春や秋のみならず、いまや年間を通して国内外からの旅行者で賑わいをみせる、京都。新しい宿泊施設のオープンラッシュに沸く中で、この秋、気になるスモールホテルが3軒オープンしました。
外資系のラグジュアリーホテルや町屋の一棟貸しなど、さまざまなスタイルの宿が揃い、百花繚乱の様相を呈する昨今の京都の宿事情。日常の雑事や雑念から離れ、古都の美意識にゆったりと身を浸すためにも、宿選びは失敗したくないものです。そんな時、候補リストにぜひ加えてほしいのが、今秋オープンしたばかりの3軒のスモールホテル。感性を刺激する建築デザインやアート、五感に響く心地いい設え、身体の内側から浄化されるようなヘルシーな朝食——。ただ快適に滞在することだけではなく、古都だからこその空気感を大切に考えた3つのホテルを紹介しましょう。
伝統をモダンに解釈した「MOGANA」は、凛とした静けさが漂う。
12月7日にオープンする「MOGANA」(モガナ)のコンセプトは「装いを愉しむ」。装いとは、身なりや外観を美しく飾り整えること、佇まいや趣、出発の準備をすること。「装いで日常が豊かになる。日常が豊かになると、人生がより豊かになる」と考え、新しいもてなしのかたちを提案します。
建築を手がけたのは京都出身の建築家、山口隆。鰻の寝床の敷地を活かした長い廊下には、畳を模したステンレスを敷き、天井や壁には格子を配しました。敷地内に自然を取り込む坪庭は、吹き抜けの垂直の壁で立体的に仕上げるなど、京都の伝統的な建築様式がモダンに再構築されています。
朝食は客室で提供。山海の幸に恵まれた淡路島の食材を調理し、淡路島の窯で焼成した陶器で出されます。また、ホテルのアメニティとして、オーガニックコスメのブランド「SHIGETA」を初めて採用。日本の美意識を大切にしたファッションブランド「matohu」の草履やクッションなど、日本人アーティストとのコラボレーションにも注目です。
「ENSO ANGO」は、京都の街を暮らすように楽しめる分散型ホテル
京都の四季や季節の行事を身近に感じ、暮らすように泊まりたい。そんな願いに寄り添う新しいホテルが、「ENSO ANGO」(エンソウ アンゴ)。京都の中心地、四条通りと五条通りに挟まれた麸屋町通、富小路通、大和大路通に点在する5棟のホテルの総称です。
全棟のディレクションは、インテリア・デザイナーの故内田繁が創設した内田デザイン研究所が手がけ、安藤雅信、寺田尚樹、日比野克彦、アトリエ・オイらアーティストや建築家が参画。異なる規模の5つの棟をそれぞれ担当し、アートやデザインが詰まったユニークなホテルが完成しました。5棟あわせて全229室の客室タイプは、キッチン付きのツインルームや2段ベッドのバンクルームなどさまざま。レストランやバー、ジムなどの施設は各棟に分散され、ゲストは自由に行き来しながら、自然と街に溶け込んでいくような滞在を楽しめます。建仁寺両足院の副住職によるホテル内の畳の間で行われる坐禅や、夜の街を走り抜けるナイトランなど、京都に通い慣れた人もそそられる文化交流プログラムも魅力的です。
ホテル名のENSOは「円相」、ANGOは「安居」。いずれも禅の言葉で、無限の可能性やきっかけの場をヴィジョンとして掲げています。
ババグーリの生活哲学を体感できる「MALDA KYOTO」
厳選された天然素材と職人の手仕事によって、デザイナー、ヨーガンレールの美意識を凝縮したものづくりを追求し続けるブランド「ババグーリ」。その世界観を体感できる空間が誕生しました。運営や内装を手がけたのは、建築家の藤本信行。築48年のビルをリノベーションし、1階がカフェ、2〜4階の各フロアに1部屋ずつを配したホテルです。
まず、客室の色に驚かされるでしょう。各部屋はそれぞれ墨、青、赤をテーマに、左官仕上げによるニュアンスのある壁面や、インドの手縫いアップリケのベッドカバーなどでシックにまとめられています。南側の大きな窓から入る朝の光や、素足にも気持ちいい洗い出しの床、インドのミルコットンカーディで仕立てたルームウエア。五感すべてに優しく、心地いいものばかりが集められ、心からリラックスした時間を過ごせます。そして、朝食も大きな楽しみ。ヨーガンレールの社員食堂のランチをベースにした有機野菜がたっぷりのプレートは、清々しい1日のスタートにぴったりです。