愛媛県松山市の名湯・道後温泉で、アートと温泉街が一体となるイベント「道後オンセナート2018」が行われています。2014年に続いて2回目の開催となる今回も三沢厚彦、浅田政志ら人気作家が多数参加。街やホテルにちりばめられた盛りだくさんの仕掛けや見どころを、じっくり観察していきましょう。
2014年、道後温泉本館の改築120周年を記念して「道後オンセナート2014」が行われました。それから4年、道後温泉では湯気とアートが混ざり合う不思議な光景が繰り広げられてきました。ホテルの客室をアーティストがジャックしたり、ロビーや街角にアート作品が出現したり。訪れた人々はたっぷりと湧く温泉で温まりながらアートな部屋に泊まり、アーティストが手がけた浴衣で街を歩くことができます。日本で最古といわれる名湯とアートの刺激に、身も心もほぐれていく体験ができるのです。
街中にちりばめられた、「市民参加型」のアート作品。
「道後オンセナート2014」の第二弾として開かれる「道後オンセナート2018」は、2017年9月にプレオープン、2018年4月14日にグランドオープンを迎えました。今回は街中のパブリックアートとして三沢厚彦や浅田政志、梅佳代たちが参加しています。ホテルのロビーでは鈴木康広と松井智惠が作品を展示。「泊まれるアート」として人気が高い客室でのプロジェクトには祖父江慎、宇野亞喜良、大宮エリーが参加しました。
道後温泉本館向かいにある休憩所「振鷺亭」前で本館を見つめる巨大なクマは、三沢厚彦の作品です。高さ3メートル、重さ1.5トンの堂々たるクマは、かつて道後公園にあった「道後動物園」へのオマージュとして作られたもの。道後動物園は今から30年前、1988年に移転して「とべ動物園」となりました。後ろ足で立ち上がり、目を見開いたクマの姿がなんともユーモラスです。
この作品に合わせて、振鷺亭には「アニマルハウス in 道後」がつくられました。三沢厚彦、舟越桂、小林正人、杉戸洋の4人による合作インスタレーションです。道後のシンボル、白鷺を中心に動物の彫刻や絵画、謎のオブジェがひしめき合います。浅田政志が制作の様子を撮影、そのドキュメントも展示されています。
近くには巨大な風呂椅子が街灯に立てかけられています。これはアーティスト、久村卓の作品です。実際に座るのはちょっと難しいのですが、近くに普通のベンチもあるのでゆっくり座って鑑賞できます。見慣れたものがスケールアップしてあるはずのないところに出現する、楽しい違和感が非日常を感じさせます。久村は今回、本物のベンチをカラーパテで補修するというプロジェクトも行います。傷んだベンチがカラフルなパテで補修されて、色鮮やかな座れるオブジェに変身していくのです。
道後商店街のアーケードには元気のいいバナーが下がっています。これは写真家、梅佳代が道後中学校の野球部の生徒を撮ったもの。生徒たちが道後温泉本館でお湯につかったり、休憩所で山積みになっていたりします。テーマは「坊っちゃんたち」。夏目漱石の世界が現代に甦ります。
道後温泉には「足を怪我した白鷺が道後の湯に足をひたすとその傷が治った」という伝説があります。白鷺が道後温泉のシンボルになっているのはそのためです。写真家・浅田政志はその白鷺にまつわる伝説を8点の写真で表現し、道後温泉本館の壁に飾りました。『鷺の恩返し』と題されたこの作品では、浅田自身が白鷺に扮しています。その他の聖徳太子や夏目漱石らの登場人物は道後の街の人々が扮します。白鷺は目立たないように彼らを見守って、恩返しをしているのです。
「泊まれるアート」を体験しませんか?
ホテル椿舘のロビーにぷかぷか浮かんでいるのは、鈴木康広の『湯玉の気配:空気の人』です。道後の空気を身体に詰めているようです。モニタには道後の街中を散歩する『空気の人』が映し出されています。レセプションの前にあるのは証明写真のブースですが、まばたきをした瞬間にシャッターが切られるようになっていて、目をつぶった顔のカードが出てきます。自分ではなかなか見ることができない顔写真のカードは、道後のいいお土産になります。
松山を舞台にした夏目漱石「坊っちゃん」は言わずと知れたロングセラー。祖父江慎が手がけた道後舘の客室では、その「坊っちゃん」を読むことができます。といっても本が置いてあるわけではなく、部屋がまるごと本になっているのです。タイトルは『部屋本 坊っちやん』。まるで「耳なし芳一」のように壁にも天井にも、畳のへりにもカーテンにも「坊っちゃん」の文章がびっしりと書かれています。それぞれフォント(書体)が違うのは、“坊っちゃんコレクター”である祖父江の異なる蔵書からとられたため。その様子は興味深く、フォントマニアの方にもオススメです。タイトルが「坊っちやん」と「や」が大きくなっているのも初版本の表記に従っています。今回、新しく加わった“アートな客室”の中でも一際シュールな空間です。
「道後オンセナート2014」の際につくられた石本藤雄の客室があるホテル「茶玻瑠」には今年4月、石本デザインの部屋が増えました。「エグゼクティブフロア」と名付けられたフロアに洋室を5部屋とラウンジをデザインしています。石本はマリメッコのデザイナーとして活躍し、現在はアラビアで製陶に取り組んでいます。テキスタイルや備え付けのマグカップは石本のデザイン。陶のオブジェも石本の手によるもの。家具も石本が監修しています。こちらは「道後オンセナート2018」のアート作品ではないので、宿泊のみとなります(見学はできません)。
「道後オンセナート2018」の作品は2019年2月28日まで設置されます。5月16日からは陶芸家であり、アーティストの鹿児島睦がデザインした浴衣の貸し出しが始まります。道後と銀座からインスピレーションを得た浴衣で、道後の街のそぞろ歩きが楽しめます。またこの浴衣は銀座三越でも鹿児島がデザインした風呂敷や手ぬぐいといっしょに販売される予定(5月16日〜8月22日)。さらに6月には道後温泉別館・飛鳥乃湯泉中庭に大巻伸嗣の大型立体作品が登場します。椿をモチーフにした鮮やかなオブジェは道後の景色をますます華やかなものにしてくれるはず。期間中は近藤良平やエンライトメントによるイベントも(詳しくは公式ウェブを)。手ぬぐい片手に、アートと出会う祭りです。
『道後オンセナート2018』
会場:愛媛県道後温泉およびその周辺エリア
開催期間:2017年9月2日(土) 〜 2019年2月28日(木)
http://dogoonsenart.com