「昭和」を懐かしいと感じない20代が、シャープ製のレトロな電卓を使って考えたこと。
私はバブル崩壊後、ノストラダムスが予言した人類滅亡まであと数年というところで生まれた。「昭和」について思い浮かべるのは、学校や博物館で学んできた歴史、映画やドラマで見てきたフィクションの世界、家族や親戚から聞かされた思い出話……どれも実感がわかないものだ。
映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』には、「昭和」を懐かしいと感じるかどうか、その境界がありありと描かれている。懐かしさに身も心も奪われ、仕事や家事をそっちのけで遊びに興じる大人たち。彼らの気持ちも分からなくはないが、どちらかというと私は、遊んでいる親を待ちながら「懐かしいってそんなに良いものなのかな?」と首を傾げていた子どもたちと同じだ。
2020年最後に発売されたPenは「昭和レトロに癒やされて」。特集のなかに1950年代から80年代までのデザインの変遷を追うページがあり、さまざまなプロダクトやポスターが紹介されている。そこで、現在普及している電卓の原型とされているシャープ製の液晶電卓「EL-805」が登場した。種類は異なるが、私の実家でも同じメーカーの古い電卓が使われている。以前は私の祖父が使っていたものらしい。
正確な数字は分からないが、おそらく発売年は1980年頃。電池式で、サイドに電源スイッチが付いている。画面は蛍光表示管式。ロゴ入り革製ケース付き。この電卓を初めて手に取った時、いまも数字が綺麗に表示される驚きと、緑色の画面が格好良いと感じた。ソーラー電卓やスマホの電卓アプリしか使ったことがなかった私の目には、新鮮に映ったのだ。
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人々は生まれた時代区分で仲間意識をもったり、自分とは異なる人を仲間外れにしようとしたりする時もあるが、「昭和」を思い起こさせる風景やアイテムは、懐かしさを感じる人々だけのものではない。懐かしいと思う人が多いなかで、新しいと感じる人がいる。それこそ、昭和から平成、令和へ受け継がれる“昭和レトロ”の良さなのだろう。(編集TO)