緑美しい京都の夏。風光明媚な京都の寺の中でも、一面に広がる苔で名高い常寂光寺にて6月末、現代アーティストの小松美羽さんがライブペインティングを行いました。描かれた作品は8月25日まで同寺院で展示されています。常寂光寺の緑を、小松さんはどのように描いたのでしょうか。
冴え冴えと緑が際立つ青もみじや、しっとりとした数多の苔。その美しさは、夏の京都の風物詩として、古から多くの風流人に愛されてきました。なかでも、京都の緑がより美しく見えるのが、空から降り注ぐ雨に濡れ、樹々や苔がより一層艶やかに輝くような日です。
そんな景色の中、現代アーティスト小松美羽さんによるライブペインティングが行われました。大英博物館に所蔵された『天地の守護霊』や出雲大社に奉納した『新・風土記』をはじめ、神聖な生き物の世界を独特な色彩感覚と高い表現力で描いてきた小松さんは、いまや世界で活躍するアーティストのひとりとして知られています。
切望していた雨の中で描き出した、一対の艶緑。
パフォーマンスの舞台として選ばれたのは、青もみじと苔の名所として知られる京都・常寂光寺。水源豊かな小倉山の山肌に位置し、歌人・藤原定家の山荘「時雨荘」があった地としても知られています。事前に寺を訪れた小松さん自らが、「寺の中心にあり、緑に囲まれたこの場所で描いてみたい」と所望したことで、同寺院敷地内にある南北朝時代に建てられた歴史的建造物「仁王門」前でのライブパフォーマンスが実現しました。
濡れた青もみじの下、白装束姿で石階段を一歩ずつ厳かに下る小松さんが、舞台となる「仁王門」前に到着。キャンバスとなる金屏風と半円形に並べられた絵具の間に座り込み、祈りをささげた後、いよいよライブが始まります。
チューブから出した多彩な絵の具を、筆や自らの手の平、指を使いながら、時には繊細に、時には叩きつけるように、金屏風へと塗り重ねていきます。手を伸ばし、立ち上がり、座り込み、全身を使って絵画を描き続けるその姿は、まるで舞を踊る巫女のよう。そんな優美な姿を、観客たちは固唾を飲んで見守り続けていました。
ライブ中盤、それまで抽象的に見えていた線や点がつながっていき、しだいに屏風上に物語が浮かび上がってきます。
1時間以上にもわたるライブペインティングの末、金屏風の上に現れたのは、巨大な目をもつ2本の青もみじや苔、龍や狛犬、虫、さらに一本の水平線に区切られた、極彩色の世界でした。作品名は『宝雨の中で一対の艶緑の楓は苔の地平線にて門となる』。ライブペインティング終了後、小松さんは出来上がった作品について次のように語ります。
「1か月ほど前に常寂光寺にお邪魔した際、緑の絨毯のように覆っている苔の隙間から、さまざまな生き物がもつエネルギーを感じました。苔を境界線に見立て、上は我々が住む世界、下は地中に広がる世界、とふたつの世界を描いてみました。目に見えなくても、この苔の下には虫をはじめとしたさまざまな生き物が生きています。植物や動物、人間。そんな生命の営みを、この作品の中で描きたいと思いました」
雨の中でのライブペインティングは、初めてだという小松さん。だがだからこそ、一度は行ってみたかった、と続けます。「今日は雨が降ってほしいと願っていました。昔から『雨の日は龍が宝珠を落とす』と言われるように、雨は恵みなんですね。こんな日にライブパフォーマンスができるのは、本当にありがたかったです」
緑に囲まれた空間で、自然の営みを描いた唯一無二の世界。なお、同作品は8月25日まで、常寂光寺内の展示場にて公開されます。雨の中の緑とアートが融合した不思議な世界を、その目でご覧ください。
新たな美しさを体感! 「みどりの京都アートギャラリー」
小松美羽作品ほか、さまざまなアーティストの作品を祇王寺・常寂光寺にて展示。
実際の境内風景と作品のイメージを照らし合わせて眺めれば、より苔や新緑の美しさを感じられます。
写真とはまたちがった、アートなみどりを堪能すべく、京都に足を運んでみませんか?
会期:6月28日(金)~8月25日(日)
会場:常寂光寺 展示場
京都市右京区嵯峨小倉山小倉町3
ギャラリー祇王寺
京都府京都市右京区嵯峨鳥居本小坂町32
時間:10時~16時
※作品はこちらからでも鑑賞できます。
●そうだ 京都、行こう。 https://souda-kyoto.jp