東京・早稲田の草間彌生美術館で現在開催中の『我々の見たこともない幻想の幻とはこの素晴らしさである』。時代を超えて、世界の人々を魅了し続ける草間作品の魅力、そして現在進行形の活動内容に迫る展覧会を取材した。
幼少期より自身を苛む幻覚や幻聴と闘いながら、全身全霊で独自の芸術表現を追求してきた草間彌生。1950年代から本格的に作品を発表し始め、以降も時代ごとに前衛的な創作を続けてきた彼女だが、90歳を超えたいまもその精力は衰えることなく、日々作品をつくり続けている。
東京の草間彌生美術館で開催されている『我々の見たこともない幻想の幻とはこの素晴らしさである』は、そんな草間の現在進行形の創作が観られる貴重な展覧会だ。広く世界で愛されている彼女の作品を見せる機会は大規模な回顧展として開催されることが多いが、エネルギッシュな草間の創作意欲は展覧会の開催頻度を圧倒するものであり、ゆえに未公開の作品も多い。本展では、そんな未公開の近作、新作のみにフォーカス。世界初公開の2作品を含む、すべて日本初公開となる計22作品を紹介している。
未来を明るく照らす、草間のビジョン
いまも制作・追加され続けている最新の大型絵画シリーズ『わが永遠の魂』や、女性の連続した顔をひとつの作品にまとめた『永遠に続く女の魂』といった完成したばかりの最新作まで、草間ファンでも見たことのない貴重な作品群が並ぶ本展。特に、来場者を作品内部に取り込むインタラクティブな参加型展示に注目が集まる。
2階に展示されているのは映像作品『マンハッタン自殺未遂常習犯の歌』だ。側面に鏡を仕込んだ巨大スクリーンには鮮やかな背景とともに草間が映し出され、連続した像が漆黒の空間のなかに伸びゆく。その力強い視線にじっと見つめられながら、強烈な歌とともに過ごす1分17秒。ときに苦しみや闇を感じさせる内容ながら、その背景には平和や愛といった草間の普遍的なメッセージが隠れており、鑑賞者の脳裏には、さまざまなイメージが浮かんでは消える。
一方で、4階に展示されている『フラワー・オブセッション』は、草間の意識と感覚を追体験する特別な空間だ。自伝でも語っている、テーブルクロスの花柄が次第に空間のなかに増殖していくという草間の幻覚を、本展のためにインスタレーションに展開。来場者は、会場入り口に置かれた造花や花模様のステッカーをひとつ手に取り、部屋の中の好きな場所に設置していく。この行為が繰り返されていくことで、刻一刻と状況は変化し、空間はどんどん花で埋め尽くされていく。自分の行為が他人の行為と重なり合うことにより、次第に自他の境界線が消え去り、ついには自分自身が消滅する。一見難解にも感じられる草間のビジョンをわかりやすく、体験しながら理解することができる。
いまの時代だからこそ響く、草間のメッセージ
その他にも、鏡張りの部屋に入り、無限に続く光の世界と同化するような体験ができるインスタレーション『無限の鏡の間─宇宙の彼方から呼びかけてくる人類の幸福への願い』など、本展では尽きることのない草間の創作の意欲、そして無限に続くビジョンを間近に感じ取ることができる。
本展で草間のビジョンと何度も巡り合っているうちに、それが必ずしも幻覚や幻影というファンタジーの領域ではないことに気づくだろう。草間は、幻想を含むすべてのビジョンを現実のなかで捉えており、希望に満ちた未来を築き上げるための大切なファクターであるとも考えているのだ。
不安や恐怖からくる幻覚を、反復、増殖による表現手法によって神秘的なビジョンへと変えてきた草間彌生。永遠に尽きることなく湧く泉のように、次々と繰り出される豊かな表現は、年代や文化、地域を超えて、世界中で愛されている。
創作するほどに充実をしていくという草間の魂の叫びは、コロナ禍で見えない敵と闘ういまの時代をしっかりと捉えている。彼女の作品からは、我々が団結し、この危機をどのように乗り越えていけばよいかを暗示しているようにさえ感じられるだろう。
『我々の見たこともない幻想の幻とはこの素晴らしさである』
期間:2020年7月30日(木)~ 2021年3月29日(月)
開催場所:草間彌生美術館
東京都新宿区弁天町107
開館日:月、木~日、祝
休館日:火、水、2020年12月28日(月)~ 2021年1月7日(木)
開館時間:11時~17時30分
入場料:一般1,100円
※日時指定の事前予約、定員制(各回90分)。チケット予約はこちらから
https://yayoikusamamuseum.jp
※会期や開館時間、休館日などが変更になる可能性があります。事前に確認をお薦めします。