放送作家小山薫堂さんが、リニューアルした「アルフレックス東京」を訪れました。

  • ムービー:柏原孝史(オブザアイ)
  • 写真:大河内 禎 
  • 文:山田泰巨
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1969年に創業し、早くから日本にモダンなライフスタイルを紹介してきた家具ブランド「アルフレックス」。2016年9月にリニューアルされた、東京・恵比寿の「アルフレックス東京」。ただ家具を展示するのではなく、暮らしを体感できる場所へ……。そんな思いが込められた新たなインテリアの名店を、小山薫堂さんが訪れました。

放送作家・脚本家という肩書にとどまらず、さまざまな仕事で多忙を極める小山薫堂さん。そんな薫堂さんにとって自宅はすべてを忘れ、ゆっくりと時間を過ごすことのできる唯一無二の場所です。自宅で使う家具の多くをアルフレックスで購入したという薫堂さんは、いい家具を「家以上に長く使い続けられる大切なもの」と言います。

「たまたま縁があって僕のところにある家具も、いずれぼくの手を離れて次の所有者のところで愛される日がくるのではないかと思います。次世代やそのまた次世代へと受け継がれる存在。ぼくにとっていい家具との出合いとは時間旅行のチケットのようなものです」

さて、きょうは薫堂さんにとってどんな出合いが待っているのでしょうか。

出迎えてくれたのは、アルフレックス東京、インテリアコーディネーター。

収納を美に変える、上質なクローゼットに驚きます。

ガラス張りのモルテーニ「グリス ウォークイン」は、レジデンスを意識したスペースに配置されています。
スムーズに動く引き出しの操作感も魅力です。

ショールームに足を踏み入れた薫堂さんの目にまず飛び込んできたのが、システム収納で知られるイタリアの名ブランド、モルテーニのウォークインクロゼットです。「収納ってこんなに美しくできるものなんですね。寝室にガラス張りの“見せるクロゼット”があれば毎日のスタイリングを考える時間も楽しくなりそう」と薫堂さん。タイを収納する引き出しに手を伸ばした薫堂さんが、そのなめらかな動きに驚きの声をあげます。

「この収納が自宅にあるというのは実に贅沢。この収納に置くことを考えると、ものをしっかりと吟味するようになるでしょうね。妥協せずに上質のワードローブをつくることができそうです。服に合わせて、腕時計を選ぶなんていうのも楽しそうですね。なんといっても収納の細部が思わず開けたくさせます」


リーヴァのテーブル「セレリナ」はやっぱり素材感がいちばんです。

続く部屋に置かれた1920年創業のイタリアの家具ブランド・リーヴァのテーブル「CELERINA(セレリナ)」を見るなり、薫堂さんは笑顔になりました。「我が家でもこのテーブルを使っているんです」と、テーブルの天板を愛おしそうに触れます。

「同じテーブルでもやはり我が家のセレリナとは少し違いますね。経年変化でうちのテーブルはもっと深みのある色になっていますし、手触りも使うほどに手に吸い付くようになっていく。これは実に育てる楽しみのあるテーブル。近頃オイル・メンテナンスをさぼっているので、そろそろ保湿していかないといけないかな」

材の選定や技術、環境への配慮でイタリア最高峰のクオリティを誇るリーヴァは、無垢材を中心に実に美しい木の家具をつくるブランドです。名だたる建築家やデザイナーと商品開発を行っており、その家具はいずれも木の豊かな風合いでモダンな空間によく馴染みます。2007年の購入以来、薫堂さんは日々、リーヴァのテーブルで朝刊に目を通すことから1日を始めるといいます。

「このテーブルだと、目だけではなく五感で新聞を読んでいるような気持ちになるんです。座る位置も決まっていて、住まいのなかで自分の場所ができるよろこびを感じることもできました。育てていくテーブルであり、使い込むテーブル。ぼくはこのテーブルを使いながら、100年先、200年先を想像することがあるんです」

小山家のテーブルには、薫堂さん自身の文字で書かれたプレートが天板裏に取り付けられているといいます。「腹が減ったら、ここで食え。友ができたら、ここで飲め。寂しくなったら、ここで泣け。」——これは、薫堂さんから未来の所有者へのメッセージともいえるでしょう。年を重ね、味わいを深めながら、このテーブルを囲む人々の幸せを刻む存在となっていきます。



さまざまな本が収納された「ライブラリーコーナー」。

次に薫堂さんの目に留まったのが、アルフレックスの蔵書を自由に閲覧できるライブラリーコーナー。今回のリニューアルで新たに設けられたスペースで、ゆったりとしたソファ脇の書棚にはインテリアや建築の専門書や雑誌などはもちろん、アートや器の書籍など700 冊以上の書籍が並びます。ひと口にインテリアの書籍といってもその内容は多岐にわたり、なかでもホテルや日本の住宅をまとめたものはインテリアのインスピレーションを与えてくれることでしょう。「自分ではここまで揃えられない。1日中、読んでしまいそう」と薫堂さんも絶賛します。数ある本のなかから薫堂さんが選んだのは、シェフの自宅キッチンを紹介する本や日本の推理小説家の家ばかりを取り上げたものなど、自分の世界観をもった人たちの本が多いようです。

「洋書ばかりではなく、日本の本がしっかり揃っているのもうれしいですね。こういう独自の視点をもった本を見つけられるのがうれしいな。リラックスのあまり、寝転がってしまわないよう気をつけないといけないですね」

窓がないのに現実以上にリアルな、最先端紫色LED照明でのカーテン選び。

紫LEDの照明でリアルな外光を感じるスペースに驚きます。
アルフレックスの製品の相談などができるコンサルティング・デスク。

「ああ、ここに窓があるわけではないんですね」と薫堂さんが言うのは、コンサルティング・デスクの奥にあるカーテンがかけられた一角。アルフレックスのスタッフに声をかけると、カーテンの奥が色を変え始めました。ここは、さまざまな時間の自然光を再現する紫色LEDを採用した光の壁なのです。

白く爽やかな朝日の色、力強い昼の光の後に壁面は西日のオレンジ色へと変化していきます。さらに夜の住まいの照明をつけた色味まで再現。1日を通じてカーテンが光をどのように受け止めるのかを実際のサイズ感で確かめることができます。ドレープがあり、透過し、陰影をもつ布は、光に合わせて色も大きく異なります。

「確かに同じカーテンでも、西にかけるか、東にかけるか、それだけでも大きく違うんですね。同じ生地でも仕立てが違うと随分と印象が変わりますね」





薫堂さんが初めて購入したソファは、この「エー・ソファ」。

「やはりいいソファですね」

そう言って薫堂さんが腰をかけたのが、アルフレックスの名作ソファ「エー・ソファ」。実はいまから25年前に27歳の薫堂さんが初めて買ったソファなのだとか。1986年に生まれたソファですが、それから数年後、薫堂さんは友人の家で出合い、座った瞬間にこれは欲しいと強く思ったことを振り返ります。

「清水の舞台から飛び降りる気持ちで初めて買った家具がエー・ソファです。いま考えると、自分への投資だったのかもしれません。このソファを買って、どんなに忙しい時でもいつも家に帰りたくなるようになったんです。このソファでそのまま寝てしまったこともずいぶんとありました。若い頃のそんな僕を受け止めてくれるソファだったんです」

堅牢なフレームに羽毛がたっぷり入ったやわらかいクッションをたくさん置いた、優しい座り心地とワイドなサイズ感。「角に座ると気持ちいいんですよ。いまは随分とファブリックの種類が増えたようですね」と薫堂さん。中身や素材は改良を重ねながらも、日本の住まいのための豊かな座り心地のソファというコンセプトは発売当初から30年以上変わりません。

「当時、カウチポテト族という言葉(ポテトチップを食べながらソファに座り、リモコンを片手にテレビやビデオを見るという当時の若者の新たなライフスタイルを指す)が流行して、そうした暮らしは、贅沢のように感じて憧れたものです。僕にとってソファはただ座るだけの場所ではなく、贅沢な場所なんです」



世界にひとつだけの天板に、薫堂さんもぞっこん。
机が美しいと打ち合わせスペースもアートな空間に変身します。

続いてガラス張りのミーティングスペースに置かれた木のテーブルを見つけるや、薫堂さんは吸い込まれるように移動していきました。これは薫堂さんが自宅で愛用するテーブルの作り手、リーヴァが特別につくったテーブル。あまり見たことのない木の表情に、薫堂さんは夢中になります。それもそのはず。このテーブルの天板に使われているのは、ニュージーランドに生育する樹高40m、樹径4mの巨木であり、現地の人々から「森の神様」と崇められるカウリという樹種。しかも、地球の気候変動により水位が上昇したことで森ごと埋没し、地中で炭化することなく眠っていた7000年~5万年前のものが偶然発掘されたことから神代木となり大変価値のある貴重な木材となった。

「このテーブルひとつでタイムトリップができるわけですね。この厚みもまた素晴らしい!」

リーヴァでは特別な木材が発見されると、もてる知識を総動員し、特別な家具として制作することがあるそう。この日、薫堂さんが触れたテーブルは長さ2m75cmのもの。購入者と原木を確認しながら部位(幹や根っこに近いなど)やサイズを決め、希望に応じて亀裂部にレジンを入れるなど顧客と対話しながらイメージに合うように特別な加工を施します。もちろん世界にひとつのユニーク・ピースです。

「このテーブルでオフィスを衣替えしたくなってきました。このテーブルはグリーンを置かずして、空間に自然を感じさせてくれそうです。大地が生み出した仏像……ご本像というのでしょうか、どこか宗教的ですね。このテーブルがあると、いい原稿が書けそうだな。身体感覚に訴えかけてくるインパクト、刺激がありますね。先ほどから何度も言うように、いい家具とは歴史を重ねるものだと思います。このテーブルに至っては何百年と使い続けられることでしょう。歴史がつくられる、その第一歩を刻める喜び。自分の気持ちを宿らせ、自分の足跡を刻む家具ですね」

ニュージーランドの北部で発見された巨木カウリをそのまま天板にした「セレリーナ」。美しさと迫力は別格です。

最後は最新のキッチンスタジオへ。ここでサプライズを思いつきます。

さて、アルフレックスという邸宅をめぐる冒険もまもなく終わりです。最後に訪れたのは、広々としたオープンキッチン。調理を行うという機能をこえて、食を通じたコミュニケーションの場となるキッチンは、イタリアのダダ社のものです。シンプルなラインのなかに、2ノックで開くディッシュウォッシャーなどが収められ、日本ではさらにアルフレックスがカスタムメイドした隠しコンセントなど、使い勝手と動きのよさに薫堂さんも唸ります。

じっくりと時間をかけて見て回った薫堂さんが一息つこうと腰をかけたのは、キッチンスタジオの奥に置かれたガーレというソファ。水鳥のダウンがたっぷりと入った贅沢なソファに、薫堂さんは「まるでベッドのよう」と言います。ただしカウチポテトではなく、ぐっと沈み込んでも身体をホールドしてくれる深い休息の時間を生む上質なソファ。2008年、旭川に自社工場を設け、いままでできなかったことをすべてやりきったソファとアルフレックスは言います。20代の頃にアルフレックスと出会い、いままでのソファの概念が覆されたと振り返る薫堂さん。その体験で、「最良のモノを手に入れることで、自分自身が成長することを知りました」と言います。

キッチンスペースの奥にはアルフレックスで最も贅沢なソファ「ガーレ」が鎮座しています。
イベントを催すことも可能な広いキッチンスペース。ここで薫堂さんのサプライズ魂に火がつきます。

「モノのもつ力が自分に刷り込まれていくというのでしょうか。モノを大切にすることで、自分のなかにも積み重ねられていくものがあります。心地いいテーブルに手を置いた瞬間、クロゼットの引き出しを開けた瞬間。その瞬間というものは、生きていく上で必要な水のように日常的であり、欠かせないものです。水は土地に行って初めて手に入れられるものですが、家具はここで手に入れることができます。アルフレックスジャパン、そして創業者の保科正さんは、イタリアから感度の高いライフスタイルを持ち込み、日本人のライフスタイルを変えました。もちろん洗練されたデザインではあるけれど、彼らのベースにあるのは心地よさですね。だから愛着が湧き、モノへの強い愛が生まれる。新しいアルフレックスのショールームは、まるでセンスのよいもてなし上手の友人の家に来たような気分になります」

満足そうにソファから立ち上がった薫堂さんが一言、「企画がひとつ思い浮かびました」とつぶやきました。はたしてどのような企画なのでしょうか。ゲストとしてアルフレックスの新しいショールームを堪能した薫堂さん。次回ここに訪れる時は、ゲストではなくホストとして、ここに訪れる人々を楽しませてくれるようです。そう遠くない未来、素敵なサプライズを楽しみに待つことにしましょう。

ガーレの心地よさに大満足の薫堂さん。新たな発想とサプライズをここで思いついたようです。

アルフレックス東京
東京都渋谷区広尾1-1-40 恵比寿プライムスクェア1F
TEL:03-3486-8899
営業時間:11時~19時
定休日:水
www.arflex.co.jp