バークオリティのハイボールを堪能できる、神田の地下酒場
最初は赤だった、酒の味も分からないまま甘いコーラで割って飲んだ。まだ、永ちゃんのヒット曲はなかったから、ウィスキーコーク♫なんて、カッコいい名前はなかった、コークハイが僕らの旅の始まりだった。
やがて、赤が白に変わり、角に変わった時、大人になったような気がした。でも、先輩たちに連れて行かれたブルーヴェルベットのスツールで飲む、薄いオールドの水割りだけには馴染めなかった。
冷蔵庫の氷のせいか、やたらと継ぎ足そうとする綺麗なお姉さんたちの忙し無さのせいか、本当はおいしいはずのウイスキーが青い喉には響かなかった。
そんなある日、蔦に包まれた洋酒の名前のバーのドアを叩いた。カウンターに1人立つ老人は、母校の先輩だった。東京の湯島にある高名なバーも、彼の後輩だと言う。蝶ネクタイの正装に緊張し、オーダーに迷う後輩にバーテンダーは黙ってグラスを置いた。
「ハイボールです」
その夜の鮮烈な想いが神田駅そばの地下で、くっきりと脳裏に甦ってきた。それは、あの夜と同じ角のハイボールだった。薄いグラスに寄り添う、1つだけの氷、シャンパーニュのように泡が途絶えない琥珀色の陶酔。
かつて、ウイスキーは庶民の憧れだった。下町では、甲類焼酎の炭酸割りに梅エキスで色を付け、琥珀色の液体に変容させた。今でも立石や浅草あたりでは、琥珀色の焼酎ハイボールが多くの人たちを酔わせている。
石川さゆりのオリジナルから、ハナレグミ、田島貴男、クラムボン、折坂悠太と様々なヴァージョンで展開する角ハイのCM(ウイスキーが、お好きでしょ)あたりから、ハイボールは再び世のメインストリームに帰ってきた。大衆酒場の暖簾を潜る若者たちの多くも、一杯目のコールにハイボールを選んでいる。
しかし、ハイボールが溢れる世の中だからこそ、バー・クオリティーの正統なハイボールを知ってほしい。「ダルマ」は国産ウイスキー大手のサントリーが、真っ向からウイスキーのおいしさをプレゼンテーションする酒場だ。水も、氷も、とびっきりの強炭酸もバー・クオリティー、しかし、酒場だからリーズナブルな価格設定、ウイスキーに合うつまみもたくさん用意されている。
ダルマは、ウイスキーという酒を最高のクオリティーで体験する場だ。ホテルのバーのように、ウイスキーに出会う場所は洋風なシチュエーションが多い。しかし、国民の酒になったハイボールだからこそ、コの字酒場という和の典型的な形を目指した。昨今、街に溢れるネオ大衆酒場ではなく、より正統的な古典酒場のスタイルだ。
およそハイボールほど、作り手のこだわりの違いが出る酒はない。グラスの中には、ウイスキーと氷、炭酸、ただそれだけの組み合わせだからこそ、その味には大きな差が出る。ハイボール酒場を謳うダルマは、その組み合わせに徹底的にこだわっている。
グラスは、すべてのグラスを手作りで製造する「うすはり」で有名な松徳硝子。ウイスキーの味わいを舌に届けてくれる酒器として、これ以上のものは望めないだろう。
氷は、もちろんバー・クオリティーの氷柱。バーにあって、居酒屋にないものの典型がバーテンダーがグラスに合わせて、氷柱から切り出す氷だ。ダルマでは、昔ながらの氷屋に、1個でグラスを満たす氷柱を特注している。もちろん、原価率は高くなるが、複数杯、そのままの氷で飲んでもらうことで氷代をペイ。客も杯を重ねるごとに安くなるシステムを楽しんでいる。
炭酸は瓶やペットボトルから注ぐのではなく、カウンター下の炭酸ガスボンベから送られる。もちろん、ペットボトルには詰められないほどのガス圧だ。そのためダルマのハイボールの泡は、シャンパーニュのようにいつまでも途絶えることがない。
加えて、水との相性がいいオールドは前割りの水割りで供される。本来、芋焼酎などをまろやかに飲むための前割りは、慣れ親しんだオールドの水割りに新しい魅力を生み出している。
グレーンウイスキーである知多は、お湯割りで供される。酒燗器で65度に保たれたお湯割りからは、とうもろこし本来の甘さが漂い、日本人の舌に合うウイスキーであることを再認識する。
豊富に用意された酒場のつまみも、ダルマの大きな魅力だ。オイルサーディンやレーズンバター、鴨の生ハムなど、洋酒のストーリーを感じさせるメニューのほか、煮込み、おでん、冷菜など大衆酒場の定番たちもラインナップする。
定食メニューが豊富で、時間を気にせず頼めるのも居酒屋にはないシステム。ご飯と味噌汁にこだわった定食は、酒類をオーダーしないで定食屋としての利用も歓迎している。
ホテルを代表とする三毛作業態ではなく、下町の名店、信濃路や大利根のような通しに近い営業スタイル。昼から飲むのも、夜に定食だけ食べるのも、口開けから鍋や「てっさ」をつまむのもあり。コの字カウンターを囲む巨大な地下酒場は、かつて渋谷にあった呑んべえたちの楽園、富士屋本店を思い出す。
昭和の香りを感じさせるハイボール酒場、しかし、オーダーは自分のモバイルからQRコードを読み取ってダウンロード。そこから注文するという、コロナ禍にも優しい現代仕様。店内に流れるBGMさえ、モバイルからリクエストできる。
多様なモチベーションに対応する新感覚の古典酒場で、もう一度、ウイスキーに惚れ直すのはどうだろうか!?至福の地下への入口は、年中無休で開かれている。
酒場 ダルマ
東京都千代田区内神田3-14-8 ニシザワビルB1F
TEL:03-6260-7313