1935年に建築家のアルヴァ・アアルトらによって創業され、北欧モダンを代表する家具を数多く生み出してきた「アルテック」。本国フィンランドに次いで最もファンが多いという日本で、初めての直営店が4月27日、東京・表参道にオープンしました。
ヨーロッパ以外では初めての直営店となる「Artek Tokyo Store(アルテック 東京ストア)」。アルヴァ・アアルトの名作家具を中心としたコレクションを取り揃えた旗艦店であり、フィンランドの文化や豊かなライフスタイルを紹介するアンテナショップとして、北欧デザインに触れる新たな拠点が誕生しました。ここでは、オープンを記念した限定品や、日本のデザイナーとのコラボアイテムも発売。アルテック社長のマリアンネ・ゴーブルさん、2013年よりアルテックとパートナーシップを結ぶヴィトラ社CEOのノラ・フェルバウムさん、そしてショップの設計を手がけたダイケイ・ミルズ代表の中村圭佑さんの話とともに、ストアを紹介します。
日本とフィンランドの国交を記念した、プロダクトに注目。
表参道から脇道を一本入ると、そこは小さなショップが点在する落ち着いたエリア。路面店としてオープンしたArtek Tokyo Storeは、柔らかな自然光とテラコッタ・カラーが手招きをする、温かいホスピタリティを感じる空間です。
エントランスのウィンドウを飾るのは、日本限定の「スツール 60 藍染」。アアルトによるアイコニックな三本脚スツールを、徳島の藍師・染師BUAISOU(ブアイソウ)がジャパン・ブルーに染め上げました。このコラボレーションは、2019年が日本とフィンランドの国交関係樹立100周年にあたることを記念して企画されたもの。「FIN / JPN フレンドシップ コレクション」と題し、他にも皆川明や長坂常など、日本のクリエイターが参加したプロダクトや限定商品が、続々と発表されています。
さらにエントランスで目を引くのが、オープンを記念した特別モデル「ドムス チェア オンネア」。イルマリ・タピオヴァーラによる名作椅子を「オンネア(おめでとう)」の意味を込めてスウェーデン産のタンショーレザーで仕上げた、50脚の限定品です。
1950年代に初めて日本に紹介されたというアルテック製品。以来、特徴的な曲げ木の技法を用いたアアルトの家具を筆頭に、フィンランドのプロダクト、そして北欧のモダン・デザインは日本で長く親しまれてきました。アルテック社長のマリアンネさんは語ります。
「日本において、アルテックは真の意味で理解され、愛されていると感じます。100周年記念のフレンドシップ コレクションが意図するのは、日本とフィンランドとの対話。伝統的なクラフトマンシップと現代的なアプローチという、両国のものづくりに共通する志を体現したコレクションです」
「湖のほとりを歩いて家路につくイメージで設計しました」と語るのは、店舗デザインを担当した設計事務所DAIKEI MILLS(ダイケイ ミルズ)の中村さん。あえてフロアの中央に配して存在感をもたせたという地下への階段が、湖の底を覗き込むかのごとく、ぽっかりと口を開けています。
その円い岸辺に沿うように1階奥の壁に展開されるのは、「スツール ワークショップ」のコーナー。ここでは、定番であるスツール 60を構成する座面と、L-レッグと呼ばれるアアルトならではの曲げ木の脚を、好きなカラーで組み合わせることができます。このサービスを行っているのはアルテック直営店のみ。ヘルシンキの本店でも、海外や遠方から訪れた人が、記念に自分だけのスツールをカスタマイズして買っていくことが多いそうです。
抜けのある地下は、モダン・ファニチャーの名品がずらり。
1階から地下への階段は「洞窟の中へと下りていくような感覚でつくった」という中村さん。下りた先には広々とした空間が開け、目の前にはグリッド状のラックに名作椅子がずらり。アアルトによるアルテックの代表作はもちろん、2013年にグループ企業となったヴィトラの名品も揃い、ミッドセンチュリー・モダンから現代へと至る圧巻のコレクションを愉しませてくれます。
この地下フロアでは、心地よいリビング・ライフを提案。アルテックやヴィトラの家具や照明がゆったりとディスプレイされています。ヴィトラCEOのノラさんが、ふたつのブランドの出合いを振り返ります。
「自然の素材を生かし、シンプルで洗練されたデザインをもつアルテックは、ヴィトラに新たなデザイン言語をもたらしました。アルテックとヴィトラのパートナーシップは、それぞれの物語のコラージュとも言えます。このお店には、そうしたつながりにふさわしい温かさとエレガンスと寛容さがありますね」
マリアンネさんは、日本とフィンランドの審美眼における共通点を、「日常の小さな美しさに価値を見出すこと、自然の素材を愛でること、その中にある小さな欠点すら愛する心をもち、シンプルで控えめな細部に気持ちを込めること」と見出しています。だからこそ、日本で直営店をオープンしたいという夢を、ずっともち続けてきたそうです。
「1936年に最初にオープンしたヘルシンキのアルテックストアでは、アートやデザインなどさまざまな展示を通じて、人々にモダンな生き方を提案してきました。そこに行けば発見があり、アイデアを得られ、なにかを学んで帰れるような場所。私たちは多くのファンがいる日本で、そうしたコンセプトを体現したいと思っています。このお店が北欧文化の発信地になっていけたらいいですね」
天井を見上げると、波打つルーバー越しに明かりが注ぎ、壁にはリズミカルな影が描き出されます。「木漏れ日のような光や有機的な曲線は、フィンランドの自然からインスピレーションを受けました」と話すのは中村さん。テラコッタ・カラーや格子、ポールを生かしたデザインなど、アアルトの建築からくるエッセンスも随所に表現されています。
「アアルトのデザインは、曲線がまるで猫のよう。そばにいると思わず撫でたくなる、永遠の相棒のような存在。慣れ親しんだ飼い猫を見つけにくる感覚で、家具と出合えるお店であってほしいです」
煉瓦がランダムに積まれ、観葉植物が育つテラスからは自然光が差します。まるで心地いいリビングにいるような気分。アルテック 東京ストアには、自然を愛し、デザインを大切にするフィンランドの暮らしの哲学が息づいています。
Artek Tokyo Store(アルテック 東京ストア)
東京都渋谷区神宮前5-9-20 1F、B1F
TEL:03-6427-6613
営業時間:11時~20時
休:火
無休(年末年始を除く)
https://www.artek.fi