パリで開催された「メゾン・エ・オブジェ」に、インテリアの先端を探る。

  • 写真、文:土田貴宏
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毎年2回、フランスのパリで行われているインテリアの見本市「メゾン・エ・オブジェ」をご存知でしょうか? 2019年1月に行われたイベントから、注目すべきトレンドを探りました。

今回のメゾン・エ・オブジェでデザイナー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたドイツのセバスチャン・ヘルクナーによる記念展示。(https://www.sebastianherkner.com/)

世界有数のインテリア・トレンドの発信地であり、毎年1月と9月の2回にわたってパリで開催されている「メゾン・エ・オブジェ」。先日行われた1月展では、世界各国から8万4千人もの人々が会場を訪れました。この国際的なプレゼンテーションの場で、いまこそ押さえておくべきデザインの流れとは、いったいどのようなものでしょうか。目まぐるしく移り変わる流行を超えた、真の意味での時代のトレンドを考えます。

復刻モノから、人気デザイナーが手がける新作まで。

ピエール・ガーリッシュの照明を復刻した「Sammode Studio」。中央の「G30」は1952年、左の「G25」と右の「G21」は1951年のデザイン。

フランスの「Sammode Studio」は、メイド・イン・フランスならではのクオリティを訴える注目の照明ブランド。建築家のドミニク・ペローらとコラボレーションしてきましたが、今回はミッドセンチュリーに活躍したデザイナーのピエール・ガーリッシュによる照明の復刻が目を引きました。光を拡散する仕組みをふまえながら、彫刻的なフォルムをさまざまに工夫したガーリッシュの照明は、ヴィンテージ市場で再評価が進んでいたもの。当時の感性を反映した自由で軽妙な雰囲気が、あらためて現代の空間に求められているのかもしれません。

レザーをはじめとする上質感のある素材と、洗練された色合いで構成された「GIOBAGNARA」のアイテム。
家具、小物、ステーショナリー、オブジェなど、あらゆるアイテムに美意識が一貫しています。

1990年代にイタリアで創業した「GIOBAGNARA」は、フランスが拠点のステファン・パルメンティエールを2017年にクリエイティブ・ディレクターに招き、一気に注目度を高めました。彼はもともとファッションの世界で経験を積んだインテリアデザイナーで、その世界観はアンダーステイトメントの美学が貫かれています。歴史的建築からモダンアートまで、多様なインスピレーションを感じさせるところも魅力。モードに通じるスタイリッシュさがありながら、タイムレスな価値をそなえているのです。

コンパクトな空間に、実直な雰囲気の家具をディスプレイした「Cruso」の展示。
有名ブランドともコラボレーションの多いビッグゲームによる新作シェルフ「BLOCK」。

ベルギーの新進ブランド「Cruso」は、木工を中心にした伝統的なものづくりの技術と、新世代のデザイナーの創造性を結びつけようとしています。知名度の高いスイスの美術大学、Ecalの出身者の中でも特に活躍しているビッグゲームによるシェルフ「BLOCK」は、正確に加工した木の板と鋼板を組み合わせることで、ボルトなどのパーツをほとんど用いていない簡素な構造が特徴。若手ベルギー人デザイナーのジュリアン・ルノーが手がけた展示構成も光っていました。彼もやはりEcal卒業生です。

ポルトガルの家具ブランド「dooq」の展示。中央のバーキャビネットは「Traje de Luces」。
大理石を高度に加工したテーブル「Bonnie & Clyde」など存在感のあるアイテムが並びます。

ポルトガルというと、あまり家具やインテリアのイメージがありませんが、最近はヨーロッパの中で特に多くのデザイナーを引きつけている国です。「dooq」は現代的なラグジュアリーを追求するブランドで、そのセンスはポルトガルのインテリアのレベルの高さを示しています。アーチとルーバーで空間を仕切った展示構成も、家具の妙味を引き立てています。最近はポーランドの「tre」のように、意外な国から注目ブランドが現れる傾向もあります。

クラフツマンシップへの回帰、サステナビリティという潮流。

ブロンズとアラバスターやトラバーチンなどの天然石を組み合わせた「ENTRELACS」のアイテム。

フランス流のサヴォアフェールを前面に出すブランドが増える中、「ENTRELACS」は規模こそ大きくありませんが、その本流を行く気概を感じさせてくれます。ブロンズと天然石を用いたミニマルにしてエレガントな照明器具が真骨頂で、今回のメゾン・エ・オブジェで発表されたサイドテーブルも魅力的でした。このブランドを率いるイヴ・マシェルとともに、主要な製品をデザインしている30代の建築家、フェリックス・ミロリの新作です。徹底して本物を志向するクラフツマンシップ回帰の傾向は、パリでもますます強まっているようです。

「Cinq-étoiles」の展示は、まるでチュニジアの家庭のダイニングを垣間見るような設え。
素朴にものを並べただけのように見えて、実は巧みにスタイリングされた展示の様子。

チュニジアの「Cinq-étoiles」は、この国で手仕事によってつくられる幅広い日用品を扱っています。オーナーのファイーザ・カレドの眼力と、「Bloom」誌などの仕事で知られるネルソン・オソリオ・セプルヴェダのディレクションを通して見出されたアイテムは、素朴であってもどこか確かな洗練を感じさせるもの。地中海沿岸の文化やアフリカの風土すら思い浮かぶような、デザインに対する視野を広げてくれるブランドです。

フォルムやサイズのバリエーションも美しさを際立たせる「GUAXS」のフラワーベース。
ガラスを用いた照明もあり、器だけではない世界観が伝わってきます。

ドイツの「GUAXS」のガラス器は、独特の深みのある色合いと、個性あふれるカッティングが特徴。日本でも目にしますが、こうした会場で見るとスケールの大きな世界観が伝わってきます。日本の工芸的な花器とは違い、ダイナミックで時に荒々しささえ感じさせるデザインは、いくつか並べて表情のバリエーションを楽しむのに向いています。会場では、スポットライトを当てるだけでなく、その色合いが光に透ける姿を見せる構成にも技がありました。

乳白ガラスと真鍮を組み合わせた新作照明「Spate」コレクションなどを発表した「BERT|FRANK」
接客用のカウンターも、映画の1シーンのように見えます。
定番の「Riddle」は、複数のペンダントランプを高さを変えて吊り下げる仕組みもあります。

イギリスの照明ブランド「BERT|FRANK」は、バーガンディの空間に真鍮を多用したランプをディスプレイして、雰囲気のある見せ方をしていました。直線的で艶のあるデザインは、総じてアール・デコを連想させるものです。現代的な優雅さと、ちょっとした懐古趣味がフュージョンしています。このブランドも、特徴のひとつはすべてUKメイドであること。常に人の行き来が途切れることのないブランドのひとつでした。

「MAOMI」はドイツのブランドですが、このテーブルウェア「Kaya」はベトナムで製造しています。

環境についても経済についてもサステナビリティをテーマにするブランドが増えていることは、メゾン・エ・オブジェでも明らかです。ドイツの「MAOMI」は、陶磁器はベトナム、布製品はインド、木製品はボスニアというふうに、それぞれの国の技術を生かしたものづくりを積極的に進めています。さらに生産者の権利を守り、支援することも彼らのテーマです。今回のメゾン・エ・オブジェで注目されたテーブルウェア「Kaya」は、口縁の薄さや優しいフォルムに、優れた手仕事が息づいています。

自国のデザイナーを多く起用しているポーランドの「tre」の展示。デンマークの「HAY」を思わせるセンスもあります。
イタリアの家具ブランド「PEDRALI」 (https://www.pedrali.it/)は、フランスのデザイナー、ユージェニー・キトレの話題作などを披露。

こうして見てきただけでも、フランスはもちろん幅広い国々のブランドやデザイナーが、メゾン・エ・オブジェに参加しているのがわかります。今回はフランス国外からの出展者が6割以上、65カ国に及び、この場所がグローバルなインテリアの縮図であることをあらためて印象づけました。ここで披露される各ブランドのフィロソフィが、世界のさまざまな状況を反映しているのは言うまでもありません。今、世の中ではどんな魅力が評価され、どんな価値が求められようとしているのか。そのヒントを、メゾン・エ・オブジェで掴むことができるのです。

MAISON & OBJET
次回開催日程:2019年9月6日(金)~10日(火)
場所:パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場
http://www.maison-objet.com/en

●問い合わせ先/メゾン・エ・オブジェ日本総代理店 株式会社デアイ
 TEL:03-3409-9495 mo-japon@deai-co.com