バッグからジャケットに、ジャケットからバッグに。 「変身=トランスフォーム」するデザインが秀逸!
ナイロン(と思われる)のアウターを着た人が腕を振って、いまにも駆け出しそうなスタイル。アウターの両側からなにやら仕掛けがありそうなストラップが出ている。加賀清一さんのFacebookのタイムラインに、そんな写真が1枚掲載されていた。
加賀さんは、Jipijapa(ヒピハパ)というブランドのデザイナー。彼のコレクションの特徴は“他には絶対にない”、まるで発明品のようなデザインに尽きる。コレクションのたびに、服のデザインやつくりについて加賀さんから直接話を聞いているが、説明を受けてもすぐには理解できないものばかり。ときには型紙を根本から考えてみたり、ときには製法を一から考え直したり……。服の限界、あるいは根源的なことに挑んでいるかのような服づくりに惚れ込んでしまい、出会ってからもう20数年も経つが、ずっと仲良くさせてもらっている。
そんな加賀さんだから、またなにか始めたのかと思い、「これ、なんですか?」とアプリでメッセージを送ると、すぐに「ぜひ見にきてくださいよ」という返事が加賀さんから届いた。
約1週間後、東京の下町にある加賀さんのお洒落なデザインオフィスで見たのは「UCHIGAI JACKET」と名付けられたアウターだ。「UCHIGAI」は漢字で「打飼い」と書き、江戸時代にルーツをもつ服だと加賀さんは力説する。しかし、江戸時代をテーマにしても和服とはまったく違う。
加賀さんによれば、日本人がバッグを持つようになったのは明治時代に信玄袋が流行ってからのこと。それまでの日本人は持ち物を身体から離す習慣がなかった。だから帯などに差し込む財布や煙草入れが江戸時代に発達した。加賀さんは最近、そういった江戸時代の小物の再現にも取り組んでいるが、今回は、その頃の身から離すことのない日本人の習慣そのものをデザインに落とし込み、バッグが一体化したアウターをデザインしたのだ。
しかもそのジャケットは、使わない時にはジャケットからバッグに変身=トランスフォームするという異色のデザイン。もちろんバッグからジャケットに変形するのも簡単。バッグ状態ではショルダーバッグのように使えるし、ジャケット状態では背中下から裾にかけて斜めにバッグの外側が来るようにデザインされている。バッグ部分は靴が入ってしまうくらいの収納力があるが、自転車好きの加賀さんらしい仕掛けではないか。これならばたくさんの荷物を収納できるし、取り出しも容易だ。
実は“変身する”デザインは加賀さんの得意とするところだ。以前、ライダーズジャケットを裏返すと(丈まで伸びて)モッズコートになるジャケット、いやコートをデザインしたことがあるが、そのデザイン=仕掛けには本当にビックリした。最近ではぬいぐるみをひっくり返すとブルゾンになるようなものまでつくっている。遊び心をもって真剣にデザインする、これこそ加賀さんのデザインの真骨頂といえる。
で、肝心のブランドだが、このジャケットは「XINZANXIN」と書いて「しんざんしん」と呼ぶブランドの展開を予定しているという。Jipijapa同様、すぐに読めないところも加賀さんらしいが、ブランド名は「残心(ざんしん)」という日本の武道や芸道で用いられる言葉に由来し、「心が途切れない」という意味をもつと加賀さんは話す。日本の心を残す、つないでいく和のイメージがこのジャケットには込められているのだ。
今回はその考え方をジャケットという形で表現しているが、オフィスには一緒にデザインされた他のアウターやシャツ、Tシャツなども既に出来上がっている。それらを一緒に見れば、このブランドがもつ世界観をより理解することができるだろう。
XINZANXINというブランドの第一弾、UCHIGAI JACKETはコレクションの展開方法も変わっている。「マクアケ」というクラウドファンディングを使って、直接欲しい人に届ける方式での販売を予定しているのだそうだ。既に3月31日から下記のサイトで出資者を募集しているので、興味のある方は一度覗いてみてはどうだろうか。