この秋、京都に新しく誕生した3軒のスモールホテルで、心安らぐ旅の時間を。

  • 写真:蛭子真(MOGANA)、内藤貞保(ENSO ANGO、MALDA KYOTO)
  • 文:小長谷奈都子
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春や秋のみならず、いまや年間を通して国内外からの旅行者で賑わいをみせる、京都。新しい宿泊施設のオープンラッシュに沸く中で、この秋、気になるスモールホテルが3軒オープンしました。

12月7日にオープンするホテル「MOGANA」の「MOGANAルーム」。6〜8階にある客室は、垂直の壁面に植栽して設けた坪庭に面しています。

外資系のラグジュアリーホテルや町屋の一棟貸しなど、さまざまなスタイルの宿が揃い、百花繚乱の様相を呈する昨今の京都の宿事情。日常の雑事や雑念から離れ、古都の美意識にゆったりと身を浸すためにも、宿選びは失敗したくないものです。そんな時、候補リストにぜひ加えてほしいのが、今秋オープンしたばかりの3軒のスモールホテル。感性を刺激する建築デザインやアート、五感に響く心地いい設え、身体の内側から浄化されるようなヘルシーな朝食——。ただ快適に滞在することだけではなく、古都だからこその空気感を大切に考えた3つのホテルを紹介しましょう。

伝統をモダンに解釈した「MOGANA」は、凛とした静けさが漂う。

「MOGANA」の客室に置かれた茶器。南部鉄器の急須、金沢・山中漆器の茶筒や湯呑みなど、姿の美しい工芸品が選ばれています。

12月7日にオープンする「MOGANA」(モガナ)のコンセプトは「装いを愉しむ」。装いとは、身なりや外観を美しく飾り整えること、佇まいや趣、出発の準備をすること。「装いで日常が豊かになる。日常が豊かになると、人生がより豊かになる」と考え、新しいもてなしのかたちを提案します。

建築を手がけたのは京都出身の建築家、山口隆。鰻の寝床の敷地を活かした長い廊下には、畳を模したステンレスを敷き、天井や壁には格子を配しました。敷地内に自然を取り込む坪庭は、吹き抜けの垂直の壁で立体的に仕上げるなど、京都の伝統的な建築様式がモダンに再構築されています。

朝食は客室で提供。山海の幸に恵まれた淡路島の食材を調理し、淡路島の窯で焼成した陶器で出されます。また、ホテルのアメニティとして、オーガニックコスメのブランド「SHIGETA」を初めて採用。日本の美意識を大切にしたファッションブランド「matohu」の草履やクッションなど、日本人アーティストとのコラボレーションにも注目です。

デラックスルーム バルコニー付きは土壁や木を活かした落ち着いた内装。その他、客室はいぶし銀加工のアルミの部屋、大理石の真っ白な部屋などそれぞれ趣が異なりますが、いずれも直線美を特徴としたシャープな空間です。
デラックスルーム バルコニー付きの浴室。全室のバスタブはアフリカ南部の黒御影石、ジンバブエを使った特注品。ホテルでは初めて使われるオーガニックコスメブランド「SHIGETA」のアメニティとともに、癒しのひと時を。
大皿に盛られた色とりどりの野菜料理や、トマトと玉ネギをスパイスで煮込んで温泉卵と合わせたシャクシュカ、吉田パン工房のパンの盛り合わせなど、身体が心地よく目覚められそうな朝食のセット。器は淡路島の「Awabi ware」と「樂久登窯」(らくとがま)でMOGANAのために焼かれたオリジナル。
入口から長い廊下を進むと、「matohu」の長着が飾られた吹き抜けのロビー・ライブラリー。今後、「matohu」の長着を纏って街を散策したり、永観堂近くの和菓子店「とま屋」にてお茶会といったプランも予定されているそうです。
椿と黒竹が植えられ、那智黒石が敷き詰められた前庭を通り抜け、エントランスへ。ホテル名は、「〜であったらいいな」という気持ちを意味する日本の古語の終助詞、「もがな」に由来。

MOGANA モガナ
住所:京都市中京区小川通御池下ル壺屋町450
TEL:075-606-5281
全23室
朝食付き2名1室MOGANAルーム¥70,000〜(税サ込)
チェックイン15時、チェックアウト12時
※開業日は12月7日と発表されました(11月9日現在)
http://yadomogana.com/

「ENSO ANGO」は、京都の街を暮らすように楽しめる分散型ホテル

「ENSO ANGO」の5棟の中でレストランやバーを備えるメイン棟、「TOMIⅡ」の外観。街に溶け込むシンプルでモダンな外観は5棟の共通項です。入口には各アーティストによる手水を設置。

京都の四季や季節の行事を身近に感じ、暮らすように泊まりたい。そんな願いに寄り添う新しいホテルが、「ENSO ANGO」(エンソウ アンゴ)。京都の中心地、四条通りと五条通りに挟まれた麸屋町通、富小路通、大和大路通に点在する5棟のホテルの総称です。

全棟のディレクションは、インテリア・デザイナーの故内田繁が創設した内田デザイン研究所が手がけ、安藤雅信、寺田尚樹、日比野克彦、アトリエ・オイらアーティストや建築家が参画。異なる規模の5つの棟をそれぞれ担当し、アートやデザインが詰まったユニークなホテルが完成しました。5棟あわせて全229室の客室タイプは、キッチン付きのツインルームや2段ベッドのバンクルームなどさまざま。レストランやバー、ジムなどの施設は各棟に分散され、ゲストは自由に行き来しながら、自然と街に溶け込んでいくような滞在を楽しめます。建仁寺両足院の副住職によるホテル内の畳の間で行われる坐禅や、夜の街を走り抜けるナイトランなど、京都に通い慣れた人もそそられる文化交流プログラムも魅力的です。

ホテル名のENSOは「円相」、ANGOは「安居」。いずれも禅の言葉で、無限の可能性やきっかけの場をヴィジョンとして掲げています。

スイスのデザインスタジオ、アトリエ・オイが担当した「TOMIⅡ」の「エンソウツイン」。アトリエ・オイがデザインしたアルテミデ社のフロアランプがポップなシルエットを天井につくります。客室はいずれもシンプルで機能的です。
レストランやバーを備えるメイン棟の「TOMIⅡ」。アトリエ・オイが考案した空間のテーマは「陰影」で、レストランの照明は日吉屋の和傘から着想を得ました。テーブルや椅子はアトリエ・オイがデザインし、飛騨の老舗家具メーカーが製作。レストランでは朝食とディナーにスペイン料理を供します。
朝食は「TOMIⅡ」のレストランでの朝食ビュッフェと、各棟のラウンジに用意された簡易的な朝食の2種。朝食ビュッフェはピンチョスをはじめとする多彩なスペイン料理が並び、宿泊客以外も利用可能。
内田デザイン研究所が設計した「FUYAⅡ」のロビー。2002年のミラノ・サローネで内田繁が発表した茶室「山居」のリメイクが置かれています。全棟の作庭は、大阪を拠点に活動する信原宏平によるものです。
「FUYAⅡ」の「エンソウツイン キッチン付き」。ここは和の文化を打ち出した棟。部屋や廊下を飾る内田デザイン研究所の稲垣留美による格子アートは、フロアごとに異なる色で展開。
陶作家の安藤雅信が担当した「FUYAⅠ」のラウンジ。各棟にはゲストが寛げるラウンジがありますが、ここは安藤の「結界」シリーズがギャラリーのように飾られた落ち着いた空間。テーブルには電源とUSBプラグが付いています。
「TOMIⅠ」のテーマは、「食」と「交流」。日比野克彦が京都の錦市場で見つけた京野菜のダンボールを使って制作した壁画がラウンジを彩っています。ここではおばんざい教室をはじめとする食のイベントを企画。
最も小さな棟で、バンクルーム形式の客室やバーを備えた「YAMATOⅠ」は、建築家・デザイナーの寺田尚樹が手がけました。フロントには、京都の春夏秋冬を表現したホテルオリジナルの「添景アート」をディスプレイ。

ENSO ANGO エンソウ アンゴ

TEL:075-585-5790(予約直通)
TEL:075-746-3697(ホテル代表番号)
TEL:075-746-3693(レストラン直通番号)
FUYAⅠ(麸屋町通Ⅰ)16室 住所:京都市下京区麩屋町通綾小路下ル俵屋町298
FUYAⅡ(麸屋町通Ⅱ)86室 住所:京都市下京区麩屋町通高辻上ル鍋屋町241-1
TOMIⅠ(富小路通Ⅰ)29室 住所:京都市下京区富小路通高辻上ル筋屋町152
TOMIⅡ(富小路通Ⅱ)75室 住所:京都府京都市下京区富小路通高辻下ル恵美須屋町187
YAMATOⅠ(大和大路通Ⅰ)23室 住所:京都府京都市東山区大和大路通四条下ル大和町18
バンクルーム1〜2名1室¥14,000〜、クイーン1〜2名1室¥22,000〜、キング1〜2名1室¥22,500〜、スーペリアクイーン1〜2名1室¥23,000〜、スーペリアキング1〜2名1室¥23,500〜、スーペリアツイン1〜3名1室¥26,500〜、エンソウツイン1〜3名1室¥29,500〜、エンソウツイン キッチン付き1〜3名1室¥31,500〜(すべて税サ込) ※棟によって客室タイプは異なります
朝食ビュッフェ¥2,500(税込)
チェックイン15時、チェックアウト11時
www.ensoango.com

ババグーリの生活哲学を体感できる「MALDA KYOTO」

「MALDA KYOTO」の外観は木を主としたナチュラルな仕上げ。ホテルで使われている雑貨やアメニティは、1階カフェの他、向かいのババグーリ京都でも購入できます。

厳選された天然素材と職人の手仕事によって、デザイナー、ヨーガンレールの美意識を凝縮したものづくりを追求し続けるブランド「ババグーリ」。その世界観を体感できる空間が誕生しました。運営や内装を手がけたのは、建築家の藤本信行。築48年のビルをリノベーションし、1階がカフェ、2〜4階の各フロアに1部屋ずつを配したホテルです。

まず、客室の色に驚かされるでしょう。各部屋はそれぞれ墨、青、赤をテーマに、左官仕上げによるニュアンスのある壁面や、インドの手縫いアップリケのベッドカバーなどでシックにまとめられています。南側の大きな窓から入る朝の光や、素足にも気持ちいい洗い出しの床、インドのミルコットンカーディで仕立てたルームウエア。五感すべてに優しく、心地いいものばかりが集められ、心からリラックスした時間を過ごせます。そして、朝食も大きな楽しみ。ヨーガンレールの社員食堂のランチをベースにした有機野菜がたっぷりのプレートは、清々しい1日のスタートにぴったりです。

3階にある青の部屋。ベッドまわりの家具はチーク、テーブルや椅子、棚には栗の木を使用。ソファは簡易ベッドにでき、3名まで宿泊可能。床暖房まで完備されています。
キッチンにはまな板や包丁、カトラリーなどを常備。冷蔵庫は鉄板で囲われて空間に溶け込んでいます。
インドの手縫いアップリケを施したベッドカバーもババグーリのアイテム。
モルタル系左官のシンプルな浴室には大きなバスタブが設置され、シャワースペースもあります。オーガニックコットンのリネン類や、天然素材のみを使ったアメニティも肌に嬉しいものです。
朝食には、京都近郊で採れた有機野菜や、石垣島のヨーガンレール農場から届く旬の野菜や果物を使用。センの木のプレートは、漆作家の宮下智吉が制作。 photo: ©Kohei Yamamoto
1階カフェに並ぶスツールはチークの木の一本彫りで、インドネシアでつくられています。オープンキッチンでつくられるマフィンやクッキーの他、ランチには特製ベジタリアンカレーが数量限定で登場。
砂糖、卵、乳製品を使わないしっとりしたマフィンは毎朝焼きたて。「米粉のメープルマフィン」¥410(税込)、はと麦をベースに、はま茶、玄米、蕎麦などをブレンドしたババグーリのオリジナル豆茶「二茶」¥600(税込)

MALDA KYOTO マルダ キョウト
住所:京都市中京区堺町通御池下ル丸木材木町684
TEL:080-1456-5967(ホテル予約・問い合わせ)、075-606-5385(カフェ)
全3室
1室2名朝食付き¥56,000~
チェックイン15時、チェックアウト11時
※カフェの営業時間は10時~19時、無休(年末年始、メンテナンス日を除く)
www.maldakyoto.com