で、この取り組みを深く読み込んだ若杉は、「木こり自身が周囲を巻き込みながら、山にあるさまざまな魅力や資産をどのように社会へ戻していくのか考え、そのための活動を既に実践している」という点を高く評価。他の審査員からも理解を得て、見事GOLD賞に選ばれた。
SILVER賞「Hygrosensitive Shape-Shifting Facade」
テクノロジーとデザインを組み合わせたアプローチに興味をもつChenは、湿度によって変形する木材の性質に着目。実験や試作テストなどを実施した上で、相対湿度の変化に応じて、晴天時には閉じ、雨天時には開く、気象に敏感な可動ファサードシステムを提案した。
審査員の秋吉はこの作品について、「木材業界では『狂い』が生まれないようにするのが常識だが、この作品では木材の湿度による変化をポジティブに受け止め、変化をコントロールすることで生まれるデザインに挑んでいる」と評価。さらに「緻密な研究を踏まえた上で、最終的に『空間の湿度に応じて開閉するファサード』という詩的なアウトプットを導きだしているのが素晴らしい。スギやヒノキなどの国産材にも応用可能だ」と賛辞を贈った。
BRONZE賞「戻り苗」
「戻り苗」は、林業で使用されるスギ、ヒノキ、ウバメガシの苗を家庭で育て、山に植え、同じ山で育った木が製品となって手元に戻ってくるという一連のサービスを提案した。木材製品への愛着と日本の森林に対する関心を高めることを目的としつつ、国産材の国内消費増加につながるアイデアとなっている。
「実際に試してみたい」と語る審査員の佐藤は、この作品の「自分で育てた苗が森に還るまでの2年がデザインされている」ところに面白みを感じたという。さらに購入者に力を借りるという未来的な発想で、他の受賞作品にはない「ビジネスモデルとしての視点」を見出している点も評価した。
#MATERIALITY賞「木雲」
アルゴリズミックデザインやデジタルファブリケーションを用いて建築架構の可能性を探る齋藤は、スギ材と植物由来の生分解性プラスチックを用い、どこでも誰でも生産し、建築の組み立てが行えるシステム「木雲」を提案した。作品では、短小少部材でも大きな空間を覆うことができる「レシプロカル構造」に注目し、そのための部材と接合部を設計。デジタルファブリケーションツールのみで素材を加工し、1/1スケールの実制作まで行い、施工性を検証した。
審査員の秋吉は、「この作品の魅力は生分解性プラスチックで3Dブリントされたジョイントにある」とし、「マテリアルの特徴を理解した上で、制約を乗り越えようとする姿勢が映し出されている」と評価した。
#ACTIVITY賞「ICE TREEM」
棒付きアイスの木の棒に着目した田嶋は、棒を主役として木の香りと味を堪能するアイスキャンディー「ICE TREEM(アイスクリーム+ツリー=アイスツリーム)」を考案し、木と人の新たなコミュニケーションのかたちを提案した。棒部分の原材料となる木は、さまざまな種類で展開され、木の香りの違いが味のバリエーションとなる。
「確かにアイスを食べ終わった後に、棒を噛んだりしていたなと思い、心に残りました。小さなプロダクトですが、アイスと樹種の新しい組み合わせや、それを体験するワークショップなどの想像が膨らみ、広がりがある提案でした」と語るのは、審査員長の永山。多くの人に共感されるアイデアが評価された。
#STORYTELLING 賞「触れると思わず前に進みたくなる、音を奏でる木の手すり」
MATHRAXは、国産材の広葉樹の色や質感を活かし、触れると音を奏でるパブリックスペース用の木の手すりを提案。体験者がさまざまなかたちの木のオブジェに触れながら歩くことで、手触りや形、音がグラデーションに変化し、まるで音楽が変容するように新しい感覚を生む作品である。また、パブリックスペースに置き、視覚障害者の人と一緒に遊ぶなど新しいコミュニケーション方法を提示した。
この作品について佐藤は、「今回の応募作品の中で、最も実際に触ってみたくなるアイデアでした」とクオリティの高さを評価。「実際の施設やリアルな空間に応用されれば、需要が拡がり、非常に面白いのではないか」と今後の可能性に期待を示した。
BEST CAMP賞「Forest Crayons」
森から収穫されたものの、さまざまな理由で規格から外された木材に着目。パウダー状にした木を顔料として用いたクレヨン、「Forest Crayons(フォレストクレヨンズ)」を提案した。同じ材種でも日焼けや菌類の繁殖など、木の状態によって多種多様に色が変化するという気づきから、あえて均一化せず、それぞれの木の色を楽しめるプロダクトに落とし込んだ。
この作品に対して、「WOOD CHANGE CAMP」でメンターを務めた元木は、「楽しむきっかけと、知るきっかけが、上手く組み合わされた作品」と評価。地域によって異なる色のバリエーションがつくれるため、地域の色を出せるプロダクトとして今後の商品化も期待される。
「国産材の新しい価値を生み出すきっかけに」クロストークで語られたAWARDの意義
「大切なのはアイデアの伝え方」審査員たちの視点とは。
審査員長の永山が「ここまでスケールの違う作品を同時に審査することはいままでなかった」というほど、多様なアイデアが寄せられ、面白くも難しかったという今回の審査。評価する上で重視したことについて、永山は「自分の指標として、共感できるかどうかを大切にした」とコメントし、若杉も「深読みしながら、気持ちまで想像して審査した」と言う。また佐藤は「今回の審査は異種格闘技みたいで。2次審査の意見交換に力を注いだ」と言い、秋吉も「事前審査では均等に1分ずつ見ていった」と、それぞれの視点を示した。
一方で、これまでにないアイデアを募集した結果、説明がわかりにくく、ストレートに魅力が伝わらない作品もあったという。秋吉は「審査員全員で賞候補についてディスカッションしたことで、パッと見ただけではわからないよさが見えてきた」と語り、永山は「どの問題に着目したかなど、背景なども含めて伝えてもらえると、より納得しやすいものとなったはず」とアドバイスを伝えた。
今回のアワードは、最終的に「世の中のなにが変わっていくか、想像できる作品」が選ばれたという。若杉は、「木を通じて社会構造や価値がどう変容していくのか、伝わるものがあるといいなと思っていました。結果的に、新しい価値に変換しうる作品に出合うことができて、可能性を感じました」とコメントした。
"みんなが動くような問題提起を"、今回のAWARDで感じた課題とは?
今回のアワードを通して、若杉は「山に入ると、言葉にならない価値が眠っている。それを解きほぐしていくことで、新しいサービスが生まれるかもしれない」と気づいたという。それに対し、「同じ問題でも、情報解像度が違うことで伝わり方が違う。林業の問題も、伝え方次第で見え方が変わる可能性を感じ、アワードの存在に意義があると感じました」と佐藤。永山も同意しつつ、「大きな問題として捉えるよりも、一人ひとりの目線で捉えることが大切だと思いました。ミクロの視点で見ていくことで、新しい発見が生まれるのだと思います。興味深い作品が多数ありましたが、本当に木のことを理解しているのかと疑問を感じる作品もありました。実際に森に入ってフィールドワークをしてみるなど、前段階を経て提案することで、意識が変わるのかもしれないですね」と語った。
今回の「WOOD CHANGE AWARD」は、プロダクトだけでなく、新しいサービスや社会の仕組みなど、幅広いアイデアを募集する開かれたアワードだった。しかし秋吉によると、実際の応募作品の6割がプロダクトを提案するもので、審査員たちはウッド・チェンジにつながるサービスや仕組みの提案ももっと欲しかったと語った。若杉は「中高生以下の若い人たちが、どういう風に読み解いてアイデアを発想してくれるのかも見たかった」とコメント。
未来の林業や国産材の活用につなげるために、必要な視点。
今回の取り組みによって、木へのまなざしがアップデートされた「WOOD CHANGE CHALLENGE」。見出されたアイデアの種は、一度きりの成果物として終わらせるのではなく、持続することで開花し価値あるものになるはずだ。「みんなでアイデアの種を共有できるといい」と審査員たちが声を揃えて言うように、オープンな視点でアイデアを展開していくことで、より多くの人たちの「木へのまなざし」が開かれることだろう。
最後に林野庁林政部木材利用課長の長野麻子から、「木そのものだけでなく、木が育まれる森のことまで考えている人が多かったことに、感銘を受けました。若い方々の感性に触れられたことが嬉しく、音や香り、手触りといった、感覚を活かした視点にワクワクさせられました。今回発表されたアイデアが実現すれば素晴らしいです。協力したいという方はぜひ主催者に連絡を」というメッセージが贈られ、イベントが締めくくられた。
「WOOD CHANGE CHALLENGE(ウッド・チェンジ・チャレンジ)」