デリバリーもOK! 米粉100%でヴィーガン対応のバインミー店が 東京・神宮前でスタート
バインミーと呼ばれるサンドイッチを、初めて食べたのはパリの13区辺りだった。ロケでお世話になった男性スタイリストのアパルトマンで、小さな打ち上げを開いてくれると言う。
僕も何か腕を奮わなきゃと思い、中華街のマーケットに野菜や調味料を買いに行った。メニューの予定は、当時通っていた原宿「東坡(トンポウ)」の白菜サラダ。手があいたら、みんなで餃子を包んでもいい。
思いのほか大きい中華街で、食材探しも一段落した頃、少し小腹が空いてきた。そんな時、路上でサンドイッチを売っている小さなスタンドが見つかった。
ソーセージを焼く鉄板みたいなものの上で焼いているのは、どう見ても鯖だった。両面をこんがりと焼き、お正月のなますみたいな、ニンジンと大根。当時まだ日本では見かけないパクチーをどっさり挟んで、「ムッシュ!」と目の前に手渡される。
大きな口を開けて頬張った瞬間、おいしさで顔が満面の笑みになった。その気持ちが伝わったのだろう。バインミー屋のマダムも、ニコニコしている。
幸福なバインミーとの出会いだった。
その秋、パリで食べたものはフォーやボブン、バインミーなどのベトナム料理。クスクスやケフタなどのモロッコ料理。なぜか辛い唐揚げが名物だった小さなコーリアンレストランと、アジアンフレイバーのものばかりだった。
魚ご飯とタマリンドの風味がなんとなく懐かしい、セネガル料理もよく食べた。メルティングポットと呼ばれるニューヨークより、パリははるかにメランジェな街だった。
自らもエスニックに属する一員ながら、僕にアジアンフードの豊潤さと懐の深さ、その向こうに覗くエロティシズムを教えてくれたのは少しずつ夜が長くなり、ニュイ・ブランシュ(白夜)に向かうパリだった。
実際、パリで活躍するデザイナーやフォトグラファー、ヘアメイクやモデルたちは、好んでエスニックなレストランでデートを重ねたり、仲間同士の小さな打ち上げに使ったりしていた。
でも、東京に帰ってみると、パリで見かけたようなエスニックレストランは見つからなかった。六本木の墓地近くにあるタイ料理はおいしかったが、敷居が高く、僕らが酒を交わしながら楽しめる場所ではなかった。
そして、あの日の午後、鯖に目がない九州人の僕を狂喜させたバインミーに出会えるまでには、いくつもの季節が通り過ぎるのを待つしかなかった。
外苑前の「バインミートーキョー」で鯖のバインミー(サバカレー)を頬張ったとたん、あの日のパリを思い出した。カレー風味のグリルに、クミンシードの香り。紫キャベツとライム、パクチーが織りなす美しいヴィジュアル。SNS映えしそうな外観と、スパイシーな味の構築。なんと言っても、表面がカリッとして、中はしっとりしたフランスパンがいい。
店主のサラ(音仲紗良)さんに聞くと「100%米粉、グルテンフリーのフランスパン」だと言う。これまで学芸大学の「スタンドバインミー」や神奈川県の高座渋谷にあるいちょう団地の「バインミー・ヴィエ」など、たくさんのバインミーを食べた。各店とも、オリジナルの具材が工夫されていておいしかったが、そうか!こんな着眼点もあったのか…。
さすが「nuts tokyo」や「マッシュルームトーキョー」、辛口のイタリアンレストランなどで、食の新しい魅力を世に伝え続けてきたサラさんならではのアイデアだし、素晴らしいチャレンジだと思う。
彼女はバインミーの作り方を調べ、試作を重ねる内に、彩りのよさや、野菜、タンパク質、主食をバランスよく摂れそうなルックスの裏にある、色々な問題点に気付いたと言う。
定番の具材であるレバーパテには、通常ラードやマーガリン、乳脂肪がたっぷりと含まれている。もちろん、悪役たちをカットすることでヘルシーにすることは簡単だ。しかし、おいしさの根本だった「コク」も失われてしまう。
閃きと直感の女神、サラさんの新しいチャレンジが始まった。
バインミーという言葉は、もともとサンドイッチの名称ではない。バゲットより少し小さなバタールタイプのフランスパン。バインミーサンドイッチに使われ、五香粉を効かせたベトナム風シチューにも付けられるパンそのものの名前だ。
小麦畑がなかったベトナムには、パン食文化も、パンそのものもなかった。フランス軍によって持ち込まれ、仏印(仏領インドシナ)時代にポピュラーになった。その際、米文化の国らしく米粉が使用され、独特の食感のフランスパンが誕生した。
同じ米文化の国ながら、パンには小麦を使い、麺類にも小麦や蕎麦を使う日本人よりも、ベトナム人たちはより深く米と結びついている。
そんな国から来たサンドイッチなのに、なぜ日本のバインミー専門店には、米粉100%のフランスパンを使う店がないんだろう?
グルテンフリーにすれば、ヴィーガン対応も可能だし、間違いなくヘルシーだ。しかし、チャレンジは容易ではなかった。小麦粉のグルテン質を廃することで、生地は安定せず、なかなかまとまらない。しかも、原価率も上昇して行く。
でも、どうしても日本人の身体にフィットした東京発のバインミーを作りたかった。日本食は毎日食べても飽きないし、たくさん食べて太ることはあっても、身体を壊すことはない。
数々の試作を繰り返し、様々な調味料や具材を試し、主役であるフランスパン完成の日がやって来た。
一切のトランス脂肪酸を含まず、脂質も一般のバインミーに比べて約3分の1に抑えた、「食事=健康」を具現する未来のバインミーの誕生だ。
「スタンダード」は米糀甘酒とカシューナッツでクリーミーなコクとおいしさを実現。ヘルシーなのにおいしい、生まれて初めての味わいのレバーパテに驚かされる。サラさんが追求した「カラダ思いのバインミー」に拍手を送りたい。
パリの追憶を手繰り寄せた「サバカレー」、「スタンダード」のほかにも、五香粉に漬けてチャイニーズフレーバーを加味した「五香粉チャーシュー」もマスト。シーズニングの代わりに、丸大豆100%の豆たまりを使用することで、ヘルシーなアレンジが加えられている。
レモングラス風味の鶏モモ肉とたっぷりの野菜の「レモングラスチキン」、ターメリックで色と香りを付けた木綿豆腐が卵サラダを思わせる「ヴィーガン」もたくさんの人々に笑顔で迎えられるはずだ。今後、続々と登場する「今月のバインミー」にも興味が尽きない。
朝にはヘルシーな1日を始めるための、リーズナブルな「モーニング」も提供する。「自家製ピーナッツバター」は、しっかりローストした千葉半立のピーナッツを皮ごとペーストして、きび砂糖と甜菜糖で優しい甘さをプラス。未だ眠りの森にいる朝の脳を、優しく覚醒させてくれる。
サラさんのお茶目なアイデアが光る「TKB」、卵かけ風バインミーも新しい朝ご飯の定番になりそうだ。米粉100%ならではの純日本風バインミーは、外苑前発の新しいトレンドになるかもしれない。(緊急事態宣言発令に伴い、現在モーニングは自粛中。)
お昼には、お好みのバインミーに、日替わりサイドディッシュとドリンクが付いてくるリーズナブルなランチセットも供される。
リーズナブルと言えば、地域のお客やヘビーユーザーたちに向けたサブスクリプション(定額会員サービス)も、サラさんならではの機智と優しさに溢れたサービスだ。何度か通えば元が取れてしまう価格で、ドリンク飲み放題や毎オーダー100円OFFなど、様々な特典が用意されている。
現在、イギリスでは昼食の定番メニューだったサンドイッチが劇的な進化を遂げていると言う。ダイエットブームや環境保護への意識の高まり、移民増加による需要の変化の中、低カロリーやグルテンフリーを求める時代の嗜好がサンドイッチにも影響しはじめた。
日本でも、テイクアウトフーズの人気で、おにぎりの次に求められるのはお弁当ではなく、サンドイッチ。ワンハンド(手軽)に栄養バランスがいい食事を求める傾向は、日本でも時代の流れになっている。
毎日食べても、食べ飽きない。しかも、身体にも優しい米粉100%のジャパニーズ・ベトナミーズの登場は、日本のテイクアウトフーズの新しい潮流になるはずだ。
4月からはデリバリーサービスも始まった「バインミートーキョー」。時代が待ち望んだ新提案が、東京外苑前からスタートしている。
バインミートーキョー
東京都渋谷区神宮前3-1-25コーポ外苑サイド1F
TEL:070-4142-0868
営業時間:月~金(モーニング)9:00~10:00(自粛中)、(ランチ&テイクアウト)11:30~17:00(ランチL.O.14:30)、(カフェ)15:00~19:00(L.O.18:00)/土・祝 (ランチ&テイクアウト)11:30~18:00(ランチL.O.14:30)、(カフェ)15:00~19:00(L.O.18:00)*4/10よりUber Eats、出前館メニューも随時スタート。4/19より日曜営業もスタートします。
定休日:第一日曜日
https://banhmi-tokyo.com